表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女と二代目。  作者: ささかま 02
魔法少女と解体業
41/41

41 風去りて春


 いつものようにパーキングに止めた車の扉を全開にして、タバコを吹かす。

 車の換気をしつつ、凝り固まった肩を回して緊張を解す。あ、やべ。帰りにガソリン入れに行かないと。


 助手席に無造作に置いた鞄から、さっき受け取ったばかりの資料を取り出して文字列を目で追う。

 都市開発計画と銘打たれたそれは、先週までの一件で怪物たちに街のあちこちを破壊された結果、どうせ一度壊すなら新しく色々インフラ含めやり直そうという計画である。

 建築、解体業界人間を集めて行われた街主導の説明会は有難い話、怪物がいなくなったとしても俺たちにしばらくは仕事をくれるらしい。


 なんでこう、役所の書類って微妙にわかりにくい表現が多いんだろうなぁ。

 目の滑る文章から視線を外し、空を仰いだ。……青いなぁ。


 さくらちゃんを見送ってから二週間、空が青色を取り戻してから一週間が経った。

 あれっきり怪物は音沙汰ないしさくらちゃんにも会えていない。あの後さくらちゃんたち魔法少女に何があったのか、どういう結末を迎えたのか。俺は知る由もないがとにかく暗くなり裂け目の入っていた空はすっかり晴れて、日常が戻りつつある。


 とは言え、もちろんまだ復旧は途中で、解体しないといけない建物もあるんだが。

 しばらくは忙しい日が続くだろう。だが、これから怪物が出てこなくなるなら、うちの事業も今まで通り右肩上がりというわけにはいかないはずだ。前回怪物が出た時に一財産築き上げた爺さんもこんな感じだったのかねぇ。


 社員を養っていくためにも、何かしら新しいことに手を出していくべきか。

 色んなことを考えつつも日常は続いていく。


 疑ってはいなかったが、さくらちゃんはこの世界の平和を掴み取ってくれた。ならばあとは俺が地獄に落ちるだけ。

 でももしさくらちゃんが帰ってきていなかったら?


 あー、やめろやめろ。折角余計なこと考えなくて済むように仕事だのなんだのを詰め込んで忙しくしているってのによぉ。

 有毒とわかりつつも思いっきりタバコの煙を吸い込んで、煙を吐き出した。ここ二週間でちょっとタバコの量が増えた気がする。

 ガソリンスタンドで灰皿の中身も捨ててもらうか。


 このまま、何事もなく日々は続いていくんだろうか。

 世界中の人々にとっては魔法少女たちの尽力のおかげで危機が去って、ああよかったねと手を取り合って、それで終わり。彼らにとっては最高のハッピーエンド。

 じゃあ、さくらちゃんは?


 世間一般としては魔法少女にしか怪物は倒せないとされており、事実歯が立たずにいた。結局何もかも押し付けてしまった。

 何もできなかった不甲斐なさとか、歯痒さとか。ある意味これが俺に向けられた罰なのかもしれない。


「うおっ」


 不意に勢い良く風が吹いた。

 風で煽られた髪が視界を覆う。ため息を吐きながら手櫛で適当に掻き上げた。


 一時よりも寒さはマシになったとはいえ、やっぱり風が吹くと肌寒いな。

 車の中に半身を突っ込んで短いタバコを灰皿に押し付ける。現場と事務所に何か土産買って帰るかなぁ。


 いい加減帰ろうかと車に乗り込みかけた時、視界の先に見慣れた制服の裾が揺れた。

 慌てて上体を起こす。車の縁にいくらか体をひっかけたが、今はそんなどころではない。


 明らかにその子は俺を認識していて、しっかりとした足取りで道を渡り、ほとんどの高校生には用はないはずのパーキングに向かって歩いて来る。

 真っ直ぐに俺を見つめたあの子が、さくらちゃんが照れたように笑いかけた。


「ただいま」


 あの子がいる。あの日以来姿を見せなかったあの子が。

 以前と変わらない姿のまま。そこで俺に向かって笑いかけている。


 風が吹いた。どこからともなく淡いピンクの花弁が舞う。何か、熱いものが込み上げてくる。

 言いたいことがたくさんあった。その殆どが、謝りたいことだったけど。それでも、帰って来た。あの子が、さくらちゃんが。


 開けっ放しにしていた車の扉を後ろ手で閉める。この二週間色々と伝えるべき言葉を考えていたはずなのに、上手く言葉が出てこない。

 返事だって考えたのに、結局浮かんで来たのはたったの四文字で。たっぷりと長い時間を書けて、その四文字を音に乗せる。


「おかえり」


 随分とありきたりで、自分でもどうしようもなくこう、もっとあるだろうと思った。本当に色々考えたんだよ。あの告白の返事も、これから俺がどうすべきかも。

 全部考えて、俺なりに誠実に、言葉にしようと思っていたはずなのに。結局出てきたのはおかえりと言う言葉だけ。


 そうじゃない。そういうつもりじゃなかったのに。もっと、さくらちゃんを労う言葉をかけたかったはずなのに。

 それなのに、当のさくらちゃんはそんな俺の言葉に何よりも嬉しそうに笑って見せて。ただその笑顔が眩しくて目を細める。


 言いたいことはある。伝えたいことも。

 けれどきっと、今やることはそのどれでもない。息を吸ってそのまま、思いっきり、さくらちゃんの方へ向けて地面を蹴る。


 まだ冷たい風に乗って、どこからか花弁がひらひらと舞い上がった。

 春はもうすぐそこ。



読んでいただきありがとうございます!


ヒーローにもなれないし、善人にもなれない。甘い関係にもなりきれない。

そんな男が、真っ直ぐな女の子と対当になれるのは自分から踏み込んでから。というような話になりました。


あくまで孝樹は一般人なのでさくらたちがどのようにしてカロンと別れたのか、プルートやバイデントたちをどのようにして退けたのかも知らないまま。


二人が恋愛関係になったり、対当な物語が終わってから。その後の二人についてはご想像にお任せします。

さくらと孝樹の話はこれで終わりですが、少し時間が空けてからまた別の視点でお話を続けていけたらなと思っています。

改めまして、ここまで読んでいただきありがとうございました!


評価や、ブックマークの登録をしていただけると、執筆の励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ