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魔法少女と二代目。  作者: ささかま 02
【イエロー編】時計ウサギと昼の月
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123/123

40 春の月


 さて。魔法少女たちによる尽力のおかげで世界に再び平和が訪れて、約一か月が経過したわけだが。

 街はすっかり元通り、というわけではないが壊れた建物などは再建しつつも住人は皆、今まで通りの日常生活に戻りつつある。


 いいのか、それで。とも思わなくもないが、よく考えたら大型地震でも交通や街全体に大ダメージがなければ普通に日常生活を送る国民性だったわ。

 実際に空が明るくなって数日で高校も再開したし、そんなものか。


 あの後、個人的に変わったことと言えば大学入試の結果発表があったり、ちょうど今日高校の卒業式があったくらいか。

 それから、以前よりも少し梨穂が我儘を言うようになったこととか。


「なんで先に卒業するんですか」

「そうは言われましても」


 それなりに長くありがたい校長の話が終わり、卒業式の帰り。ぽすぽすと人の腕を叩きながらむっすりとした顔で梨穂が言った。

 留年しろってか? 勘弁してくれ。


 見慣れた住宅街を並んで歩く。高校からの道をこうして並んで歩くこともなくなるのだろうか、なんて感傷に浸る暇も与えてくれない程度には、ぐいぐいと流れるような動作で、いつもの公園に連れ込まれた。

 風が吹いて、公園に植えられた桜が揺れる。いつも見てたつもりだったが、アレ桜の木だったんだな。


「もう! わかってます? 私怒ってるんですけど!?」

「わかったわかった。これやるから機嫌直してくれ」


 当然のように休憩所のベンチに荷物を下ろして、鞄の中から学校で受け取った紅白饅頭の箱を梨穂に渡す。受け取りはしたものの、まだ不満げな表情だ。

 ここ数日、ずっと梨穂とは同じようなやり取りを繰り返している。実際卒業するなと言われても、大学も決まっているし、本人も本気で留年してほしいわけではないようなので好きなだけ言わせている。

 まぁ、基本的にこうして不満を言いたいだけらしい。それですっきりするならいくらでも言えばいいんじゃね?


「……一人で二つは多いんで、一つ食べてください」

「ん」


 ピンクの方を箱から取り出して、突き返された箱を受け取る。薄いビニールの包装された白い皮のまんじゅうは甘く、普段はコンビニのスナック菓子ばかり口にしているから妙な感じだ。

 この状況に熱い茶でもあれば簡素な花見にでもなるのだろうが、そこまで用意はない。


 ちらりと隣を盗み見れば、口に合ったのか表情は難しいままだがピンクのまんじゅうをちまちまと食べている。

 最近、見てて飽きないんだよなぁこいつ。ころころ表情が変わるようになったし。


「……ごちそうさまです」

「ん。ゴミかせ」


 食べ終わった後の透明のフィルムを回収して一息。

 風が吹くとまだ少しひんやりとはするが、暖かい日差しが心地いい。すっかり機嫌は直ったらしい梨穂が、ごそごそと自分の鞄を漁って何かを取り出した。


「これ、あげます」


 差し出されたのは丁寧にラッピングされた薄い箱。隣を窺うも、その顔はつんとそっぽを向かれている。

 特に何も言われないのでそのまま受け取り、ラッピングを解いてゆく。卒業祝いとして受け取ればいいのだろうか。

 包装紙とリボンを解き蓋を開ければ、現れたのは皮のパスケースで。どうやら、大学は美空町から電車で六つ先の駅だと話していたのを覚えていたらしい。


「卒業と大学の合格祝いということで。クリスマスのお返しもまだでしたし」


 梨穂が悪戯っぽく笑った。

 そういえばクリスマスに送った時計をいつも持ち歩いているとも言っていたな。気に入ってくれたようで何よりだが、別にアレは半分自己満足みたいなものだし気にする必要もないのに。


「ありがとな、大事にする」

「はい。大事にしてください」


 通学定期を買うつもりではあったし、さっそく四月から使わせてもらおう。

 手触りの良い皮のパスケースを一撫でして、箱の中に戻す。隣で、指を組んだ腕を付き出し梨穂がぐっと伸びをした。


「あーあ。今日でこうして、英時君と一緒に帰るのも終わりなんですね」

「別に、会えなくなるわけでもねぇだろ」

「それでも、ですよ。私、英時君と並んで歩くの好きだったので」


 かさかさと風に吹かれて桜の花が舞う。何とも平和な風景だ。ただ、少し、欠けてしまったものもあるが。

 改めて、何もかもが終わって、隣の女子生徒は普通の学生に戻った。もう視線の先にP5はいない。それでも、P5がいなければ俺たちは関わらなかったし、アイツがいたからこの公園にも愛着が沸いた。


「呼べばいいじゃん。そのために連絡先交換したんだし」

「いいんですか? くだらないことで呼び出しますよ?」

「ある程度は都合付けて会いに行くが?」


 お前、受験前にも会いに来ただろ。そう言えば梨穂は、ふーん? と、何やら嬉しそうな顔をしていて。

 かと思えば、ほとんど頭突きのようにして肩に頭を乗せられた。


「痛って」

「我慢してください」


 鞄の中から、取り出したペットボトルを取り出して炭酸飲料を飲む。

 常温のそれは生ぬるく、爽快感のかけらもないが、こんなものだろう。


「ねぇ英時君」

「何?」

「これからも、こうして会ってくださいね」

「はいはい」


 約束です、と付け加えられた言葉に軽く頷く。随分と、機嫌のいいことで。まぁコイツの機嫌がいいとこちらも気分がいいので構わないのだが。

 ふっと、息を吐く。今日は少し風がある。冷える前に解散するべきなんだが、春の日差しも相まってどうにも動きにくい。


 風が吹く。肩の、片側が温かい。もう少し、このままで。なんとなく、やることもなく空を見上げる。

 桜の花弁が空へ舞い上がって春の空に浮かぶ昼の月を飾った。


読んでいただきありがとうございました!

これにて、完結です!



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