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変わり者の騎士長

 フォスさんは、私を仕事場に連れて行くという言葉を実行へと移した。

 着るようにと手渡された服は、いつの間にか洗濯されていた私の服。それに着替えると、すぐにフォスさんと一緒に家を出た。

 フォスさんは白い軍服に身を包んでいる。すべてが白く、美しさも極まっていて、見とれてしまうくらいだ。街をすれ違う人の視線もそう物語っている。

 そんな視線の中を通り抜け、私はフォスさんとこの魔の街に立っている王宮の近くに建てられている“騎士棟”なる建物の1つにやってきた。





 建物内にはいろんな見た目のヒトがいる。

 動物のように毛が生えていたり、鱗が生えていたりする肌を持っているヒト。人間と同じような肌をしているけれど、人間にはあるはずのない翼や余分な手足を持つヒト。

 これまでの18年間、こんなに自分と違う姿を持つヒト達を見たことはない。


「どうしたナツキ?」


 敵意を向けられたわけじゃないけど、人間とはあまりにかけ離れている姿のヒト達の姿が怖くて、フォスさんの袖にしがみついていた。


「なんでもないです!」


 そう言ってすぐにしがみついていた手を離した。

 しばらく廊下を歩いていると、すれ違う魔族のヒトにじろじろと見られていることに気が付いた。魔族側からしても、こんなところを人間が歩いているのだから何事かと思ったのかもしれない。

 だとしても、不快で仕方なかった。


 しかしながら、なんでフォスさんは私を仕事場に連れて行くなんて言いだしたのだろうか。


 逃げないように見張るため? いやいや。それは無いな。この国から出られないって言ってたし、能力的にも逃げ切るなんて絶対にできないだろうし。


 あれやこれやと考えてはみたものの、しっくりいく答えにたどり着けない。結果、そもそもフォスさんの考えることは斜め上を行っているのではという考えに至った。

 それならばと率直に本人に聞くことにした。


「あの、なんで私はフォスさんのお仕事について行かないといけないんですか? 邪魔になるだけじゃ」

「ん? それはだなぁ、俺がお前を自慢したいからだ」

「は?」


 耳を疑った。


 今なんて言った? このヒト……自慢したいから?


「た、たかだかそんなことのために、部外者連れて仕事に来たんですか⁉」

「今そう言わなかったか?」


 聞いたよ、聞いたけども……


 そんなことをして怒られないのだろうかと疑問に思ったけれど、怒られるも何も、フォスさんは騎士長。立場がすごく上の人なので、怒る人がいないのかと納得した。


「……言いました。愚問でした。すみませんでした……」

「? 何故謝る?」


 フォスさんは項垂れて高速で謝った私を、不思議そうに見ていた。


「まぁ、そういうことだ。今からナツキ、お前を俺の部下たちに会わせる。あいつらは、お前が人間でも卑下したり邪険に扱かったりすることはしないから安心してくれ」

「は、はあ……」


 そんなことを言われても、これまで魔族に免疫がなかったのだ。

 フォスさんみたいに人間に近ければそんなに怖くないから、普通に話せるかもしれないけれど、見た目が怖かったら絶対に普通に接するなんて無理だ。

 フォスさんの部下に会うのが憂鬱で仕方がない。




 建物を抜けると、裏庭のようなところに出た。

 そこには、木で作られた剣を持ち、打ち合いをしている魔族のヒトがたくさんいた。この人達がフォスさんの部下の騎士さん達なのだろう。

 人とかけ離れた姿をした騎士さん達が怖くて、私はフォスさんの後ろにサッと隠れた。

 フォスさんはそれを察したようで、私の頭に手を伸ばした。


「大丈夫。ここにいる連中はお前にひどいことをしたりはしない」

「うん」


 安心させようとしているのか、ゆっくりと頭を撫でられた。

 心地よくて、体の緊張がほぐれていった。

 フォスさんの顔を見ると、目が合い、笑いかけてくれた。


「もう大丈夫だな」


 フォスさんの手が離れていった。


「あっ……」

「ん? どうかしたか」

「なっ、何でもないです!」


 いったい何を考えて。もっと撫でててほしいとか、ありえない!


 私は頭を振って邪念を払った。

 その行動を見たフォスさんには、ふっと笑われてしまった。

 私の気がまぎれたことを確認したフォスさんは、私から視線を外した。


「おーい! 皆来てくれ! 今、共に住んでいる者を紹介する!」


 フォスさんは練習中の騎士さんたちを大声で呼び寄せた。

 どの魔族のヒトも嫌そうな顔をせず、むしろ好奇心に駆られた顔をしてやってきた。

 その中でも好奇心が強い、オオカミのような顔をした魔族が興奮気味にフォスさんに話しかけた。


「おおおおお! 騎士長やったじゃないっスか! 念願の人間の女の子! けど、奴隷買うの嫌がってたし、どうやって知り合ったんスか?」

「聞いて驚け! 森で散策していたらな……迷子になっていたのだ!」


 この言葉を聞いた騎士さん達の顔からは、一瞬にして血の気が引いていった。

 魔族はどうなのかはわからないけれど、人間と似た感覚を持っているヒトならば、そんな反応になるのは当然だ。


「えっと……ってことは、まさかとは思いますけど、無理やり連れて来たんじゃ……」

「無理やりとは失礼な。きちんと手順は踏んだぞ!」

「って、言ってるけど、本当のところどうなんスか?」


 今度は私に向かって質問をしてきた。

 このオオカミのヒト、見た目はちょっと怖いけど、嫌なヒトではないみたい。

 だから私はフォスさんに対する嫌味いっぱいに、元気よく笑顔で答えてあげることにした。


「同意はしていません! 勝手に話を進められました!」

「……騎士ちょぉぉぉぉぉ!」


 その魔族はフォスさんの両肩を掴み、大きく前後へ揺らした。上司相手にしていることとは思えない。


「何やってんスか‼ 嫁にするならもっと手順踏んでくださいよ‼それじゃ、買うのと大して変わんないじゃないっスかぁぁぁ!」


 どうやら、全員が全員フォスさんみたいな考えではないらしい。少なくともこの男のヒトには話が通じそうだ。


「ラウル、いい加減やめときなって。フォス騎士長、目まわしちゃってるから」

「え?」

 

 横から現れた女のヒトに言われて揺する手を止めると、フォスさんは目を回していた。

 ラウルさんと呼ばれる人は焦ってフォスさんを横に寝かせ、必死にフォスさんに呼びかけている。


「しっかりしてください、騎士長! 騎士ちょぉぉぉぉ‼ 俺まだ死にたくないっスーーーー!」


 ……えぇ……何このコント……


 ラウルさんは地面に臥せって嘆いていた。


「騒がしくてごめんね。この男、アホだから。あ、私ミリアーナっていうの。ミリアって呼んで。あなたは?」


 ラウルさんを止めた女のヒト、ミリアさんが声をかけてきた。

 パッと見の顔は人間にかなり近いけれど、体には蛇のようなうろこが生えていて、髪の中に蛇が紛れて顔を出している。人間の世界の物語に出てくるメデューサのような姿だ。

 顔を合わせても石にはされないから、メデューサではないみたいだ。


「えっと……ナツキ・フォーリアです……」

「ナツキね! フォスのことだから、これからもきっと頻繁に顔を合わせることになると思うし、よろしく! 仲良くしてね」


 無邪気そうな笑顔を向けてきた。愛想の良い女性だ。頭の蛇は怖いけれど、彼女自身とは仲良くなれそうな気がする。


 そういえば、このヒト達だけじゃなく、周りで野次馬になっているヒト達も私のことを受け入れてくれていような気が。


 思い返せば、建物内でじろじろと見て来たヒトも私を嫌な目で見て来たヒトはいなかった。ただ、「誰だ?」みたいな目だったような。


「あの、魔族の皆さんは人間のこと、私のことが嫌じゃないんですか?」


 昔、学校かどこかで、人間が魔族を嫌うように、魔族は人間を蔑んでいると教えられた。なのに、ここのヒト達の態度は私を受け入れてくれているような態度。不思議だった。

 だから、私はミリアさんに聞いてみた。


「うーん。フォスの下についてから、あんまり人間がどうこうっていうのはなくなった感じかなぁ。自分の夢と人間語りがすごいから、あのヒト」

「そうなんですね」

「そうなの。この前お見合いの話が来た時も、魔族の女なんて可愛げがないから嫌だ! 俺は可憐な人間の女性と生涯を共にするんだぁ、とか言って騒いでたし。もう皆耳タコよ」

「へ、へぇ……」


 教えてもらったフォスさんの変わり者の発言内容には、もう驚きはしない。けれど、部下にまでそんなことを、しつこいくらい言いふらしていると聞いて、さすがに顔が引きつってしまった。


 それにしても、フォスさんのこんな姿ばかりしか見聞きしていないけど、いつもはどんな感じのヒトなんだろう。


「あ、あと、フォスさんって、騎士さん達から見てどんなヒトですか?」


 ミリアさんは、私が何を気にして、何を聞きたかったのか察してくれたようだった。

 クスリと笑って、教えてくれた。


「悪い人ではないから大丈夫よ。人間オタクだとでも思ってくれれば。ただ、私たち魔族から見ても、変わったヒトなのは間違いないかな。考え方とか極端だし」


 なるほど、やっぱりフォスさんは他から見ても異常なヒトということはわかった。知りたくはなかったけど…


 私がどんよりしている姿を見ていたミリアさんは、少し困った顔になっていた。


「攫われちゃったのは可愛そうだけど、騎士長があれだから向こうの国に帰るのはあきらめた方がいいわ。まぁ、その代わり騎士長のお金を搾り取ってあげなさい。いっぱい我儘言って。それくらいしたって罰は当たらないわよ」


 ミリアさんはウインクを投げて来た。

 怖いと感じる魔族のヒトからとはいえど、気をつかって励ましてくれたのはとても嬉しかった。


「そうします」


 気持ちは晴れなかったけれど、今の私にできる精一杯の笑顔をミリアさんに返した。

 話をしていると突然背後から、首に両腕を回され、抱きしめられた。

 本当にいきなりのことだったので、逃げようと反射的に背後のヒトの胸を押そうとした。けれどその手はすぐに捕らえられてしまった。


「おっと、逃げんでもいいだろう」


 抱きしめてきたヒトの顔を見上げた。そこに立っていたのはフォスさんだった。

 さっきまで気を失っていたフォスさんに声をかけ続けていたラウルさんはというと、頭を押さえてうずくまっていた。


 げんこつでもされたのかな……


 フォスさんは、掴んでいた手を放し、腕の中からも解放してくれた。


「随分と仲良くなったんだな、お前達。何の話をしていたんだ?」

「フォス騎士長の悪口ですよ」


 ミリアさんは悪びれた様子もなく質問に答えていた。

 フォスさんは悪口を言われているとは思っていなかったようで、眉をしかめた。


「む。悪口だと? 俺のことについて話すなら、いかに俺が素晴らしい男か教えてやってくれてもいいじゃないか」

「どの口がそんなこと言ってるんですか。子供を誘拐してきたくせに」

「誘拐とは失敬な! 俺はきちんとーー……」


 ミリアさんとフォスさんはどうやら仲がいい? ようだ。

 はじめのうちは飄々としていたフォスさんだったけれど、ミリアさんとの言い合いにだんだん押され気味に。ミリアさんはなんだか楽しそうだ。



 ここでミリアさんと話して、とりあえずフォスさんは変な人ではあるけれど、一緒にいてもヒドイことはしてこないヒトという認識で大丈夫だろうということはわかった。

 そして、フォスさんの部下の騎士さんたちも信用してもいいヒト達。


 まぁ、それがわかったところで大してこれから先のことが変わるわけではないんだけれど……


 まだミリアさんとフォスさんは言い合っている。


 ……なにかあったミリアさんを頼ろう。


 それではなんとかなりそうな気がした。

 お読みいただきありがとうございます。

 うーん……一人称で書いているせいか、設定が悪いのかうまく書けている気がしなくて悩み始めてしまった今日この頃です……だんだん面白くないのではという心情に陥るというあれですね……ただそれだけです。

 ということで、でわ、また次回!

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