プロローグ
20××年、大阪 梅田第2ダンジョン。地下迷宮のような造りになっているダンジョンで、配信用のドローンが見守る中、女子高生3人が徘徊ボスであるミノタウロスと戦っていた。前衛のポニーテールの女の子がミノタウロスの大振りの斧攻撃を躱しながらも斬り付けていく。
「何度も斬りつけとるのにとんだタフネスや。ダメージが与えられているか分からへんで」
「咲夜、あたしに任せて!大地の精霊ノームよ、我が杖に宿りて、相対する者を穿て!アースバレット!」
後衛に控えていた魔法使いのような尖がり帽子を被った女の子が杖をかざすと、いくつもの石弾をミノタウロスに向けて放ち、咲夜に気を取られていたミノタウロスに突き刺さる。だが、この攻撃でヘイトを買った魔術師にミノタウロスが死に物狂いの形相で突進を仕掛けてくる。
「アカン、ウチの足じゃあ間に合わん!」
「大丈夫。プロテ――」
「それだとダメよ」
後ろに控えていた黒髪の女の子が前に出て、5本の指から吐き出された糸でミノタウロスの手足に巻き付けて、身動きを封じ込める。捕らえられたミノタウロスが力を入れて引きちぎろうとしても、ハムのように体に食い込んでいき、自身の身体を痛めつけるだけの結果になる。
【えっ、ミノタウロスってCランクでもBランクよりの魔物だろ。あんな簡単に動き封じれたっけ?】
【初見か?】
【さてはモグリか?】
【姫ちゃんはイレギュラーモンスターとはいえ、単独でドラゴンを討伐した猛者ぞ】
【地元を救われた滋賀県民なら知らない人間はいない】
【京都府民もだぞ】
「はい、反省会。咲夜、百合の攻撃でひるんでいる隙にすかさず追撃しなさい」
「あれだけ刺さっていたら、絶対死んだと思ったやん」
「前も言ったでしょう。死亡が確認できるまで油断しない。モンスターの中には本体が別に居て、倒したのが偽物でしたーなんてあるのよ。それと、百合」
「ははは、プロテクションのことだよね。つい、いつものクセで」
「ミノタウロスの突撃はバリア貫通持ち。あそこはバインド攻撃が有効よ。こういう風にね」
「いやいや、それができるの姫ちゃんだけだって。動き止めれるとしたらアースバインドだけど、とっさに出せないし……」
「受けたら死ぬ? 嫌なら必死になって出す!それくらいの心構えで」
【手厳しいwww】
【一歩間違えたら死ぬぞ】
【突然スプラッタ配信になるのはこのご時世多いからな】
【もう少しレベル下げたら?】
【第3ダンジョンとか?】
【あそこだと、今の3人なら余裕だし……】
「私がいれば、間違いなんて起きないわよ」
二人がミノタウロスにとどめを刺したところで、予定通りに配信を切り上げようとしたところで、念話が届く。
(姫様。関西支部予定の草津ダンジョンに侵入者が入りました。カモフラージュがバレたようです)
(あそこはまだ改装途中でまともにモンスターを配置していないのよ。ダンジョンコアを破壊されたら……)
(消える可能性があります。どうしますか)
(せっかく手に入れたダンジョンをみすみす逃すのも惜しいわ。しょうがないわね。私が出るわ)
「今回は初めての探索。二人とも反省点も見つかったし、復習も大事よ。というわけで、予定通り、今回の配信はここまで」
「私たちSTARSの応援、よろしくお願いします」
「ウチらのチャンネル登録・高評価していってや~」
【周回無しだと早かったな】
【乙~】
【またね~】
ミノタウロスのドロップアイテムを拾った3人がスマホを操作すると、自動的にダンジョンの入り口まで飛ばされる。買い取りカウンターにいるギルド職員にダンジョンで手に入れたドロップアイテムを渡すと、突如、姫花が手を合わせる。
「ごめん。ちょっと私、急用入った」
「珍しいな……ってか初めてやないか、姫花がそういうこと言うの」
「そういうことなら仕方ないね~明日、山分けしよう」
二人と別れた姫花は梅田の街を走り、誰もいない路地裏へと入っていく。その突き当りで、姫花の目が妖しく光る。
「我が真名アリスの名の下、管理者権限によりダンジョンの入り口を一度だけ設置するわ」
姫花が手をかざすと、そこには無かったはずの扉が現れ、その中へと入っていく。そこにはダンジョンコアが鎮座してあるダンジョンの最深部。そこに足を踏み入れると同時に姫花の黒髪は金髪に染まり、瞳の色は紅く染まり、着ていた制服は黒いゴスロリ衣装へと変わっていく。変化はそれだけにはとどまらず、背が少し縮み、顔つきも幼く、関節球体へと変わったことで、その姿は人間ではなくまるで西洋人形である。
(セバスチャン、侵入者の数と強さは?)
(そちらに居ないので大まかな把握しかできませんが、少なくとも4人のパーティー。強さは彼らの基準で言うところのBランクと言ったところでしょうか)
(人数からして威力偵察ってところね。Bランク相手だと私直々に出向かないと仕留め損ねるわ)
自身の指から出てきた糸で紡いだ人形2体と魔法陣で生み出したマネキンのようなリビングドールと呼ばれるモンスターを操りながら、姫花もといアリスは上層へと向かっていくのであった。
Bランクのクロウたちのパーティーは先日のイレギュラーモンスター事件の調査をすべく、草津第1ダンジョンに赴いていた。事件発生前はDランク相当のダンジョンで初心者の姿も数多く見受けられたが、今は立ち入り制限が掛けられているほか、今回の調査で新たに見つけた2階層へと続く隠し通路の入り口を仲間に見張らせているため、この階層には自分達しかいない。
「しかし、2度もイレギュラーが起こったせいか元は草原が広がっていただけのダンジョンが2階層目もある迷宮型になるなんてな。Bランクの俺たちにもお鉢が回るわけだ」
「おかしいのはそれだけじゃない……モンスターがほとんどいない」
「ドラゴンが出たから逃げたのかしら?」
「どこにだよ。シーフの俺でも発見できないところに隠れ潜んでいるって言いたいのか?」
「そんなこと言ってないわよ」
「どうだか……ちょっと待て。何か来るぞ。しかも数が多い」
「全員、戦闘配置につけ!」
寡黙な重戦士が一歩前に出て、戦士のクロウと盗賊が並び立ち、後ろには魔術師が控えているオーソドックな陣形。彼らに襲い掛かるはリビングドールの群れだ。
「リビングドールだと!? このダンジョンには出なかったはず!」
「魔法で吹き飛ばします!フレイムトルネード!」
魔術師が炎の竜巻でリビングドールを燃やしながら、吹き飛ばしていく。相手の陣形が崩れたところに重戦士が盾を構えつつ突っ込み、身の丈はあるであろうロングブレードでバッサバッサと切り払っていく。それに負けじとクロウと盗賊も手にした剣やナイフで切っていく。仲間のリビングドールがやられていく中、何体かのリビングドールが踊りによる呪いをかけて、クロウたちの体力や魔力をじわじわと削っていく。
「ちぃ、数がいると面倒だな、コイツら!」
「もう一度魔法を使います。フレイム――」
魔術師が呪文を唱えようとしたとき、背中から鋭い痛みが走る。後ろを振り替えると、壊れた配信用のドローンとそこにはいなかったはずのターバンを巻いた男性が自分を剣で貫いていた。乱暴に引き抜かれた魔術師はそのまま崩れ落ちる。
「なんだ、お前は!?」
「クロウ、よく見ろ!あれは人形だ!」
「リビングドールの亜種モンスターだと!?」
「……ここは俺が殿を務める。お前たちはこの情報をギルドに!ヘイトバースト!」
重戦士がスキルを使うと、興奮したかのように目の色をギラギラと輝かせてリビングドールたちが一斉に重戦士に襲い掛かる。その間にクロウと盗賊がスマホを操作しようとしたとき、どこからともなく飛んできたクナイが突き刺さる。飛んできたところを見ると、天井に忍者のような黒装束の男が居た。
「ヘイトバーストの範囲外にも敵がいたのか……奴は俺が引き受ける」
「すまん、クロウ!」
二人を残して盗賊の男が走り去っていく。自身の感知スキルはビンビンに働かせ、とにかくこのダンジョンから脱出することだけを考えながら全力疾走していく。しばらく走り続け、セーフティーエリアでもある階段を1段、2段と昇っていき、感情のままに壁を殴りつける。
「くそ……こんなはずじゃあ――」
「なかったって言いたいわけ?」
「誰だ!?」
何かをコロコロと転がしてくるアリス。階段の下に転がってきたモノの正体を見ると、盗賊の目が大きく見開かれる。それは仲間の頭部だったからだ
「……っ!?」
「魔術師の子は背後の警戒がおざなりすぎるし、戦士の子はBランクというにはまだ未熟。どちらも早かれ遅かれ野垂れ死ぬのがオチ。それに引き換え、重戦士の彼は文句なしの百点満点の花丸よ。まあ死んだら元も子もないけど」
「てめええええええ!」
「貴方も二人側の方ね。何を取り上げるにしても、敵との実力差を甘く見たのが貴方達の敗因よ。じゃあね」
指から出てきた糸を激高してきた盗賊の首元に巻き付けるだけで胴体と首が離れていく。特に労もしないまま、終わった戦闘にアリスはため息を吐く。
「階段から引きずり下ろすためとはいえ、少し悪辣すぎたかしら。でも、つまらない戦闘だったわ」
人類の中でも上澄みであるBランクですら相手にならない。あまりにもつまらない戦闘のせいで、つまらなかった日々を思い出してしまう始末であった。




