2.返事と神族
合格発表翌日、俺は自宅の部屋に引きこもって友人から勧められたスマホゲームをしていた。
ネットにつないで遊ぶ多人数参加型オンラインゲームらしい。初心者なのでソロプレイだ。ゴブリンとかフェアリーとかオークとか誰でも馴染みのあるモンスターが出てくる。
(ユイからの返事貰えるまで引きこもってゲームしてよう。受験も終わったし他のことが手につく気もしない。ゲームも気分転換程度になら楽しめるし。ユイに振られたら俺立ち直れるのか? このまま引きこもりになったりして)
俺がゲームをしながらグルグルと答えが出ない問答を昨日から繰り返していたとき、スマホが鳴った。画面にはユイの文字が出ている。告白の返事が貰えるのだろうか、震える手で電話に出る。
「もしもし、どうした?」
「今日なんだけど家に来ない? お父さんとお母さんがハヤトと話がしたいって」
「…………」
(昨日の告白についてユイはいきなり両親に話したってことか!?)
俺は混乱する頭を何とか落ち着けるようにする。きっと時々ある夕飯の誘いだろう。
「もしもーし、聞いてる?」
「ああ、今日の夕飯のお呼ばれってことだよな? 何時頃行けばいい?」
「夕飯の誘いじゃないよ。昨日ハヤトに告白されたこと両親に話したの。そうしたらハヤトを呼べって言われたんだ」
「……………………」
俺は今度こそ完全に固まった。
(ユイから返事も貰ってないのに両親と話をする? 一体どういうことだ。何が起こっている? 俺とユイが付き合うのに両親の許可がいるってことか? でも俺とユイの両親はそれなりに親しいはず、少なくとも嫌われてはいない。今更付き合う前に許可を取りに挨拶に行くのも変な話だ)
「もしもーし、ハヤト大丈夫?」
「何で呼ばれたのか良く理解できなくてさ。ユイにまだ告白の返事貰ってないよな?」
「うん、まだしてないよ」
「何で返事の前にユイの両親と話すことになるんだ?」
「ハヤトへの告白の返事がどうなるか私の両親との話次第だから?」
「お前の両親関係ないよな?」
「電話で話すことじゃないから直接話したい。とりあえず家まできてくれない?」
「わ、わかった。すぐ行くよ」
俺は納得出来なかったがとりあえず通話を切り、黒いコートを着てからユイの家に向かうことにした。家まで行けばきっと説明してくれるだろう。
ユイの家は俺の家から徒歩3分ほどの場所にある神社の裏に家がある。代々神社で神主をしている家庭だそうだ。
「こんにちはー、ハヤトです」
「ハヤト君、いらっしゃい。どうぞ上がって頂戴」
俺はユイの母親である神奈さん40歳に出迎えられ、家の中に入っていく。カンナさんはどう見ても20代にしか見えない。ユイと並んでも姉妹だとしか思われないだろう。
カンナさんの後をついていき、ユイの家の居間に移動する。そこにはユイの父親である武さん42歳とユイがいた。タケルさんもカンナさん同様20代にしか見えず、名前同様武を体言したような2メートルほどの長身で、筋肉隆々などう見ても神主と言うより格闘家と言う見た目である。子供の頃は正直タケルさんのことが怖かった。
「ハヤト君、コートは預かるわ」
「はい、ありがとうございます」
カンナさんにコートを渡すと、カンナさんがハンガーにコートを掛けてくれる。その様子を眺めながらいつもと違う雰囲気を感じていると、タケルさんに話しかけられた。
「ハヤト君。そこに座ってくれ。カンナ、お茶の用意頼む」
「はい、アナタ」
(この雰囲気は娘さんをくださいってシュチュエーションか!? まだ付き合ってもいないのに?)
俺は何を話せばいいかわからず軽い混乱状態のままタケルさんとユイの対面にある椅子に座った。
(ユイは今日もかわいい、今日は薄いピンクのTシャツに黒いポンチジャケット、黒いスカートの組み合わせか。こういう格好も大人っぽくて似合うな)
カンナさんは全員分のお茶とお茶菓子を用意し、タケルさんの横に座る。
「僕は今日何故この場に呼ばれたのでしょう?」
「うむ。それだがな。ハヤト君はユイと結婚したいと言ったそうだが確かかね?」
確かに結婚したいくらい好きだと言った。だが結婚してくれではなく、付き合ってくれと言ったはずだ。
「今すぐ結婚してくれとは言っていません。将来的にはユイと結婚したいと思っていますが、まだ僕たちは学生ですので結婚を前提としたお付き合いをしたいと考えています」
「ふむ。なるほどな。ユイ、ハヤト君と付き合うだけなら何も反対しないぞ?」
「私がそれだとイヤなの! お父さんが言うのはいつか別れること前提でしょ? 私はずっとハヤトと一緒にいたい。ハヤト以外の人なんて考えられないの!」
「僕もユイと別れることは考えられません。軽い気持ちではありませんから」
(タケルさんは俺とユイが結婚するのには反対と言うことだろうか。でもユイは俺と別れるつもりないって、めちゃくちゃうれしい!)
俺はタケルさんに反対されたショックより、ユイが俺の気持ちを受け入れるつもりがあることがわかって、うれしい気持ちを隠せなかった。顔がにやつくのを止められない。
「ハヤト君は本気……で言ってるようだね。これは困ったな」
「アナタ、これはハヤト君にお願いするしかないんじゃないかしら」
「うーむ。だがなー」
「ハヤトなら大丈夫だよ! 何かあっても私が守るからお父さんお願い」
「良くわかりませんがユイと一緒になれるなら僕にできることなら何でもします!」
俺には理解が出来ないが3人の間で何か共通認識があるように見える。一体何をお願いされるのだろう。
「ハヤト君、今から言うことは君にとって信じられないことかもしれない。だが、信じて欲しい。この話が信じて貰えないならその時点でこの話は終わりだ」
「わかりました…」
俺の喉がゴクリと鳴る音がした。ユイのためならどんな荒唐無稽な話でも信じてみせよう。
「俺たちは神族なのだよ。君たち人間と違い、寿命と言う物がない。だからハヤト君とユイが結婚したとしても子供も作れないし、同じ時間を生きることもできない。これがハヤト君とユイの結婚に俺が反対する理由だ」
「……………………」
(想像以上に荒唐無稽な話だー!! でもここで信じられないなんて言えない)
俺は頭を抱えたくなったが我慢して無理やり信じることにした。
「信じます。続けてください」
「ふむ。それでな。結婚条件として1つの条件を付けたい」
「はい、何でもおっしゃってください」
「君も神族になってくれないか?」
「……………………どうやって神族になるのでしょうか?」
「この世界でもいいし、どこの世界に行ってもいいから100万人以上の信仰を君自身に集めてきてくれ。神族になるためには他にも条件があるがそれは俺の方で何とかしよう」
俺は常識が崩れすぎて呆然としていた。そもそも信仰100万人とかどう考えても無理だ。巨大宗教の教皇になればなんとかなるかというレベルだろう。
(タケルさんは俺に適当なことを言って、ユイとのことを諦めさせようとしてるとか? その場合でもタケルさんなら男らしく正々堂々まっすぐに言ってくるはずだ。カンナさんもユイも話に入ってこないと言うことは嘘ではないのか?)
「俺が無理を言っていることは理解している。だからハヤト君のために信仰を得やすい別の世界へ移動させ、異世界言語、異世界文字を理解するスキル、それとユイを一緒に連れて行ってくれてかまわない。これでもユイは神族だ、戦闘も出来るし、他にも色々役に立つ」
(別の世界? 地球では無理でも異世界なら可能性があるってことか?)
「別の世界とこの世界では行き来できるんですか?」
「可能だが、ただの人間を頻繁に移動させるのは無理だ。最低でも行ったら1年は帰ってこれないと思ってくれ」
「大学に行けなくなるのはとても困るのですが、結婚を許していただけても高卒では就職が不利になります」
「俺がハヤト君を移動させる予定の世界は、1年過ごしてもこちらの世界で10分しか時間が経過しない。無理だと思ったら1年後帰ってきてくれ。ハヤト君の記憶の一部を消させてもらい、ユイとの結婚は白紙に戻させてもらう」
俺は凄く迷っている。今までの話を全て信じるのは正直無理だが、タケルさんは嘘をつくような人ではない。本当だった場合異世界での生活が始まる。グルグルと同じことが頭の中で渦巻いていた時、ユイが俺の手を握った。
「ハヤト、私を信じて。私のために一緒に頑張って」
ユイが俺に真剣に話しかけてきた。ユイのためなら俺は何でもできる気がした。
(好きな女の子にここまで言われてヘタレていられないだろう!)
「はい。ユイと共に異世界に行かせてもらいます。そして必ず神族になってみせます」
「よく言った!! それじゃ今から送るから頑張ってきてくれ」
「ハヤト君、ユイをお願いね。私からもスキルプレゼントしておくからね。ユイ、ハヤト君に迷惑かけちゃダメよ」
「うん、大丈夫! 絶対にハヤトを神族にしてみせるから!!」
俺が決意表明した瞬間、いつの間にか今すぐに行くことになっていた。
(せめて準備する時間欲しいんですけどー!)
俺が気づいた時にはユイと共に知らない場所にいた。




