6話:新たなる敵
包み込むは白い光。
強すぎる光は視界を奪い、視える物を視えなくするっていうけどまさにその通りだ。
身を以て実感する。私はゴーグル越しだったから直接目はやられなかったけど、裸眼のネロは大丈夫だろうか?
『駄竜、無事?』
光の洪水の中、ネロに呼びかける。
『この程度の光、ドラゴンには意味ない。
だが、アレは何だ?』
語尾に強く感じた疑問。
私も目を細める。だんだん目が慣れてきたのか、それとも光が収まって来たのか。
いや、後者だろう。だんだん光が収まり、ネロが疑問を抱いたもののシルエットがつかめてきた。
眩い光が収まった頃には、すでにすっかり『敵』の姿があらわになっていた。そして、私は―――唐突に現れた『敵』に目が点になった。
「なに、これ?」
昨日の召集を受け、私はカリスト達と帝都上空の警備網を強化した。
本日の訓練は中止にされ、帝都上空5000メートル付近を警備せよ。うんたらかんたらと説明が長くて聞き取れなかったのが、いまにして思えば非常に惜しい。いや、一応ネロに概要を聞いたけど、ネロも聞き取れていなかったみたいで、仕方なくカリストに聞いた私もバカだ。
『カリストのバカの話だと、“攻撃してきたら、攻撃しろ”ってことだったよな?ってか、あれはドラゴンか?』
現れた『敵』を観た感想を、ネロが述べる。
私は『敵』の周りを旋回しながら、首を横に振った。
『ちがう、アレはドラゴンじゃない』
あれは、鉄の塊。
あれは、鉄の鳥。
あれは、むこうの空の覇者。
「戦闘機が、なんで……なんで、F14が!?」
夢が現実になるとは、まさにこのこと。
いや、夢ではF4だったけど、でもなんで?私の頭は混乱する。
「ざざ――」
無線越しに、何か聞こえる。
私は無線を耳に押し付け、その声を必死に聞き取ろうとした。
「未確認飛行物体を発見!各自、警戒せよ」
「攻撃してきたら、撃ち落としていいんですか?」
「その通りだ。だが、こちらからの投降を呼びかけに応じなかったら――」
その言葉が、隊長の言葉が言い終わることはなかった。
鉄の塊から発射されたミサイルが、隊長の左翼を貫く。隊長のドラゴンは、あれよあれよというようにくるくると回って、落ちていく。何故だか、モミジの種子が落ちていくような既視感を覚えた。
それと同時に、私は気づいた。
「そうだ、あの訓練って――」
『後ろを絶対にとられないようにする訓練』と『相手を一撃で倒す訓練』。
現代の戦闘機は、後ろを捕らえた瞬間に勝敗が決する。
だから、後ろを取られる前に相手を一撃で倒さなければならない。
無慈悲な機関銃を睨みつけて、私は悟った。
どうして、戦わないといけないのかは分からない。でも、あいつは次の竜騎士に狙いを定めている。ほら、こうしている間にも、また落ちた。くるくる回るそれはネズミ花火のよう。
戦わなくては、空で生きる道が絶たれてしまう。
ーーーネロ、うちなさい
気がつけば、そんな命令を下していた。
いつの間にか手綱を引き、照準を定められる前に、くるっと右に旋回して、鉄の鳥の腹部に回り込んで。
駄龍が了承する声が、幕一枚隔てた向こうから響いてくる。灰色の煙が立ち上ったかに見えた瞬間、機体に大きく描かれたアメリカの星が炎に包まれた。
派手な音を立てて落下して行くF14の隣で、ちっぽけな花が開いた。
パラシュートが爆風に煽られ、あらぬ方へ降下して行く。
私は彼が落ちるであろう場所に先回りをし、レイピアを引き抜いた。
「事情を説明してもらいたいです。
武器を捨て、おとなしく投降してください」
青色の目をしたアメリカ兵は、戸惑うことなく両手をあげる。むこうは何か言ってきたが、この世界で育った私に英語が分かるわけない。
この人は、確実に異世界人。
だから父の元に引き渡される可能性がたかい。
あの父に渡すのはかわいそうだが、捕虜とはそういうものなのだろう。
……かわいそう、だけど。