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魔法少女と二代目。  作者: ささかま 02
魔法少女と解体業
30/41

30 それはとても傲慢な

 本格的に寒くなって来た。

 白く濁る息はいつもの街並みに溶けて消える。

 あれからカロンには会えていない。


 相手は子供、興味の対象が移っただけだ。そう言い聞かせてみるも、あの夜の難しそうな顔が頭から離れない。

 あの晩、何か他の言葉を投げかけられたら何か変わっただろうか。もし俺がなりふり構わず踏み込めていたら、あんな小難しい顔じゃなく、いつもの無邪気な顔で笑っていただろうか。

 とはいえ、カロンの名前以外何も知らない俺に何かできることもないのだが。


 澱のように濁った何かが腹の底に降り積もって、息を吐いてもなくならない。

 あぁ、いやだいやだ。いくつになってもできなかったという事実は重くのしかかってくる。人生何度目かの挫折になるのかねぇ。


 もう、カロンには会えない気がする。かと思えば、そのうちひょっこり顔を出してくれるんじゃないかという淡い期待もある。

 懐かれているつもりで、入れこんでいたのは俺の方だったか。


 楽しかったんだよ。普段は大人ばかりの環境だったから、カロンやさくらちゃんのような子供が、自分に懐いて、仕事風景を無邪気に楽しんでいるのを見るのが、嬉しかった。

 大人として、保護者とまではいかずともそれとなく見守っていけたら、なんて無責任なことを考えていた。


 信頼されるのも、頼られるのも自分じゃなくてもいい。

 これは、俺の逃げだ。責任を負わなくて済むように、言葉を整え耳障りを良くしただけの卑怯な物言い。本当はもっと関わるべきだった。誰の目とかは関係なく、どうしたら、何かが変わったかもしれない。


「今日! テスト最終日だったんです!」


 変わらないものもあったが。

 いつにもまして元気よくさくらちゃんが笑う。どうやら世の学生諸君はテスト期間だったらしい。正直もう学生時代なんて遠い記憶の彼方だが、テストが終われば長期休暇だ。いつの時代でも長期休暇は嬉しいもんだよな。


 もうすぐ冬休み! 冬休みと言えば、クリスマス! と、浮かれるさくらちゃんに微笑ましい気持ちになりながら、背後からの通行がないかだけ注意する。

 この辺りは歩道が狭いんだからあんまりはしゃぎ過ぎないの。


 何度か現場が変わりもしたが、変わらずさくらちゃんは俺を見付けては話しかけてくれる。

 彼女には、手が届いたと思っていいのだろうか。いや、きっと違うな。そういうのじゃない。こうして話をしに来てくれるのも、きっとこのお嬢さんの優しさに過ぎない。


「孝樹さんのクリスマスのご予定は?」

「仕事でーす」

「そんなぁ」


 俺はどうしたいんだろうなぁ。

 くるくると表情の変わるお嬢さんは可愛らしい。可能な限り、守り、導いてやりたいと思っていた。

 俺は、この子に対して何ができるか。何をしてやれるのか。


「クリスマスパーティーとかしたかったのに」

「大人しくお友達同士でしてくださーい」


 懐いて、くれている。

 それは有り難いことだと思う。でも同時に、大人として、他人としての線引きもある。どこまで許されるか、とか。傍から見た時にどう見えるか、とか。

 俺はそれを超えるのか。越えて良いのか。さくらちゃんは俺に、どういう役割を求めているのか。


「冬休みになったら会える日も少なくなるじゃないですか」

「折角の冬休みなんだから、もっと普段会えない人に会いに行きなさいよ。親戚とかさ」

「うーん。うち、そんなに集まる習慣がないので」


 少し拗ねたように口をとがらせるさくらちゃんを眺めて眉を下げる。

 会いたいと思ってもらえる内が花だよなぁ。それなりに親しい関係だと認識してもらっているんだ。さくらちゃんが俺に何を求めていたとしても、大人として、見守ってやるべきだよな。


 どうするべきか、どうしたいのか。

 じんわりと広がっている痛みはごまかせない。代わりにしているつもりはない。それでも、同じことは繰り返したくないと思ってしまった。

 他人だった、他人でよかった。他人だと、手が届かないと知ってしまった。


「年末」

「え?」

「二十九なら、一日空いてる」

「あ……じゃあ! クリスマスパーティー、は、遅いし、忘年会! 一緒にお出かけしよ!」

「ん。遅くなるのはダメだから昼間にな」


 締め日以降なら特に予定もない。母さんも旅行に行くと言っていたし、一緒に年を越す相手もいない。

 別に、その相手をさくらちゃんに求めることはないが、こんな風にパッと表情を明るくしてくれるなら、少しくらい手を伸ばしても許されるだろうか。


 果てしなくグレー。いやはっきり黒だろうし、よくないとも感じている。本来ならこんなこと言わないし誘わないんだがな。

 ただどうしても。取りこぼさずに済んだ存在を確かめたかった。そんなエゴ、欲求などの自分勝手な感情を庇護欲という言葉に置き換えて、汚い部分をひた隠す。


「約束ですよ!」


 無邪気に笑う彼女は、綺麗なものだけ見ていればいい。大人になったら否が応でも見なきゃいけないものだって出てくるんだ。

 なら子供のうちは、綺麗なものだけを見て育ってほしいと願い、そういう物を排除するのも大人の務めだろう?


 だから。

 大人の皮を被ったどうしようもない男のことなんか、気が付かなくていいんだよ。




それを正しさとして偽装していることも自覚している。


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