4.通貨と街の入り口
街に入るために門に並んでいる行列の最後尾に俺たちも並ぶ。
「そういえばこの世界の通貨とか持ってきてるのか? 街に行ってもお金ないと何も出来ないよな」
「うん、お父さんに金貨1000枚位貰ってきたよ」
ユイが何もない空間から皮袋を出した。アイテムボックスのスキルを使ったのだろう。ジャラジャラ鳴る皮袋の中身を見ると金貨が何十枚か入っている。俺はなんとなく金貨を鑑定した。
【デクス金貨】
古代に栄えたデクス帝国で使用された金貨。骨董的価値がある。
【耐久】1,283/1,283
【価値】3,934,237
「この金貨鑑定したら古代に栄えたデクス帝国で使用された金貨って出るんだけど、タケルさんから貰った金貨3000年以上前の物じゃないか? 使えるのか?」
「…………どうしようか?」
ユイもそこまで考えていなかったらしい。俺も少し悩んだがアイデアが閃いた。
「前に並んでる人商人っぽいし、あの人に買ってもらおうよ。金貨1枚だけ買い叩かれてもいいからさ」
「そうだね。ハヤトにまかせる!」
俺はユイからデクス金貨を1枚受け取り、前に並んでいる馬車の横にいる商人らしい40代男性に話しかけることにする。
(異世界言語スキルはパッシブなのかアクティブなのかわからないな。とりあえず念じてから行こう)
「こんにちは、商人の方ですよね?」
「こんにちは、ええ、私は商人をやっておりますが何か?」
(良かった。ちゃんと話は通じてるみたいだ)
男は俺の格好をジロジロ見てくる。俺の服装が珍しいのだろう。
「こちらの金貨の買取していただけませんか?」
俺がデクス金貨を差し出すと商人は金貨をじっと眺めている。贋金だと思われているのかもしれない。
「これは古代の金貨ですか? 一体どこで手に入れたもので? 素晴らしい彫金技術ですね」
「入手場所は秘密です。犯罪とは全く関係ないのでご安心ください」
そう言われてもいきなり見知らぬ他人から金貨売却話を持ち込まれても不安なのだろう、商人の目は訝しげに見える。
「ご不安でしたら、信用できる方立会いでの取引でもいいですよ」
「いえ、そこまでして頂かなくても結構です。ただ、私ども両替商や古物商ではありませんので、高値での買い取りは出来ませんがそれでよろしいので?」
(第3者立会いとか面倒ごとの匂いがするからな。提案したはいいけど断ってくれて本当に助かった)
商人も金貨を買うか悩んでいるのだろう、安値で買い叩けるなら購入しようと思っているのが透けて見える。俺たちは買い叩かれても構わない、使える通貨が欲しいのだから。
「多少安値でも構いませんよ。実は財布を落としてしまって、大事に抱えていたこの金貨しか今手持ちがないのですよ」
「そういうことでしたか。では金貨1枚と交換で如何ですか? そちらの金貨が本物か確認できれば交換させてもらいます」
「ええ、それで結構です。どうぞご確認ください」
商人は馬車の中から秤を出して金貨とデクス金貨を両側に乗せる。デクス金貨は普通の金貨の2倍ほどの重量があるようだ。商人の目の奥が笑っている。利益の大きさを考えてるのだろう。
「本物と確認できました。ではこちらの金貨お納めください」
俺は受け取った金貨に鑑定をかける。
【クロス金貨】
クロス王国で使用されている金貨
【耐久】783/783
【価値】1,000,000
(価値がデクス金貨の約4分の1か。商人の男の目が喜びを隠せないわけだ)
「すいません、手持ちの通貨がないので、よろしければ両替もお願いできませんか?」
「ええ、こちらも儲けさせていただきましたし構いませんよ。銀貨90枚大銅貨90枚銅貨100枚でよろしいでしょうか?」
「はい。お願いします」
俺は受け取った通貨それぞれに鑑定をかける。
【クロス銀貨】
クロス王国で使用されている銀貨
【耐久】822/825
【価値】10,000
【クロス大銅貨】
クロス王国で使用されている大銅貨
【耐久】855/857
【価値】1,000
【クロス銅貨】
クロス王国で使用されている銅貨
【耐久】843/844
【価値】100
(金貨=銀貨百枚=大銅貨千枚=銅貨1万枚=価値100万ってところか)
「ありがとうございました、助かりました」
「いえいえ、こちらこそありがとうございました」
俺は商人にお礼を言ってユイの場所へ戻る。
「デクス金貨売れた?」
「うん、安く売っちゃったけど両替もしてもらったよ」
ジャラジャラと皮袋に入った通貨をユイに見せる。
「通貨を鑑定してわかったけど、この国はクロス王国って言うらしいよ」
「へ~。この街は何て言う街なんだろう」
「鑑定で色々調べればわかるかもね」
俺は街の壁に鑑定をかける。
【ライラの街防壁】
ライラの街の防壁、土魔法で作成されている。
【耐久】389,287/409,287
【価値】2,387,987,371
「ここはライラの街だね。防壁鑑定すればわかるよ」
「本当だ、ライラの街防壁って書いてある。地理を知るために鑑定使えるなんて初めて知ったよ」
「俺が鑑定初心者だから気づきやすいのかもね」
(ユイより弱くても俺が役に立てることもあるのかもしれないな)
「この通貨はハヤトが管理してくれていいよ」
「わかった。今度はアイテムボックス使ってみるか」
俺はアイテムボックスを使うために頭の中で念じる。半径10センチほどの異空間への穴が開いたように見える。奥をのぞいても真っ暗で何も見えない。
「ユイ、アイテムボックス開く時の穴って誰でも使えるの?」
「使えないよー。使った人しか見えないから、私にもハヤトの開いた異空間への穴は見えてないよ」
「そっか」
俺は異空間への穴に通貨の入った袋を入れる。穴に入れる瞬間、袋が穴に吸い込まれるように入っていく。小さなブラックホールみたいだなと感じた。
「どうやってアイテムボックスに入れたアイテム出すんだ?」
「異空間開いて手を突っ込んで欲しいアイテムを念じるの。中に入れたアイテム忘れちゃうと取り出せなくなるから注意だよ。それ用のメモ帳用意しておくといいよ、私も使ってる。ハヤトにもメモ帳とペン1つずつあげるね」
「ありがとう、俺もそうするよ」
ユイがアイテムボックスから出したメモ帳とペンを貰い、自分のアイテムボックスに突っ込んだ。そして、自分の手を異空間に突っ込んで出し入れの練習をする。袋の中に入った通貨だけを取り出すこともできるようだ。
「アイテムボックスってこの世界の人には一般的なの?」
「ハヤトが貰ったスキルはどれもあまり一般的じゃないよ。お父さんやお母さんが平凡なスキルくれるわけないじゃない」
「そういえば皆神族だもんな……、こんな人がいるところで使っちゃって大丈夫だったのか?」
「周囲に認識阻害の結界張ってあるから大丈夫だよ」
「な、なるほど」
(ユイもやっぱり神族なんだなー、規格外だ)
俺たちが色々試しながら歩いているうちに、門近くまで進んでいた。スマホで時間を確認するとまだ15時だ。空を見上げると太陽が上空に見える。
(そもそもスマホの表示時間とこの世界の時間違いそうだけど。この世界の時計欲しいな)
「太陽が上空にあるけど、宇宙ないんじゃないのか?」
「あれ太陽じゃないよ。お父さんが作った電灯みたいなもので、この世界の6時から18時まで点いてるんだって。夜は月明りのような光に切り替わるらしいよ」
「…へ~」
もう突っ込まない。突っ込んだら負けな気がした。
「今の時間わかるの?」
「お父さんに時計貰ってきたからね! 私の腕時計がそうだよ。今午前10時くらいだね」
(スマホ使えないなー、ネットにもつながらないし時計代わりにもならない)
俺は愛用していたスマホをアイテムボックスに突っ込んだ。
「次の方どうぞー」
そんなことをしているうちに俺たちの番が来たようだ。門のところで兵士らしき人たちが2人組みで列の整理をしている。
「身分証を見せてください」
(いきなり詰んだか!?)
「……身分証ないのですが、街に入れませんか?」
「それではこの石版に手を置いてください」
兵士に言われるまま、俺はタブレットサイズの石版に手を置く。するとその石版に青い魔法陣が浮かび上がり、5秒ほどで消えた。
「犯罪者ではないようですね。身分証がないのでしたら入街料として1人銀貨1枚頂きます」
「それでは後ろにいる女性と2人分の銀貨2枚お支払いします」
この石版で犯罪者かどうか調べるのか、どういう原理で動いているのか気になるな。そう思っていたら自動で鑑定が発動してしまった。
【断罪の石版】
罪を犯した者を裁く石版。カルマ値が0以下の者には青い魔法陣、カルマ値が1以上の者には赤い魔法陣が出現する。カルマ値に応じた生命力を吸い取る。
【耐久】1,247/1,247
【価値】23,498
(怖い石版だな。カルマって言ったら確か罪悪とかそういう意味だったはず。その数値が高いと犯罪者ってことか)
俺はポケットから出す振りをしつつ、アイテムボックスから銀貨を取り出し、兵士に支払う。ユイも石版で確認された後やってきた。
「問題なく入れてよかったね!」
「いきなり身分証提示求められた時は詰んだかと思ったよ」
「あはは、そうだねー」
俺たちはライラの街の中に入っていった。