3.異世界と鑑定
(俺夢見てるわけじゃないよなー)
自分の頬をつねったり、周囲の匂いを嗅いだり、草の感触を確かめたりと色々してみるが夢のようには思えない。頬はつねれば痛いし、青草のような匂いはするし、草の感触はリアルなのだ。
(外なのに寒くない。季節も違うか?)
「ユイ、ここがどこかわかるか?」
いつの間にかついていた平原を見渡しながら、俺よりこの状況を理解しているだろうユイに聞いた。
「ここはこの世界の中央にある大陸にある平原だよ。私が知っているこの世界のこと簡単に説明するね!」
「うん、よろしく」
「この世界はお父さんがずーっと昔に作った世界なんだって」
「…………」
最初から突っ込みどころ満載になりそうだった。もうどんな話でもまずは信じよう、すでに俺は諦めの境地に達していた。
「それで、作ったはいいけど飽きて3000年くらい放置してる世界なんだって」
「…………タケルさんって何歳? 最近42歳になったって前聞いた覚えがあるんだけど」
どうしても突っ込まずにはいられなかった。諦めの境地に達していたと思っていたがまだまだだったらしい。
「42歳は嘘だよ。周囲の人に不審に思われないようにしているだけ。何十年かに一回私たちに関する記憶操作の魔法使って、周辺住民から変に思われないようにしているらしいよ。お役所の書類とかも時々忍び込んで改ざんしてるんだって。私もお父さんの正確な年齢知らない。あ、私はハヤトと同じ18歳だから安心してね!」
「そうか…」
詳しく聞けば聞くほど後悔しそうだった。俺の常識はガラガラ崩れっぱなしになっている。
「それで話を戻すけど、この世界は地球と違って球形でもないし宇宙もない、箱庭世界なんだよ。総面積は地球と同じくらいあるらしいけど」
「ふむふむ」
「中央にある大きな円形の大陸と、東西南北に四角形の大陸がそれぞれあって、北西、北東、南西、南東それぞれに三角形の大陸があるらしいの」
「本当に適当に作った世界って感じだね。宇宙がないって言ってたけど上ってどうなってるの? 後、世界の端はどうなってるの?」
「上空何メートルかまでは知らないけど、ずーっと上まで行くと結界が張ってあって出られないよ。世界の端も同じになってる。地下方面も多分同じ」
「なるほど、本当に箱庭なんだね」
「私が知ってるのはそれくらいかな?」
(タケルさんは自分の作った世界だから俺たちを移動させられたのかな。でも信仰を集めやすいってどういう意味だろう)
「人里の場所とかわかる?」
「お父さんも3000年以上放置している世界だからねー、私も全然わからないんだ。ごめんね」
「てことは俺たちいきなり迷子か。タケルさんのことだから人里近くに移動させてくれてるとは思うんだけど、どうやって探そうか」
「私のスキル千里眼で探してみるよ。少しだけ待ってて!」
「わかった。ありがとう」
俺も周囲を見渡すが、いつまでも続く平原と遠くに森が見えるだけだ。球形ではないから地平線はないらしい。
(そういえばカンナさんがスキルプレゼントって言ってたけど何くれたんだろう? 確認方法がまずわからないな。そもそもゲームじゃあるまいし、スキルって何だよ)
「ハヤト、あっちの方に街があるよ、行ってみよう」
「了解、自分のスキルの確認方法知りたいんだけどどうやればいいのかわかる?」
「ハヤト鑑定スキル持ってるから自分に鑑定使えばステータス見れるよ。使い方は鑑定したいって心の中で念じるだけ、普通の人はステータスなんて見れないから、街の人には秘密にしておいた方がいいと思う」
「わかった。見てみるよ」
俺たちはユイが言う街がある方向へ歩いていく。歩きながら早速自分に向かって鑑定スキルを使ってみる。
(鑑定したい)
【名前】ハヤト・ヤシロ
【称号】なし
【種族】人族
【職業】学生
【レベル】1
【スキル】
異世界言語、異世界文字、鑑定、アイテムボックス、ラーニング、幸運
【魔法】
なし
【ステータス】
HP(10/10)MP(5/5)
力8体力10魔力5素早さ9器用10運18
【装備】
異世界の上着
異世界の服
異世界のズボン
異世界のスマホ
(タケルさんがくれたスキルが異世界言語、異世界文字だから、鑑定、アイテムボックス、ラーニング、幸運がカンナさんからのプレゼントかな)
「なんかゲームみたいだな」
「お父さんがこの世界作った時のコンセプトがゲームみたいにしたかったらしいよ」
「え? 3000年以上前にゲームないだろ?」
「ここでの3000年は地球の時間で換算すると21日前くらいだからね! それに別の世界でもゲームがあったらしいよ。地球よりずっと技術の進んでる世界もいっぱいあるって聞いたよ」
(タケルさんが飽きたのはつい最近ってことか)
「へ~、むしろそっちの世界に行ってみたいよ」
「ハヤトが神族になれたら一緒にお父さんに連れてってもらおうよ!」
「そうだなー、頑張って神族になれたらいいな」
俺はユイにも鑑定スキルを使ってみることにする。
【名前】???
【称号】???
【種族】???
【職業】???
【レベル】???
【スキル】
???
【魔法】
???
【ステータス】
HP(???)MP(???)
力???体力???魔力???素早さ???器用???運???
【装備】
異世界の上着
異世界の服
異世界のスカート
腕時計
(装備に下着とかが表示されないってことは、見える物しか表示されていないのかな)
「なあ、ユイに向かって鑑定してもほとんど???なんだけどどう言う事?」
「レベル差がありすぎるとそうなるみたいだよ。私これでもお父さんと一緒に色んな世界渡り歩いているから結構強いんだよ」
「へ~、知らなかった。俺もついていきたかったな」
(俺のがユイよりずっと弱いってことだよな。ユイにだけは情けないところ見せたくない。強くなる努力しないとな)
「何も知らない人間連れて行けるわけないじゃない。ハヤトが神族目指すって言うから今回は特別なんだよ。もし神族になれなかったらお父さんに記憶消されちゃうんだからね」
「そうか…、うん。絶対に神族にならないとな! ユイとの思い出が消えるなんて俺はイヤだ」
「うん、私も精一杯サポートするよ」
俺は次に自分のスキルについて鑑定し始める。
【異世界言語】
異世界の言語を自動翻訳する。
【異世界文字】
異世界の文字を自動翻訳する。
【鑑定】
物質、人間、モンスター、能力の性能等を表示する。
【アイテムボックス】
異空間を開き、物体を無限に収納する。生物不可、異空間内時間停止。
【ラーニング】
モンスターの技能をコピーする。コピー可能な技能数制限数は(レベル/10)の小数点切り上げ。コピーした技能を消去することでコピー可能制限数は消去した分だけリセットされる。
【幸運】
人生の分岐点で大きな幸運を引き寄せることができるかもしれない。
「この世界ってモンスターがいるの? スキルを鑑定してたらモンスターの文字があるんだけど」
「うん、いるよー。私たちの目的を果たすためにもハヤトにはモンスターを倒してレベルをあげてもらわないとね」
(動物殺したことないんだよな。モンスターと戦えるのか少し不安だ。そんなことユイには言えないけど。それに戦闘に使えそうなスキルもラーニングしかない。これも使い勝手が悪そうだ)
「ユイは信仰を集める方法わかってるんだな」
「信仰を集めるには困っている人を助ければいいんだよ。強くなって街や国を救っていけばどんどん信仰増えるよ! お父さんがこの世界にしたのはモンスターがいるからと、この世界には神への信仰って言う概念がないからだね」
「なるほどねー、競合している神族がいないからここにしたってことか」
「競争相手は国王とか英雄とか呼ばれる人かな? 要はこの世界での人気取りをしようってことだよ」
(神族相手でなく、英雄とか国王が相手の人気取りでも、俺には全く自信ないんだけどな。頑張るしかないけど)
俺たちは徐々に見えてくる街の門に向かって歩いていく。人が並んでいるようだ。城壁も結構高いし横幅はどこまで続いているかもわからない、そこそこ大きな街なのかもしれない。