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うっかり完結しちゃいました

 異世界から毎度どうも。皆さん超お久しぶりの桜井莉子です。

 え?久しぶりすぎてどんな話か忘れちゃったって?そしたら最初っから読み直してください、まだ5ページくらいだから!間に合う間に合う!

 うっかり召喚された美少女女子高生代表として、今日も元気に暮らしてますよ!

「何の代表だ、何の」

 フィル君たら最初っから疲れたテンションでのツッコミですね。どうしたのかな?

「うっかりボケ担当が増えるとか、もう俺だけじゃツッコミ追いつかない!要ツッコミ要員!急募!冷たい視線を送るだけでもいい、簡単なお仕事です!」

 あらあら、天を仰いで求人中ですけど、ねえ、気づいてる?

「……破綻したツッコミ担当って、ボケに一番近いところにいるよね」

「嘘だ……!?俺は、俺はまだやれるはずだ……!俺の常識人スキルはこんなもんじゃないはず……」

 あ、撃沈した。


 今日は兄がお世話になっている宰相さんのお家にお呼ばれして、フィル君と私でお邪魔することに。

 ちなみにお師匠様は逃げた。何でか知らないけど、めっちゃイイ笑顔で「私は所用があるから」って颯爽といなくなったんだよね。

「宰相さんとお師匠様って仲悪いの?」

 私が聞くと、フィル君は苦笑い。

「悪いってわけじゃないと思う。昔はお師匠様も宮廷魔導師をしてて、その時からの同僚だから。ただ辞めた後も何かと頼まれごとが多くて、逃げてるって感じだな」

 なるほど、さすが面倒臭がりのお師匠様。宮廷魔導師ってことはエリートだろうに、あっさり辞めてかつ望まれても復帰しないとは。

「じゃあどういう経緯でフィル君のお師匠様になったの?」

 私の質問に、フィル君はあっさりと口を開く。

「俺、もともと王宮でお師匠様の下で働いてたんだ。王宮魔法兵団の見習い。で、お師匠様が辞めるときにそのままついてって弟子入りした」

 なんと。フィル君もエリートでしたよ!この魔法大国では相当実力がないと、王宮で働くことはできないって聞いたことがあるからね、なぜかバイト先の店長に!

「で、お師匠様と愛を育んできたと……」

「違うだろ、それ!」

「え?師弟愛でしょ、ウンウンわかってるー」

「……棒読み!!!」


 宰相さんちは家じゃなかった。ちょっとしたお城だ。一応お屋敷って呼べる範囲かもしれないけど、日本人の私からしたら、これはもう城レベルの豪華さだ。

 そんでもって兄に紹介された宰相さんは……めっちゃくちゃカッコ良いおじさまだった。

「お色気ダダ漏れなザ・大人の男!神様ありがとう!ビバお兄ちゃん!超優良物件どころか国宝級です!」

 長いまっすぐなハニーブロンドに淡い水色の瞳。恐ろしく整った顔。体の線がわかりにくいローブを着ているけれど、背が高くて袖から見えてる腕はしっかり筋肉がついている。

 何でも王様の、数人いる弟の一人らしい。てことはセレ王子の叔父さん。

「鼻血噴出剤になりかねないよ、何この最強兵器!私殺されるの!?」

「ちょっと落ち着けリコ、頼むから!いい加減にしないと、俺たち鼻血の前に首落とされるわ!」

 暴走してる私を、必死で押さえつけるフィル君。どうしようフィル君、お師匠様に並ぶ美形です。美形国家万歳!

「こんなに可愛らしいお嬢さんに褒めてもらえるとは光栄だ。私もまだまだ捨てたものではないね」

「言っとくけど、お前が思ってる年齢の、10歳くらい上だからなこの人。ほんっとここの王族は化け物級の美人ばっかりだよな」

 宰相さんが微笑みを浮かべて言う横で、兄が水を差した。歳の差がなんぼのもんじゃい!美人はそれだけで世界を救うんだい!

 美形の価値について本気で考察している私に向かって、宰相さんが姿勢を正す。

「私がリヒトの召喚を頼んだせいで、リコ嬢には辛い思いをさせたと聞いた。申し訳なかった。今まで帰還の術がなかなか完成しなくてね」

 こんな小娘にも頭を下げて謝ってくれる宰相さん。良い人じゃないか。私は慌てて両手を振る。

「いやいや別に!辛いとかないですし!」

 私の様子に、宰相さんは目元を和らげて口を開いた。


「君が望むのであれば、元の世界に戻る手はずを整える。もちろんリヒトも一緒に」


 私が何かを言う前に。

 私の右手がぎゅっと握りしめられた。

 見ればフィル君が、とっさに掴んでしまったのか、自分でも驚いたように目を見開いてその手に視線を向ける。私も同じように握られた手を見てしまった。

 いつもの通り真っ赤になって否定するのかなって思ったのに、フィル君はそれでも私の手を離さないまま、口を開く。

「こんな妄想変態女、今さら返したって世界の迷惑だし、俺とお師匠様に迷惑かけまくった反省もしてないし、クッキー買うのに立て替えてやった金も返してもらってないし、急にバイト抜けられたら店長も困るし、リコ気に入ってるお師匠様にブツブツ言われるの俺だし」

 何だこれ、ディスられてるよ、私!あのクッキー奢ってくれたんじゃないのか!店長はむしろ喜ぶんじゃないかな!

「セレ様にも絶対文句言われるし、限定ランチまだ頼んでないし、食事当番だってリコがサボった分やってもらわないとだし」

 え、いつまで続くのこれ。


 一気にあふれた言葉は、毒ばっかり。

 ……なのに何でかなあ。

 フィル君、泣きそうな瞳で言うから。そんな顔して文句言う癖に、肝心の一言を言わないから。ーー私のために。


「宰相さん、私、ここが気に入ってるんです」

 ニヤリと笑って繋がれた手を上げて見せて。

「かっこいい彼氏もできたことだし、甘やかしてくれるお師匠様もいるし」

「最愛のお兄様もいるもんな」

「それはどうでもいい」

「リコォォォ!?」

 なんか途中で挟まったお兄ちゃんの言葉は冷たくあしらって。でもフィル君の手は離さずに。

「だから、良いんです。ここに居たいんだ。何せうっかり召喚された美少女女子高生だからね!」


 

 穏やかな笑みを浮かべた宰相さんと、ニヤニヤムカつく笑い顔の兄に別れを告げてお屋敷を出た私とフィル君。

 黙り込んだままのフィル君の隣で、私はひとり上機嫌。

「ねえねえ、宰相さんかっこよかったねー。甥ならセレ様も将来ああなるかなあ?」

「……俺の方が将来有望」

 ぼそりと返ってきた言葉に、やっと元気出てきたかな、とちょっと私の気分が浮上。だって一人で喋ってたら寂しいじゃん?

「あらいやだフィル君たらヤキモチ?さすが私の未来のお嫁さん」

「誰が嫁だ。せめてそこは旦那さんだろ」

「フィル君の日頃の行いが、いいお嫁さんになると確信させるのよ」

「リコの日頃の行いは、典型的なヒモ旦那になると確信させるしな」

「あれえ?お前なんかお断りだって言わないのお?」

 そういえば宰相さんの前で彼氏って言った時も否定しなかったな、フィル君。

 ニヤニヤ笑ってフィル君の顔を覗き込んだら、真っ赤になった彼に睨まれる。

「口が滑っただけだっ……」

 何だこれ!可愛すぎるんだけど!フィル君が可愛いんですけどー!誰かこの感動を分かち合おうよ!


 繋いだままの手を引いて、フィル君が立ち止まる。つられて私も立ち止まった。

 傾いた夕日に照らされて、長くなった影を眺めながら、彼がポツリと言う。

「本当に、帰らなくていいのか?」

「うん。そう言ったでしょ」

 何でもないように言ってじっと見つめれば、フィル君の視線が返ってきた。

「だから、言ってもいいよ。フィル君の本当の願いを教えてよ」

 罪悪感でも、使命感でも、うっかり情が沸いちゃったとかでもいい、フィル君の本当の気持ちなら。



「俺が召喚したのは、うっかり持ってきちゃっても影響の少ない異世界の存在」

 その目は、何となく。

「俺を必要としてくれる運命の人」

 いつもと違ってて。

「でもリコ、きっと違うんだ。ーー“俺が“必要とする、運命の人だ」

 とんでもない、殺し文句を。

「帰るな。この世界に、ここに居て。俺のそばに」


 私をうっかり召喚した魔法使いの男の子は、一撃必殺のクリティカルヒットをかましたーー。




「……何キミたち、やっとくっついたの」

 家に帰った私たちを迎えたお師匠様が、呆れたように言って。私はニンマリと笑ってみせる。

「お師匠様、聞いて聞いて!フィル君が最高に可愛くてもう鼻血がね!」

「やめろぉぉバカ女!!」

 喜び勇んで報告しようとする私の口を押さえて、フィル君は真っ赤な顔で叫んだ。あら涙目。

「一生の不覚っ……!こんなデリカシー壊滅女にうっかり告白するなんて……」

「え、何後悔してる?いらないなら私にくれる?」

「お師匠様ったらあらゆる隙を逃さない、えげつないくらい有能なイケメンだね!」

「だ、ダメです!」

 勢いよく叫んだフィル君は、ニマニマ笑い合う私とお師匠様に気づいて、さらに真っ赤になってしゃがみこんだ。

「ああああ、ずっとこうやって遊ばれんのかよ……」

 うん、だろうね!いいカンしてる!



 それから、魔法使いとその弟子の家には変わらず、可愛くて妙な娘が住んでいる。

 うっかり持ってきちゃった、運命の少女がーー。

思いついたらまた後日談を足そうかなと思います。最後までお付き合い頂いて、ありがとうございました!

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