➖ その4 ➖
その異様な様子にたじろいだ俺は、足早に駅から外へ出て行った。
振り返ると、さっきのプロデューサーらしき男の姿も見えなかった。
「ここからは、自分で考えて行けばいいのか。そうそう、自然体で、自然体でね」
さて、 意気込んで町に入ったのは良いが、ここからどうすればいいのか全く分からなかった。
仕方がないので、商店街を適当に散策する事にして、きょろきょろと進んで行った。
しかし、どの店を覗いて見ても客の姿も無く、たまに現れる軽トラは、道の真ん中を信じられない猛スピードで走り抜け、排気音と土埃の波を店並に浴びせ掛けて行った。
「この町、全部ロケ用のセットだろうな。道路が未舗装なのは、おそらく時代劇までカバー出来るようにしてあるんだろう」
スゲエや。などと、感心しきりで暫く歩いていると、ある事に気付いた。
この商店街は、全てが飲食系の店舗で埋まっていたのだ。
おまけに、全ての店には共通した店舗名が付けられていた。
ステーキハウスMIRAKU、居酒屋みらく、Mirakuバーガー、
スナック魅蘭来、焼き肉屋味楽、満楽うどん、お好み焼きミラク
レストランMyMiraku ,回転寿司ファミリーMIRAKU、
立ち食いそば味良食、etc
「しかし、ここまでこだわって本物同然のセット作ったら、そりゃ誰でも騙されるよな」
ふと、昨年世界中から絶賛されたアニメ、『万と万尋の猿隠し』のストーリーを思い出した。
➖ 俺が店の中を覗くと、カウンターの上には美味そうな肉料理が山のように並べられていた。
だが、店には誰も居ない。
俺は、余りの良い匂いに理性を失い、無我夢中で肉を平らげていく。
そして、気が付くと、俺はオランウータンにされていた。
妹の万尋は、俺を救う為に、一通り破茶滅茶な修行をさせられた挙句、その辛さに耐え切れずに逃げ出し、1人残された俺は、人間であった事も忘れ、湯じじいの毛づくろいをしながら一生楽しく暮らしました ➖
という展開を自分が脚本家なら考える、などと妄想を膨らませていた。
その頃、駅の構内では町民達がモニターを凝視しながら、それまでとは別の意味で意見交換がヒートアップしていた。
それも当然の事、今回のターゲットの実物の姿を今しがた自分達の目で確認したばかりなのだ。
MIRAKUからの事前情報にプラスして、否が応でも盛り上がる。
モニターには、菅介の顔のアップに加え、実年齢、家族構成、学校の成績、性格判断までずらりと映し出されていた。
さらに、画面の下には町民の人気度が棒グラフで表され、現在の賭け金のトータルが表示されていた。
そして最下段では、デジタル時計が既に秒単位のカウントダウを始めていた。
「こりゃあムズイな」
「ここ最近では、一番面白味の無いケースだわな」
「でも、これが今月の最後のケースだぜ。少しは稼いどかねえとなあ」
「俺はパスするわ。今月は貯えもあるし、無理するこたあねえよ」
そんな声が飛び交う中で、モニター上の配当金は、現在0円だった。
要するに、1人も賭けに出る者が居ない状況。
人気度ゼロという事。
最初の頃は期待も大きく、皆賭け金も奮発しようかどうしょうか、と大賑わいだった。
それには理由があった。
それは、姉の麗亜の存在だった。
伝説の女子高校生と言う学生時代の華々しい経歴に加え、現在は、その美貌と知性を生かし、大手モデルプロダクションと契約し、国内ではダントツの人気度。
さらに、来年度からは海外へ打って出ようとしている。
そんな才能に溢れた女子の弟なら、配当金もウナギ上りになる!
筈だった……
だが、彼らは当人を目で確認してしまったのだ。
余りにも期待外れである、という事実を知ってしまったのである。
結局、不満の声が漏れる中、、皆んな駅からぞろぞろと出て行った。
「まあ、もう少し様子を見る、ってことで」
「だなぁ」
「同感」
そんな会話があちこちから聞こえていた。