39 告白
「花びら舞い散る愛の光、フェアリーピンク」
ふわりと、彼女が笑った。
この笑顔を、俺は知っている。ずっと俺に向けられていたものだった。なんで気が付かなかったんだろうな。こんなにも、近くにいたのに。
ひらひらと舞う花弁とふわふわしたスカート。色の変わった長い髪。いつものさくらちゃんとは全く違う容姿なのに、どこか面影を感じさせて。
そうだ。俺は彼女に助けてもらった。一度目は商店街で、二度目は解体現場で親子を庇った時。それにきっと、あの銀髪の子供と話していた時も心配してきてくれたんだと思う。
何故さくらちゃんだったのか。
魔法少女は、怪物と戦う存在だ。不思議な力を使えるとはいえ、危険と隣り合わせのはず。そんなものに、どうしてさくらちゃんが。
「黙っててごめんね、孝樹さん。私……」
困ったような、少し寂しそうな顔でさくらちゃんが口を開く。
この子は、ずっと戦ってきたんだな。誰かのために。
さくらちゃんが魔法少女なら、カロンとあの少年の関係も何か知っているのではと思いもしたが、結局口にはできなかった。知って、どうなると、思ったのもある。今の俺に何もできるわけがないだろう。だから今は聞かない。
さくらちゃんはこの後、魔法少女として、戦いに向かわないといけない。今まで隠していたのに、俺の前で変身せざるを得なかったのは、今彼女たちを取り巻いている状況が今まで以上に深刻だからだろう。俺が、余計な発言でさくらちゃんの心をかき乱すべきではない。
「ずっと、さくらちゃんが街を守っていてくれたんだな」
何が大人だ、何が正しさだ。
そんなものがあったところで、俺は魔法少女として怪物と戦いに行くこの子を見送るしかできないくせに。
「危ないことするなって言ったじゃん」
「うん。ごめんなさい」
できるだけ落ち着いた声で、責めていないことが伝わるように笑いかければ、驚いたように目を丸くしたさくらちゃんがふわふわしたスカートの裾を握った。
別に俺を頼ってほしかったわけじゃない。けれどこんなことばかり言うから話せなかったんじゃないかとも思う。
さくらちゃんが魔法少女であることに納得はある。
何かしらやっているんじゃないかという気はしていた。まさか魔法少女をしているなんて思いもしなかったけど。
息を吸って、頭を下げた。
「大人なら、本当は行くなって止めなくちゃいけないはずなんだが、止めてやれなくてごめん」
なんとなくずっと、怪物は魔法少女が退治するものだと漠然と思っていた。押しつけていたと言ってもいい。
力がないから怪物を倒すには魔法少女に頼らないといけない。危険なことをさせたくないと言いながら、彼女に頼るしかない不甲斐なさがたいして良くもない頭の中でぐるぐると回っている。
さくらちゃんもカロンも、大人になりたいって言ってたけど、大人って大して何にも出来ないんだよ。子供の方がもっと自由で、何でもできるんだよ。
そのために、大人が子供を守ってやらなきゃいけないのに、何もできなくてごめん。全部さくらちゃんに押し付ける、卑怯な大人でごめん。
つらつらと、纏まらない言葉を吐き続けるのは、俺が許されたいからに過ぎない。罪悪感を吐き出して、楽になりたいから。
本当にどうしようもないな。
「孝樹さん、顔を上げて」
明るい声色のさくらちゃんに促され、固唾を飲んで、ゆっくり上体を起こす。
それが何かを認識する前に、何かが体当たりしてきた。温かく、柔らかい何か。花のような香りがふわりと広がる。
「あのね、ずっとあなたの優しさに救われていたの」
反射で受け止めたそれは、間違いなくさくらちゃんだった。
抱き着くように腕を回し、俺を見上げている。
柔らかい笑みと意志の強い瞳。きっと、彼女は行くのだろう。誰に言われるでもなく、怪物を倒しに。この街の日常を取り戻すために。
さくらちゃんはそのための力を持っている。どうしてその力を持ったのがさくらちゃんだったのかは知らないしわからない。他の誰かだったなら、なんて不誠実な考えもかすめてしまう。
別に俺は優しいわけじゃないんだよ、よく見られたいだけ。普通より、ちょっとだけいい位置にしがみついていたいだけ。
周りの目を気にして、自分は普通の大人です、なんて顔して振る舞っていただけ。
そんな、傲慢な奴なんだよ。
「あなたが誰かのために自分を顧みず頑張れる人だったから、私はあなたがいる世界を守りたいと本気で思ったの!」
なのに、許されたいと思ってしまった。世界を背負っているこの子の、帰ってくる理由になれるならと、願ってしまった。
今の俺に何ができる? 俺は彼女に何を差し出せる?
俺にとってさくらちゃんはまだ子供で、守るべき存在だった。危ないことはしてほしくないって、魔法少女だったと知った今も思ってる。
でも今はさくらちゃんを頼るしかなくて。でも俺の言葉でさくらちゃんが無事に帰って来てくれると言うのなら。
何よりも真っ直ぐで、誰よりも純粋で。
無邪気で、ちょっと危なっかしくて。
俺はそんなさくらちゃんが──。
「孝樹さん、大好きだよ!」
あと2話!
あれこれ理屈をこね回す男には物理で押すぐらいがちょうどいい




