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どうせ殺される悪女なので、一〇〇年ほど眠るつもりが『無理矢理』起こされて主人公たちに一生付きまとわれている件。  作者: あしなが


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王室騎士団との交換条件について。





「ただ……どうしても疑問が拭えない点があります。予定より工事を早めたとのことですが、本当に月星祭りの影響でされたことなのでしょうか?」

「何……?」

「だって、これほど大きな祭事ですよ? 整備や強化の仕上がり時期についての懸念や、本番までに起こり得る悪天候の可能性について、誰も想定していなかったなんて……そんなこと有り得ますか? 勝手な憶測で申し訳ありませんが、初めから経費を削減して中途半端に堤防を仕上げたのでは?」

「何故、そのような危険な真似をわざわざ……!」

「魔法師にタダで仕上げさせようと言う魂胆だったのかなって思うのですが、いかがでしょう? だってほら、財源を削減できますし」


 にこやかに続けると、ライリーがはっとしたように目の前の男を見た。


「それに、仕上げを魔法師に頼んだとすれば、今後、災害で何かがあれば魔法師のせいにできるでしょう? 誰もあなたたちが、ケチったことに気づきもしませんし、考えることもしないでしょう。結果、全部魔法師たちのせいなんですから」

「お、お前……」

「だけどその場合、その削減されたお金はどこにいっているんでしょうね」

「……っ」

「私たちに面倒ごとだけ押し付けて、その金でぬくぬくと生活してる人間がいる。それを考えるだけで、私は魔塔の人間として」


 細めた目で彼を見ると、ぐっと唇を噛み締めていた。


「反吐が出そうです」

「っ魔法師とはこのような者ばかりなのか! やはりろくでもないな! そのようなありもしない想像の話で、国民の危険な状況を顧みもしないだなんて!」

「あら、誰も手伝わないとは言っていませんよ?」


 ライリーが「えっ」と目を丸くした。


「ただ、条件があるんです」


 眼鏡の奥から男を見据えると、びくっとほんの少しばかり後退りした。


「月灯花を、通り一面に埋めてください」


 私の要望に、「月灯花?」と男は訝し気な顔をした。


「そう約束していただけるのであれば堤防の件は、私一人で手伝いましょう」

「る、ルーナさん、そんな……」

「お前一人でだと? 本当にそのようなことができるのか……?」

「さあ、どうしますか? その条件以外で、こちらがあなたたちの要求をのむことはありませんが」


 腕を組む私に、ぐっと耐えるようにして「しかし……」と男は拳を握った。


「月灯花は危険な場所に生えている。安いものではない。それに、光を保つことだって難しい……そのような物を沿道に植えたところで、すぐに枯花になってしまうだろう」

「その辺は心配いりません。良い装飾として機能させますから。寧ろ、評判になること間違いないでしょう」

「……」

「で、どうしますか? 選んでください。ちなみに、私はライリーのように優しくもなければ慈悲もないので、断れば本当に手伝いませんよ」

「……っ」


 男は悔しそうに拳を握り締めたあと、「わ……かった」と頷いた。


「しかし、一人で本当に出来ると言うのか? もしも少しでも浸水被害に遭いでもしたら、ただじゃ済まないからな!」


 自分たちのことを棚に上げて、どの口が、とも思うが、もう十分プライドを傷つけただろうし、堤防を意図的に雑に仕上げていたとしても、全てがこの人の責任というところでもないのだろう。


「わかりました。ひとまず、時間もないでしょうしその堤防がある方へ案内をしていただけますか?」

「ちょ、ちょっと待ってください!」


 ライリーが慌てて私の前に回ってきた。


「ルーナさん、一人でだなんて危険です……! やっぱり他の者も呼んで、複数人で対処した方が……」

「心配しなくても、魔塔の皆さんには迷惑なんてかけたくないですし、引き受けたのは私です。面子を潰すようなことはしませんから、安心してください!」


 胸を叩くように告げればライリーは、「そういうことではなく……」と不安そうな眼差しを私に向けた。


 私はそんなライリーを安心させるように「大丈夫ですって」と笑顔で返した。


「ライリー様がいつも褒めてくださる私を信じてください」

「ルーナさん……」

「それでは、行きましょうか。えーっと……あなたの名前はなんでしたっけ?」


 首を傾げると、男はぴくりとこめかみを動かし、「……ガルバス・ダエルだ」と不服そうに名乗った。


「ダエルさん。私は、ルーナ・オルドリッジと申します。これからどうぞ」


 薄っすらと瞼を開いて、首を傾げる。


「よろしくお願いしますね」





 ――と、言いはしたものの。


「っ、ルーナさん、大丈夫そうですか!?」

「ライリー様! はい、まあ! なんとかなりそうです~!」


 箒に乗りながら、ライリーに向かって手を振る。


 眼鏡を雨に濡らしながら、ライリーはこちらをはらはらと見上げていた。


 ……全く。せっかく、ライリーの手を煩わせないようにしたかったのに。


 心配性なのか、何なのか。


 結局見に来てしまっていたら意味がない。ガルバスは案内直後、すぐに戻って行ったのに。


 魔法で土を盛り上げて、石をどしどしと重ねて、繋げていく。


 思ったよりも距離があって、確かにこれは骨を折る作業だと思った。


 一人でやれないこともないけれど、この悪天候でやるには些か面倒臭い。


 まあでもちょっと苦戦するくらいがちょうどいいかもしれない。


 これから先、魔法師が便利道具だと思われても困るしな。


 風が吹いて、私のフードが取れてしまう。


 髪にしとしと雨が降り注いで、レンズに水滴がつく。


 ああ、視界が憚られるのがちょっと面倒だな。


 眼鏡を上げて、どうにか視界を良好に保つために顔付近に雨があまりかからないように魔法をかける。


 ……それにしても、この魔法が扱いにくさ。


 いつになったら慣れるのだろう。


 はあ、と溜息を吐いて、さらに上空に浮き上がる。


 ささっと終わらせよう、と石を浮かそうとした瞬間。


 遠くの方に合羽を羽織ったような小さな姿が見えた。


 合羽のせいであまりよく見えない、と思った瞬間、突風が吹いて、そのフードが背中側へ流れるように外れていた。


 雨に打たれて、微かに銀色の髪が揺れ動く。


 あれは……ルスエル? どうしてここに……。


 ライリーを見ると、彼は何も気づいてなさそうな顔でこちらを見上げている。


 外はこんなにも大荒れで、川は今にも氾濫しそうだからと、王室騎士団がわざわざ魔法師に頼みに来るほど急を要している事態だ。


 それなのに、こんな危険な場所に、一体誰がルスエルを……。







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