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魔法少女と二代目。  作者: ささかま 02
【ピンク編】魔法少女と解体業
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29 見切り品のティラミス


 すっかり暗くなった夜空を見上げてため息を吐く。

 外気は肌寒いが、生憎現在は酒が入っているせいもあって、芯から冷えるような感覚は無く。ほのかな熱と疲労感を追い出すためにコンビニの灰皿前でぼんやりと覚えてもいない星座を探している最中である。


 悲しいかな、つい先ほどまで懇親会という名の、同業他社の経営陣におべっかを言い募った帰りである。

 忘年会の意味合いも兼ねていたのだろうが、そんなのどうだっていい。つっかれたわー。


 酒の席でもあったので呼んだタクシーで最寄りのコンビニに乗りつけてもらって、コーヒーとタバコを買い駐車場で一服。

 十二月に入って急に冷え込みだした。明日辺り、もう一段暖かい上着を出すか。


 肺の奥にたまった息を吐く。タバコなのか、はたまた外気で冷えた水蒸気なのかわからないが、とにかく夜の闇に息が白く燻った。

 そんな時だった。さぁ帰るか。なんて、コンビニの袋をガサガサ鳴らし振り返った先に、アイツはいた。


 カロンだ。

 コンビニの店内から漏れる明かりが黒い髪を照らしている。ここで会いたくはなかったな。


「よう。子供は家で寝る時間だぞ」

「……」


 難しそうな顔をしているカロンに軽口で話しかける。

 無言のカロンにどうしたものかと悩み、とりあえずコンビニの袋からさっき買ったばかりのティラミスを取り出して渡した。


 レジ横で半額になった見切り品だ。大したものではないが、夜中にこっそり食べる菓子ほど、美味いものは無いからな。

 それ食べて眉間に入りかけたシワをさっさと解しなさいよ。


「いい子だからそれ持って家に帰りな。何なら送ってくが?」


 大人しく受け取ってくれたカロンに安心しつつも、懇親会で酒を飲んだことを早くも後悔する。飲んでなかったら一度家まで連れて行って車で送っていくんだがな。

 こんなことならタクシーを帰らせなければよかった。まぁ、コンビニで降りて買い物をしなければカロンに会わなかったんだが。


「なぁ、コーキはさ。オレが酷いことしたらどうする?」

「どうって、普通に叱るけど?」


 何を言い出すかと思えば、既に夜中に一人でうろうろして、十分酷いことしてるだろ。

 家の人、かどうかはわからないが。とにかくお前を知る人は皆、心配しているから早く帰りなさいな。


「ちゃんと叱って、何が悪かったのか教える。お前が理解できるまで、何度でも」


 俺はカロンがどういう環境に身を置いていて、何をしているのかも知らない。

 だが、大人としてそういうのが役目でしょうよ。憎まれても、うざがられても、道を外さないように、可能な限り導いてやる。それが、大人として俺にできることだと思う。

 ただ、いささか今の俺は、その可能な範囲が小さすぎるのが難点なんだがな。


「ヘンなやつ」


 カロンが笑った。

 あぁ、嫌だな。呆れたような、仕方ないものを見るような。そんなカロンの笑顔が、あの怪物と一緒にいた子供とよく似て見えた。


 何だって、こんなところでカロンに会うんだよ。ここは、あの時あの子供と会った場所だぞ? 何で同じような行動範囲にいるんだよ。

 せめて会った場所だけでもズレていれば、他人の空似でコイツとアイツは全くの無関係だって、自分に言い聞かせられたのに。


「帰る」

「あぁ。送ってくか?」

「いらない」

「そっか」


 端的に返すカロンにこちらも短く返す。

 以前会った怪物の少年は一体何だったのか。あの少年と話している時、カロンを思い出した。

 二人の少年は同一の存在ではないのかという仮説を無視しつつ、こちらへ向けられた小さな背中に口を開く。


「暗い中、一人で歩くなよ」


 言語化したくない焦りが、ずっと頭の中にある。

 否定したいが、否定するために明言もしたくない気持ちを説明するには、アルコールに侵された俺の貧弱な頭では、どうにもスペック不足で処理落ちしそうになる。


「また現場に来いよ、見学させてやるから」


 矢継ぎ早に、頭の中にある本筋とは関係のないことばかりを口にする。

 素直に引き留めればいいのに、世間体だとか、自分と他人の線引きだとか。自己防衛ばかりに締め付けられて上手く言葉が出てこない。


「さくらちゃんとも、仲直りしろ」


 このままはよくない。さくらちゃんとの関係もそうだが、カロンを取り巻く環境も、きっと。

 本当は、なんでこんなところに一人でいるのか、とか。保護者はどうしたんだ、とか。そういうことをちゃんと聞いて、悩みや手助けが必要ならちゃんと助けてやらないといけない。そのはずなのに。


 そのための言葉が、出てこない。

 手を差し出してやるべきなのに、何をどう考えても、伸ばした手は振り払われる気しかしなくて。


 なら俺はどうすればよかったのか。

 最初から関わらなければよかった、なんてそんなことはありえない。無邪気に解体現場を見て笑うカロンに、日々の疲れを忘れていたのも事実。なら。


 困っているなら助けてやりたかった。

 助けを求められなかった。


 俺はカロンやさくらちゃんにとって、ただの知り合いで、他人よりは少し近いだけの存在。それでいいと思っていた。その距離がもどかしくなってしまった。

 夜の闇に消えたカロンの背中に、そっとため息を吐く。

 俺に、何ができたのか。


 なんとなく、カロンとはもう会えない気がした。






ヒーローになれるほどの力もなく、取り繕うような善良さしかない男はギリギリ手が届かない。


次回からしばらく毎日投稿します!

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