5 こんにゃくぱっきんの王子様
エイベル=フロス=エイザール王子は御年五歳。
この(五歳)は、ステップフィールド王国の第一王子である。
彼は最近、自分が見る夢の内容に悩んでいた。
「こんにちは、オージ様!」
『……こんにちは』
謎の金髪碧眼の四歳が、毎日のように現れるのである。
一面の草原、整然として舗装された道路、線対称の構図が美しい、整備された庭園。
その中心部のオープンカフェゾーンにいるのは、エイベルと謎の四歳女児だけだ。
エイベルは、今日も今日とて夢の中に現れた四歳児に、内心ガッツポーズをした。
この毎夜現れる不審な少女は、なんというか、めちゃくちゃ可愛い容姿をしているのだ。
ありていに言うと、エイベルの好みど真ん中だったのである。
「オージ様」
『……ぼ、ぼ、僕は、エイベルって言うんだ』
「エイベル?」
『君の名前を、聞いてもいいかな』
「キャサリン!」
『そ、そうか。キャサリン。いい名前だ』
「えへへー」
顔をほころばせるキャサリンに、エイベルの心臓はせわしなく動いている。
今日の目標、彼女の名前を聞き出すところまでは成功した。
大いなる一歩だ。よしよし。僕は優秀だと、エイベルは心の中で自分を鼓舞する。
「あのね。キャシーはいっぱい、オージ様を探したの」
『いっぱい、探した?』
「うん。ゆうしゃキャシーの、たいへんな、たびじだったの。でね。エイベルが、一番、オージ様に似てるから、エイベルに決めたの」
『似てる……?』
「うん。だからね、お願いがあるの」
『お願い』
「うん。キャシーと、こんにゃくぱっきんしてほしいの!」
シーンと静まり返る庭園。
真剣な様子なキャサリン。
エイベルは悩んだ末、直球で聞いた。
『……こんにゃく?』
「うん。キャシーはあっくやくれーじょになるから、エイベルはオージ様になってこんにゃくぱっきんするの」
『僕はもう、王子だよ』
「こんにゃくぱっきんするヒーローのオージ様じゃないと、だめなの」
『こんにゃくって?』
「わかんない」
首をかしげるエイベルに、キャサリンも目線を合わせるべく、同じ方向に首を傾げる。
キャサリンは、お話をするときはしっかり人の目をみましょうとマーガレットに言われているのだ。
しっかり目を合わせるために、首の角度も会わせなければならない。
エイベルが首を戻すと、キャサリンも首を戻す。
エイベルが逆の方向に首を傾げると、キャサリンも逆の方向に首を傾げる……。
二人が無邪気に首を左右に傾げていると、キャサリンが立ち上がった。
「じゃーね、エイベル。お願いね」
『ま、待って! こ、こんにゃくぱっきんしたら、また、僕に会いに来てくれる?』
「うん!」
『そ、そうか。じゃあ、こんにゃくのこと、パパ達に聞いてみる』
ぱああ!と華やぐ笑顔に、エイベルの心臓はさらに動きを速める。
「ありがとう! 今度、シャルも連れてくるね」
『シャル? それは、一体……』
「ありがとう~!」
『ま、待ってくれ! キャサリン……』
そうして目が覚めた、エイベル第一王子(五歳)。
彼は、やってきた乳母のリサリーに、朝の挨拶もそこそこに、尋ねたのだ。
「ねえ、リサリー。こんにゃくぱっきんって、なに?」
首をかしげる乳母に、「またキャサリンに会いたいから、こんにゃくぱっきんを調べてほしい」と言い募る高貴なる五歳児。
彼の言うことを理解できなかったリサリーは、「今度、お父様とお母様に聞いてみましょうね」と、逃げの一手を選んだのである。
なお、エイベルの父と母は、言うまでもなく、このステップフィールド王国の国王と王妃である。




