9.鍛冶屋と喧嘩
満腹亭の1階に向かうと、先ほど案内してくれたウエイトレスが食堂の椅子で寛いでいる。店内に客はいないようだ。時刻は16時、ちょうど暇な時間帯なのだろう。ユイはふらふらと客のいない店内を見てまわっている。
「休憩中お邪魔してすいません、ここら辺で腕のいい武器屋知りませんか?」
「ああ? さっきの初々しいカップルかい。上手くいったかい? ひひっ」
(この人なんでこんなにオヤジ臭いんだろう)
ウエイトレスの見た目は20代、ソバカスがあるけど顔立ちは整ってる。化粧さえすればそれなりに美人になるはずなのに、完全スッピンで中身オヤジの残念美人だ。
「疲れてたのですぐに仮眠してしまいましたよ。それで武器屋知りません?」
「ん…」
(なんだ? 握手?)
ウエイトレスは手を出してくる。俺が首を傾げてるとさらに手を出してくる。
「チップだよ、チップ! 教えて欲しければチップくれよ」
「あ、はい」
(こういうところでも日本とのギャップを激しく感じるな)
俺はウエイトレスの手に銅貨を1枚置いた。
「銅貨かよ、しけてんなー。ここらで腕がいいのは土精族のゴメスがやってる鍛冶屋だ、ここから5,6分の場所にある。詳しい場所知りたければチップ追加だ」
俺はウエイトレスの手にさらに銅貨を1枚置いた。
「冒険者ギルドの場所知ってるか? そこの裏に行けばすぐわかる。冒険者ギルド推薦の初心者からベテランまで使える店だ」
「ありがとうございました。ユイ、行こう」
(ていうか冒険者ギルドで聞けばチップなんていらない情報じゃないか? この人がめつい)
微妙に納得できない気分になりながら、ユイに話しかけ、ユイの方を向く。ユイはスライムと遊んでいた。
(何でこんな場所にモンスターが!?)
「ユイ、大丈夫か!?」
「ハヤト、大丈夫だよ。このスライム大人しいし」
「そ、そっか。何でここにスライムが?」
「あんた掃除スライム知らないのか? どんな田舎から来たんだよ。店内の掃除や食べ残しを片付けるスライムだ。飲食店ならどこにでもいるだろ?」
「そうなんですね…。ど田舎から来たので知りませんでした」
(こうして見るとスライムかわいいな、プルプルしてる)
俺はユイと共にスライムをツンツンいじって遊んでからゴメスの鍛冶屋へ向かう。
冒険者ギルドの脇にある細い道を通り、ギルド裏に出ると職人地区のような場所が広がってる。でかい木製の看板がそれぞれの店についている。鍛冶屋ゴメスと言う看板がすぐに見つかったので中に入ることにした。
店は黒いレンガみたいなものを積み立てて出来ている。それなりに広い店内に様々な武器が立てかけてあり、その武器を見ている冒険者らしき人も4人ほどいる。店の奥からはカンカンカンカンと言う鉄を打つような音が聞こえてくる。
俺はカウンターにいる120センチほどしか身長がない子供店員に声をかけた。
「剣が欲しいんですけど、初心者お勧めのってありますか?」
「初心者お勧め? 値段が安いのが欲しければ銅の剣か鉄の剣あたりだな。そっちに立てかけてあるのを見てくれ」
「はい」
俺は子供店員の指さした方にある剣を見に行く。立てかけてある剣にそれぞれ鑑定をかける。
【銅の剣】
ガリアス作の銅製の剣
【耐久】1,254/1,254
【攻撃力】3
【価値】21,382
値札:銀貨3
【鉄の剣】
ガリアス作の鉄製の剣
【耐久】1,866/1,866
【攻撃力】5
【価値】59,690
値札:大銀貨1
【鋼鉄の剣】
クミル作の鋼鉄製の剣
【耐久】4,504/4,504
【攻撃力】12
【価値】580,287
値札:大銀貨5
【鋼鉄の剣】
クミル作の鋼鉄製の剣
【耐久】4,329/4,329
【攻撃力】11
【価値】476,167
値札:大銀貨5
「ハヤト、どれにするの?」
「今の手持ちのお金で買える武器で一番いいのがこの鋼鉄の剣かな」
俺は価値の高い方の鋼鉄の剣を指差した。
「それじゃとりあえずそれ買おう! 後で古物商でデクス金貨売ってからまた買いなおせばいいよ」
「うん、そうしよう」
俺は立てかけてある剣を両手で持つ。
(あれ? 凄く軽い。金属製だから何十キロもあると思ったんだけどおかしいな。これなら片手で余裕だ)
俺が首を傾げているのを見てユイが笑っている。
「ジョブ取得でステータスの力が上がった効果だよ。実感ないかもだけど、ハヤトは凄い力持ちになってるんだよ。手加減覚えないといけないくらい」
「なるほどねー…」
(知らないうちに本当に人間やめそうになってないか!?)
今まで全く実感がなかった人外入門の称号が頭によぎった。下手に喧嘩したら相手を殺してしまうかもしれない。背筋が寒くなる。
「大丈夫?」
「うん、武器清算してくるな」
ユイに心配させるわけにはいかないので、すぐに気持ちを切り替えてカウンターに向かう。
「これください」
「大銀貨5枚だ」
子供店員に銀貨50枚で支払いを済ませ、店の外に出る。
「すぐ近くにあるし今からギルドいかない? ハヤト今は力持て余してる状態だし、ステータスについて勉強したり、体を慣らしたほうがいいよ。ギルドなら練習場やステータスについての本があるんじゃないかな?」
「うん、そうするよ」
俺たちはすぐ近くにある冒険者ギルドに入る。依頼帰りなのだろう、それなりの人数の冒険者がカウンターや酒場にいる。
ギルド入り口近くはとても汗臭くなっており、鼻を摘みたくなる気持ちをグッと我慢しながら、俺たちはカウンターに並んだ。
(ステータスがどういう効果があるのか詳しく知りたい。体の動きの調節もしないといけないな)
俺がカウンターに並びながら考えにふけっていると、いきなり顔の横から肌色の何かが来るのが目の端によぎった。顔に衝撃が走り頭の方から横に吹き飛ぶ。1メートルほど吹き飛んだ後、横倒しになっている自分の姿に気づいた。
「ハヤト!」
(いきなり何だ!? 俺殴られたのか!? 何故?)
混乱状態で寝たまま状況を確認する。どうやら殴られたようだが、大したダメージはない。ユイが俺の側に来て心配そうにしている。俺が先ほど並んでいた位置にはニヤニヤしている冒険者らしき男たち3人組がいて、こちらを見下ろしている。
「よう、色男。お前の連れてる女は俺と付き合いたいってよ」
「ギャハハ、お前いきなり殴るとかマジ鬼畜じゃん。あいつ目を白黒させてるぜ」
頭を剃りあげたゴリラみたいな顔をしている冒険者が調子に乗っている。おそらくこいつが俺を殴った奴だろう。
(ユイに目を付けて一緒にいる男の俺が邪魔だから殴ったってことか)
「あいつらまた新人イジメしてるぞ」
「連れの女の子すげーかわいいし、助けに入ってやるか? お礼にやらせてくれるかもよ?」
「それいいな。男がやられたら颯爽と助けてやろうぜ」
「あんたたち最低ね! 助けるなら今助けてあげればいいでしょ」
「ヤダよ、めんどくさい」
外野が勝手なことを言いながら、俺たちを囲むように移動する。人壁の即席リングが出来上がった。俺は急速に頭に血が昇るのを感じながら起き上がり、冒険者を睨む。
(絶対ぶっ飛ばす)
「おー、カッコいい。あの兄ちゃんやる気だぜ?」
「顔も私好みだわ。これで強かったら唾つけちゃお」
「おいおい、自分の面見て言えよ」
「失礼ね! アナタのブサイク面を2度と見れない面にしてあげようかしら!?」
外野の盛り上がりが凄い。イベント扱いなのだろう。
「やる気かよ? 見かけない顔だし新人だろ? 先輩がやさしーく教えてやるよ! 授業料はそっちの女だけどな」
「ギャハハ、俺たちにもまわせよな。皆で楽しもうぜー」
「あんたみたいなゴミにハヤトが負けるわけないでしょ!! その子鬼みたいな顔を整形してから出直してきなよ! それでもハヤトの足元にも及ばないけどね!」
「て、てめえええええ。女だからって優しくされるとは思うなよ!!」
「俺と戦うのが先だろ? 口だけ野郎。さっさと来いよ。それともゴリラ並の知能しかないから人の言葉が理解できないのか?」
俺が指と口で挑発すると、絡んできている冒険者の顔が怒りで茹蛸のように真っ赤になる。
「ブッ、たしかにデフル、モンスターのマウンテンゴリラに似てるわ。上手いこというなあいつ」
「ヒュー、あの姉ちゃんも言うね!」
「さっさとやれー!!」
外野の声に押されたのか、茹蛸になったデフルが突っ込んでくる。
(あれ? 何か凄く遅く感じる)
俺はデフルの攻撃を目で見ながら紙一重でかわし、カウンターでデフルの顎を殴る。バキバキバキッと顎の骨が砕ける音がしてデフルは吹っ飛んでいく。
(おいおいおいおい! 明らかにやりすぎた!? 死んでないよな?)
殺してしまったかと思って、俺は顔が真っ青になるのを感じながら、デフルの容態を確認しに行く。ピクピクしてるが生きてるようだ。自動で鑑定が発動してしまった。
【名前】デフル
【称号】なし
【種族】人族
【職業】冒険者
【ジョブ】師範代
【レベル】23
【スキル】
レベル上昇時体力成長+3、格闘術レベル2
【魔法】
なし
【その他】
格闘時体力+9
【ステータス】
HP(5/103)MP(8/8)
力52体力85(+18)魔力8素早さ52(+9)器用44運15
【装備】
暴れ馬のグローブ(×2)
暴れ馬の革兜
暴れ馬の革鎧
暴れ馬の革ズボン
暴れ馬の革ブーツ
暴れ馬の革グラブ
(完全に顎の骨が粉々になってる。これは一生流動食コースだ…。やばい、逮捕されるかも)
俺がやってしまったことの大きさに戦慄していると、呆然で時が止まったような状況になっていた外野からドッと大きな歓声が上がった。
「すげー!! 何今の!? 動き見えなかったんだけど!」
「俺も全く見えなかった。何今の? かわしてカウンターいれたの? パンチ見えなかったけど」
「キャアーーーーッ! カッコいい!!抱いて!!」
「新人…だよな? 誰か知ってる奴いないのか?」
「ていうかデフルの奴生きてるのか? ピクピクしてるけど誰か回復魔法してやれよ」
「イヤだよ。放っておいても死にはしないし、自業自得だろ。しばらく放置されてればいいんじゃね」
(逮捕はされなそうかな? 日本と常識が違いすぎて困るな)
俺は残り2人の冒険者の方を向く。青い顔をしてこちらを見ている。戦意喪失しているようだ。
(これで終わりかな?)
「かかってこないのか?」
「て、てめえええええ、デフルをやった位でいい気になってんじゃねーぞ!」
「今日は見逃してやるが絶対に後で殺してやる!!」
捨て台詞を残しながら意識がないデフルを担ぎ、2人はギルドの外に逃げ去っていった。
「ハヤト、私のために戦ってくれてありがとう」
ユイが上目遣いで見つめてくる。
(マジでかわいい、天使のようだ)
「俺がユイのために戦うのはいつものことだろ?」
「うん、でも嬉しかったから」
ニッコリと笑っているユイのかわいさに心の中で身もだえしていると肩を叩かれた。ベテラン冒険者の30代男に見える。
「よう、デフルをワンパンとかすごいな。俺はラルフ、Cランク冒険者だ。良かったら一緒にパーティー組まないか?」
「おい、ラルフ。抜け駆けすんな! そいつは俺たちのパーティーに入るって決まってるんだよ」
「おいおい、お前誰かも知らないってさっき言ってたじゃねーか」
何も返事しないうちに俺がどこのパーティーに所属するか、取り合いが始まってしまった。
(一度も依頼受けてないのにパーティー入るのはちょっとな)
「すいません、俺まだ今日登録したばかりのGランクなのでパーティーは考えてないんです」
「えええええええーっ!! Gランク?? あんなに強いのに? 嘘だろ」
「こんな奴が子鬼退治とかしたら、子鬼全滅するんじゃね?」
(今の自分の強さがこの世界でどの程度なのか、いまいちわからないんだよな。騒がれるってことはきっとかなり強い方なんだろうけど。色んな人を鑑定するべきかもな)
「というわけで、ちょっと通してください。ギルドで勉強したいので」
「あ、ああ。頑張ってな」
「名前だけでも教えてくれ!」
「パーティーに入らなくてもいいから私とデートしてー!!」
「ハヤト、私ちょっとお手洗い行って来るね。1人で色々試していて?」
「ああ、わかった」
俺は後ろからの声を無視して誰も並んでいないカウンターに向かうのだった。




