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新月-saku-  作者: エリゴリ
1/6

第1話


人通りの少ない路地裏。


「やめろぉ……!! あ、……あぁ……」


男の叫び声が響いた直後、辺りは不自然なほど静かになった。


「……?」


青年は足を止め、叫び声のした方へ自然と向かう。

少し開けた空き地。

そこには血まみれで倒れる男と、その上に立つ一人の少女がいた。


「あれ、見られちゃいましたね。」


少女は倒れた男の身体に靴を乗せたまま、青年を見る。

青年は目を見開き、耳にかけていたヘッドホンを外した。


「……何、してるんですか。」


問いかける青年の額には、うっすらと汗が滲んでいる。


「ご覧のとおりです。人を殺めています。」


「……それは、見ればわかります。」


青年はポケットからタバコを取り出し、火をつけた。


「……なんで、そうなったんですか。」


煙を吐き出しながら問う。


「“これ”は、真っ黒だったからです。」


「……僕には、君の方が黒く見えますけど……」


自分を落ち着かせるように、青年はゆっくりと煙を吐く。


「……あなた、随分と落ち着いてますね。」


少女はそう言ってから続けた。


「さっきの話の続きですが、これは真っ黒だったんです。」


“これ”と言い、少女は足元の男を指す。


「……真っ黒……」


意味を待つように、青年はわずかに首を傾けた。


「……大前提として、ぼくは人間ではありません。」


「……は?」


予想外の言葉に、青年は言葉を失う。

少女は気にした様子もなく話を続けた。


「ぼくは、これを消せます。残すも消すも、自由自在です。」


青年を真っ直ぐに見据える。


「あなたは少し面白いので、試しに見せてあげます。」


少女が男に触れ、指先だけで身体を貫いた瞬間、男の姿は跡形もなく消え去った。


「なっ……!?」


青年は目を見開く。

タバコの灰は落ちきらず、長く伸びていたが、気づく余裕はなかった。


「はい、消しました。あなたには“これ”の存在が残っていますが、覚えているのは、あなたとぼくだけです。他の人間は、もう忘れています。」


「……い、意味がわからない……」


青年は視線をさまよわせる。

目の前の光景も、少女の言葉も、どれも現実味がなかった。


「ぼく、それ、好きです。」


少女は唐突に青年のタバコを指差した。


「人間が考えたもので、一番好きです。」


視線を青年に戻し、ゆっくりと言葉を続ける。


「……あなたも、随分と黒いですね。」


値踏みするように青年を見る。


「でも、まだ真っ黒じゃないです。」


「君は……何なんだ……」


「人間の負の遺産。まぁ、ゴミです。ゴミがゴミを消してます。」


淡々と答える少女。


「…ゴミ…?」


青年は眉をひそめる。


「人間の負の感情の掃き溜めから生まれたのが、ぼくです。

自分自身や、他人が向ける感情ですね。物にも負の感情はありますが、それはぼくの仕事じゃないです。」


「……さっき、君に消された人間は、どうなるんだ……」


一つずつ、確認するように問う。


「先程も言いましたが、消えます。この世から。ぼくが消した人間に関する記憶、存在、すべて。」


その言葉に、青年は口の端をわずかに上げた。


「…ゴミ? 死神の間違いじゃないか……?」


「おぉ、それはありがとうございます。でも死神とは恐れ多い。ゴミで結構です。」


少女は真っ直ぐに青年を見て続ける。


「ここまで説明した人間は、初めてです。……信じるんですか。」


「存在が消える、っていうのは……まだよくわからない……でも、あれを見てしまったら……信じるしかないと思う……」


青年は考えるように、ゆっくり口を開く。


「……他の人間も、消せるのか?」


その問いに、少女は初めて、にっこりと笑った。


「消せます。真っ黒なら。黒いだけじゃ足りません。真っ黒じゃないと、手は出しません。」


「……その、真っ黒っていうのは……」


「真っ黒なんです。人間が。ぼくには、そう見えるんです。」


青年は記憶を辿るように視線を動かし、少女を見る。


「……僕は…黒なんだよね……真っ黒になったら、僕は君に消されるのか……?」


「はい。消します。」


短い沈黙の後、青年は口を開いた。


「…面白い…」


「!」


予想外の言葉に、少女は少しだけ目を見開く。


「……へぇ…“面白い”、ですか。」


「消したい人間が、いるんですか?」


青年は、頭の奥にある記憶を思い出すように答えた。


「……いるよ……」


「手伝ってあげましょうか。」


まるで家事を申し出るような軽い口調に、青年は肩を揺らす。

少女は青年を見据えて言った。


「あなたは、面白い人間です。少し、気になります。」


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