8.ユイの思い出と身分証
Side by ユイ――
ハヤトは行為が終わって少ししたらすぐに眠ってしまった。
(今日は色々なことがあったんだもん。仕方ないよね)
私はハヤトの顔をじっと眺めている。ハヤトの顔を見ているだけで気持ちが穏やかになっていく。ハヤトのサラサラとした黒髪を撫でると幸せな気持ちになる。
(私は本当にハヤトのことが大好きなんだなー、こんなに私が好きだってこと、ハヤトはわかってくれているのかな?)
私がハヤトを意識したのは6歳の時のことだ。
幼稚園に通っていた頃、私は今と違ってとても体が弱い子供だった。お父さんが言うには神族の力に幼い私は耐えられないかららしい。
すぐに熱を出す私は周りの子供たちには面倒な子だと思われていたのだろう、徐々に誰も遊んでくれなくなっていった。ハヤトはそんな私をいつもかまってくれて、遊んでくれるただ1人の子供だった。
私たちは小学生になった。その時には私たちが通っていた幼稚園以外からも入学する子供たちがいて、体の弱い私はイジメの対象になっていった。
当事ハヤトとは別のクラスで、本当にあの時は辛くて毎日家で泣いていたと思う。でも1ヶ月もしないうちにハヤトが気づいて、私をいじめている現場に現れたと思ったらイジメっ子たちをやっつけちゃったんだ。その時私はハヤトに恋をしたんだと思う。まるでテレビで見たヒーローみたいに思えたんだ。
イジメはすぐにはなくならなかったけど、ハヤトが助けに何回も来てくれるから、イジメっ子たちも私をいじめると痛い目にあうと思ったのだろう。徐々になくなっていった。
私は7歳の時、お母さんにハヤトと結婚したいって相談した。お母さんは笑いながら「結婚するなら婚約指輪が必要ね」と教えてくれたので、昔お母さんにもらったお守りの指輪を内緒でハヤトにあげちゃった。すぐにお母さんにばれて凄く怒られたけど、お母さんは違う指輪をまたくれた。同じ指輪を持ってるなんてハヤトと結婚したみたいって思って本当にうれしかった。
私たちは中学生になった。その頃には私も健康になっていて、お父さんと一緒に休日に異世界巡りをしていた。周りからも綺麗だとかかわいいとか言われるようになっていたし、色んな男の子や何故か女の子にも告白されたけど、私にはハヤトしか見えなかった。
ハヤトはどんどん格好良くなっていく。私の友達の女の子がハヤトを見て騒いでいるのを見るのは凄く嫌だった。だから友達には内緒だよって言って私がハヤトと付き合っていることにしちゃった。女子の間では噂になってたけど、ハヤトは気づいてなかったようだ。
私たちは高校生になった。ハヤトはとても頭が良くて、ハヤトの志望校をきいた時には私の頭の中が真っ白になったのを覚えている。必死に努力した結果、何とか同じ高校に受かることができたんだ。
中学の時の友達とは別の学校になってしまったせいか、新しい環境に戸惑っているうちに、ハヤトに告白する女性が何人か現れた。私は気が気ではなかったけど、ハヤトは今は恋人を作る気がないらしく、入学後すぐに大学進学に向けて勉強を頑張っていた。凄くホッとしたのを覚えている。
私も高校で何度も告白されたけど、正直鬱陶しいだけだった。力尽くで私に言うことを聞かせようとしてきた暴漢もいたけど、去勢して記憶消去しておいた。
無事に私もハヤトの第一希望と同じ大学の文学部に先に合格することができた。本当はハヤトと同じ薬学部に行きたかったけど、勉強があまり得意でない私には難しかった。そもそも私はハヤトと違って文系だ。
実はハヤトの合格発表の日に先にインターネットでハヤトが受かっていることは確認していたので、一緒の大学に通えることでうれしさを隠すのに必死だった。
ハヤトは合格発表の場で初めて私を抱きしめてくれた。そして、告白してくれた。あまりの嬉しさに足が震えて気絶しそうになる。周りの人が冷やかしてきたけど、どうでも良かった。でもハヤトと一緒になるためには私が神族だと言うことを打ち明けなければいけない。すぐにでも返事がしたかったけど保留させてもらう。先に両親の説得をしないといけないからね。
私がハヤトと結婚したいと両親に告げると、やっぱり反対された。寿命が違うだの、子供ができないだの、私にとってはどうでもいいことだ。でもお父さんはどうしても許せないらしい。だから私はハヤトも神族にしちゃえばいいでしょ! と言ってしまった。お父さんはあんぐりと口をあけ呆然としていた。その後はお母さんの取り成しでハヤト神族化計画が考えられた。
ハヤトも神族になってくれるというので、お父さんの力で早速私たちは異世界に移動する。凄く戸惑っているハヤトの姿が珍しくてかわいかった。
(でもこれからはずっと一緒にいられるね。ハヤトに私の初めて貰って貰えなかったのは凄く残念だけど)
私は自分の力で破いてしまえば、最後まで出来るのにと一瞬頭によぎったが首を振る。やっぱり初めてはハヤトに捧げたいのだ。
(ハヤトのこと考えてたらびしょびしょになってる)
寝ているハヤトを見ながら昔のことを考えていたからだろう。興奮してしまったみたいだ。私は寝ているハヤトを起こさないように気をつけながら1人で慰める。
「んっ…んっ、ハヤト、んっ」
ハヤトが寝返りを打つ。起きたらどうしよう、見られたらどうしようとか思っていると余計に興奮してくる。
「んっ、んっ、んーーーーっ、ハァ、ハァ」
ハヤトに最後まで気づかれなかったことに安堵しながら、窓を開け換気をし新しい下着をアイテムボックスから出して着替え、清潔魔法で体と服の汚れも落とす。
(寒い季節じゃなくて良かった)
私はハヤトの眠っているベッドでハヤトの匂いを嗅ぎながら少し仮眠を取ることにした。
――Side by ユイ End
(何でこんなことになってる!?)
俺は凄く困っている。何か音がするなと思って目が覚めたが、俺の名前を呼ぶユイの擦れたような声がする。まさかと思いながら寝返りを打った振りをして音の方を向き、薄目をあけるとユイが自分を慰めていたのだ。
(女の子にもそういう欲もあるよな。うん。これは正常なことだ)
俺は必死に心を落ち着かせようとするが、息子はすでに臨戦態勢だ。
(さっきユイにしてもらったばかりだって言うのに俺って奴は…)
俺がユイの行為に気づいていることを知ったら、ユイは居たたまれなくなって泣き出してしまうかもしれない。もし逆の立場だったら気まずさで俺は部屋から飛び出してしまいだろう。
何時間にも感じる長い長い時間を寝た振りで耐えていると、ユイは一際大きな声で鳴き、息を整え始めた。
(終わったのか…、この生殺し感半端ないわー)
俺が終わったことに安堵していると、ユイが窓を開け、着替えている音がする。証拠隠滅しているようだ。
(証拠隠滅してくれてある意味助かった。このまま知らない振りをしよう)
そう思っていると今度はユイが俺のベッドに入ってくる。俺の首後ろのあたりに顔を埋めて軽く抱きついてくる。ユイの艶やかな青みがかった黒髪が首筋に当たり少しくすぐったいし、甘くて本能を刺激されるいい匂いがする。
(ユイさーーん!! 俺の理性が限界ですよーー!)
心の中で絶叫しているとユイは寝息を立て始める。俺は理性の限界に次ぐ限界に挑戦しながら、ユイが目覚める時まで長い試練が始まるのだった。
ユイが目覚めたのはそれから2時間ほど立ってかららしい。らしいと言うのは俺の体感時間が何倍にも感じられたからだ。ユイが起きた時には疲労困憊だった。
「何でハヤト、そんなに疲れてるの? 私寝相悪かった?」
「違うって。起きたらユイが俺に抱きついて寝ていたから、ユイを起こさないように気を使っていたんだよ。それでちょっと体勢が辛かったんだ」
(正直に言えるわけないだろーー!!)
「ごめんね! 私のために頑張ってくれてありがとう」
ユイの眩しい笑顔を見ただけで、全てを許せる気になってしまう俺はダメなのだろう。
「ユイが寝てたのは2時間位って言ってたけど、今何時だ? 時計持ってないのがめちゃくちゃ不便だな」
「今は16時くらいかな、これから武器買いに行こうよ。冒険者やるなら武器ないとね!」
「あー、そういえば武器買わないといけないんだな。明日は初戦闘することになるのかな、少し緊張するな」
(同い年くらいの相手との喧嘩なら何度かしたことあるけど、殺し合いは全く別物だろうしな)
「ハヤトなら大丈夫だよ! 慣れるまで私が完全にサポートしてあげるから」
ユイがフンスと気合をいれている。情けないところは絶対に見せられない。
「それじゃ早速買いに行こうか、場所はウエイトレスの人かギルドの受付にでも聞けばいいかな」
「あ、その前にハヤトのギルドカード貸して?」
「ああ、コピー試すのか」
ユイに自分のギルドカードを渡す。ユイが何事かを呟くと、ギルドカードが分裂した。
「上手くいったか?」
そのカードを鑑定してみる。
【ハヤトのギルドカード】
古代の遺物を使用して作成されたカード。材質は空気中に存在している魔力を固めた物。使用者のステータスを読み取り自動で更新される。
【耐久】1,924/1,924
【価値】32,298
2枚とも同じように表示される。
「今のは模倣魔法だよ、これから改竄魔法で私用カードに改竄を試すんだ」
ユイはまた何事か呟くと、ギルドカードがグニャグニャと形を変え、数秒ほどで元のギルドカードの形に戻った。鑑定してみる。
【ユイのギルドカード】
古代の遺物を使用して作成されたカード。材質は空気中に存在している魔力を固めた物。使用者のステータスを読み取り自動で更新される。
【耐久】1,924/1,924
【価値】32,298
「上手くいったみたいだな?」
「うんうん、ステータスの表示もちゃんと出てるよ、一般人よりちょっと強いかなって程度に今は表示してる」
「身分証もなんとかなったし移動しようか」
「了解ー!」
俺たちは満腹亭1階に向かった。