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新しい家族

 フォスと出会ってそろそろ1年が経とうとしている。

 それだけの日々が過ぎると、私にも騎士さん達意外の顔見知りができた。安心とまではいかないけれど、今では1人でフラフラと街中を散策できるようになった。

 フォスはそれを一応許してくれてはいる。けど、本心としては何が起こるかわからない街中を、私一人では歩かせたくはないみたいだ。フォスが騎士長の仕事でいない日に、買い物に出かける予定だと伝えるといつも心配そうな顔をする。

 けど私もずっと家に籠っているのはさすがに飽きるし、買い物をしておかないとフォスのためにご飯も作れない。

 だから私はフォスの心配に気がつかないフリをして、ヒト通りの多い街中へと出かけていく。



 この日も夕飯を作るため、1人で買い物に出かけていた。

 ほとんど買い物を終え、残り1軒の目的地へ向かっていると、後ろの方から私の事を呼ぶ声が聞こえてきた。


「ナツキちゃぁぁん!」


 振り向くと1番仲が良い魔族の女の子が手を振りながらこっちに向かって、4本の足をせわしなく動かしていた。


「アルカ? どうしたの?」


 彼女はアルカティーナ。手足が多く、人間の私にとっては不思議な姿をしている。とても明るくて話しやすい女の子だ。

 アルカは数か月前にこの街に引っ越してきた。

 引っ越し早々に迷子になって、道中であわあわしているところに私とフォスが居合わせ、道案内をしてあげた。

 それ以来、アルカとは一緒に買い物をしたり、ご飯を食べたりする仲になった。容姿に慣れてしまえば、普通に良い友達だ。


「ねぇ、今から時間作れない? 一緒にお茶したいなぁ、なんて。ねぇ、ダメ?」


 期待する子供のような眼差しを向けて、誘ってきた。

 これで断ったら今度はあからさまに落ち込んでしまうから断りにくい。断る気は無いけれど。

 どうせ、買い物終わったら行くところもなく、フォスが帰ってくるまで暇なのだ。


「いいよ。でもあと1カ所行きたいところあるからもうちょっと待ってくれる?」

「うん、待つ待つ! やった! で、どこに行くの?」

「すぐそこ」


 私は数メートル先の店を指差した。そこは魔族の国の野菜だけでなく人間の国からの輸入品もいろいろ置いているからとても重宝している。常連を名乗ってもいいほどお世話になっているはずだ。

 アルカは向かう先を確認すると私の手を掴んだ。


「じゃあ行こ! すぐ行こ!」

「わかったからそんなに引っ張らないでよぉ」


 周りからの視線も気にせず、アルカは私を急かしながら店へと引っ張って行った。



 店先には仲良くなった店長さんが立っている。

 私たちに気がついた店長さんはにっこり笑った。


「やあ、ナツキちゃん。今日は旦那さんとじゃなくてアルカちゃんとお買い物かい?」

「はい。でもアルカとはさっきそこで会ったんですけどね。お茶しようって誘われたので、この後一緒に行くつもりなんです」

「仲良しだねぇ。そんなに仲いいとアラノースさん妬くんじゃないかい?」

「たぶん妬いてると思いますよ。アルカと遊んだ話をすると不機嫌になるんで。だから遊んだよって事だけで、詳しくは話せないんです。本当はいっぱい聞いて欲しいんですけど」


 店長さんはアッハッハと豪快に笑った。

 豪快に笑われる理由がわからずにポカンとしていると、少ししてから店長さんは笑うのをやめて言葉を続けた。


「やっぱりねぇ。アラノースさんはナツキちゃんのこと溺愛してるからね。その方がいいかもね」


 どうやら店長さんは思った通りのフォスの溺愛具合と嫉妬深さに笑ったらしい。

 しかしながら騎士さん達意外にもバレバレだと思うと恥ずかしい。


「やっぱり、そういうふうに見られてるんですね……」

「うん。そりゃあね。アラノースさんのナツキちゃんのことを見る顔があからさまだし」

「うぅぅ……」


 自分の顔が赤くなっていくのが、鏡を見ずともわかった。

 私は両手で顔を覆った。嬉し恥ずかしで、なんて返していいかわからない。


「ナツキちゃん……」


 今まで私と店長の話を横で大人しく聞いていたアルカが申し訳なさそうに視界の中に入って来た。

 すると店長さんが思い出したように口を開いた。


「ああ、ごめんごめん。これからお茶しに行くんだったね。今日は何がいるんだい? 今日は鳥のタマゴは売り切れちゃったんだけど」


 私も店長さんと話し込みすぎてアルカとのお茶の事を忘れてしまっていた。

 それに店長さんも仕事があるのだ。長居をしては商売の邪魔になってしまう。

 現に私の姿に、商品を見たいけど近づけないと距離を置いて待っているヒトが何人かいた。

 そうしてまで買いたいという人がいるほど、このお店は品ぞろえもいいし、質も良い物を置いてくれている。

 私のせいでお店を閉めなければいけなくなるような事態はあってはいけない。


「大丈夫です。カカリアとククルックの実を買いたかっただけなので」

「ああ、それならあるよ。数はこれくらいでいいかい?」


 店長はすぐにその2種類を持って来てくれた。


「はい。ありがとうございます」


 私はカカリアをククルック受け取ると、その手の上に代金を乗せた。

 店長さんはそれを確認するとにっこりと笑った。


「ちょうどだね、毎度」

「また来ますね、店長」

「ああ、いつもりがとな」


 買ったものをカバンの中へ詰め込むと、くるりと向きを変えアルカを見た。


「お待たせ。行こうか」

「荷物を置きに帰らなくて大丈夫?」


 アルカは私が持っている、たくさんの荷物の入ったカバンを見ていた。

 たしかにかなり重たくはある。

 けれど、早く冷やさないといけないものはない。


「生ものは無いから大丈夫。立って話すわけでもないでしょ?」

「そうね。ナツキちゃんがいいならそれでいいわ。それでね、最近できたお店があるんだけどー」


 もじもじした態度に若干申し訳なさそうな話し方。

 それで私はあらかたを察した。


「1人で行こうとして、途中で迷ったんだね」

「えへっ」


 ご名答のようだ。

 アルカはポシェットの中をごそごそ漁り始めた。


「地図書いてきたんだ。本で紹介されてたんだけどカバンに入らなくて。ここに行きたいの」

「えーっと…………これは……」


 アルカが取り出したのはたしかに地図だ。目印になる建物は書いてあるけれどかなり省略された地図。街に慣れた私にはなんとなくわかるけれど、迷子になりやすいアルカはこれでたどり着くのは難しいだろう。


「これで場所はわかる?」

「うん。わかるけど……」

「ほんと! やったー!」


 アルカの喜びように、「もっときちんと写そうよ」と言うタイミングを逃してしまった。





 簡単に書かれた地図を見ながら向かうと、魔の国には似合わない外観の建物へ行きついた。

 私にとっては見慣れた、懐かしい雰囲気の建物だ。


「ここって、人間の国のカフェを元に造られたのかな?」

「そうなの! やっぱりナツキちゃんにはすぐわかるのね!」

「うん。こっちのカフェに比べたらだいぶ大人しめな印象だからね。そういえばアルカは向こうに行ってみたいって言ってたっけ?」


 アルカもフォス同様ちょっと変わり者に部類される魔族だ。ただ関心が向いているのは人間そのものではなく、人間の文化。

 一緒に出掛けると文化や習慣について根掘り葉掘り聞かれることもある。

 アルカはそんな興味のある話題になったからかかなり上機嫌になった。


「いつかは行ってみたいとは思ってるわ! けど……でも関所を越えるのっていろいろ手続きが面倒らしいじゃない?」

「みたいだね。フォスさんもそう言ってた」

「でしょ? 私そういうの苦手だし。それなら、ちょっとでも雰囲気を味わえるこのカフェに行ってみようかなぁって思ったの。さあ、早く入りましょ!」


 関心を満たしてくれそうな建物を前に興奮気味になっているアルカに手を引かれ、お店の中へ入った。

 中は時間帯もあるのかもしれないけれど空席が目立っていた。見慣れない造りの建物のため敬遠されている可能性もある。

 けれどそれが私としては心地よかった。

 満席でたくさんのヒトにチラチラ見られるのはごめんだ。


「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」


 店員さんも感じの良い案内をしてくれたのでほっとした。

 基本的にこういったお店に入るとあからさまに嫌そうな態度や、異様に緊張されたような態度で接してこられるため、こういうさわやかな態度で接してもらえると嬉しくなる。


「ナツキちゃん! 向こうの席に行こ!」

「うん」


 私たちは窓際ではなく少し奥まった場所にある席へと向かった。

 たぶんアルカは窓側だと通りを歩く魔族のヒトに見られて私が落ち着かないという事を配慮して選んだのだと思う。

 席に着くアルカは早々にメニュー表を開いた。


「うーん、名前と絵だけじゃよくわからないわ」


 アルカは食い入るようにメニュー表を見つめていた。

 私にとっては見慣れたメニューばかりだ。自分では作らないような名前も並んでいる。


「アルカはどんなのが食べたいの?」

「そうね。甘いものが食べたいかも」

「じゃあ、この辺がいいと思うよ。これとか冷たくておいしいよ」


 私はソフトクリームの乗ったパフェを指差した。

 こっちの国ではシャーベットのようなものはあるけれど、アイスやソフトクリームといったものは食べられていない。人間の文化に興味があるアルカにはちょうどいいのではと思った。


「じゃあそれにする。ナツキちゃんが言うんだもん。おいしいこと間違いなしね」

「そこまで期待されると、アルカの口に合うのか心配になってくるんだけど」

「じゃあ期待しないで待っておくわ!」


 そう言っている顔はワクワクとした、とても期待に満ちている顔だ。大丈夫だとは思うけれど、アルカの口に合う事を祈るばかりだ。


「それじゃあ、私も同じものにしようかな。すみませーん、注文いいですかー?」

「はーい、すぐ行きまーす」


 私は店員さんに同じパフェを2つ頼んだ。

 店員さんはオーダーを確認すると「しばらくお待ちください」と言って去って行った。

 またアルカと2人きりの時間が流れ始めた。

 すると早々にアルカが口を開いた。


「ねえねえナツキちゃん、結婚式今月だよね?」

「うん」

「向こうの国の式に合わせるって聞いたんだけど、ほんと?」


 人間の国の文化に興味津々のアルカが聞いてこないわけがないとは思っていた。

 だからこの話題が出て来て、やっぱりなと思った。


「うん。ほんとだよ。フォスがどうしても向こうのがいいんだって言い張るから」

「いいなぁ。私も結婚式は向こうの様式で挙げてみたいなぁ」


 本当に羨ましそうに言っていた。

 けれどさすがに「したらいいじゃん」なんて無責任なことは言えない。


「となると結構お金かかるけど大丈夫?」

「なわけないよ。そんなお金はうちにはありませぇん!」


 アルカは投げやりに言った。


 まあ、そうだよね。


 人間側の国に沿ってという希望に合わせて提案されたプランの金額を見て私は目玉が飛び出そうになった。

 いろいろ手配しないといけないものが多いらしく、通常よりかなり高額だった。正直、フォスが騎士長という役職で、お金を貯め込んでいたからできたというくらいの金額だ。

 金銭面で絶望していたアルカが突然、いいことを思いついたと言いたげな表情をして、机越しに迫ってきた。


「ねぇ、ナツキちゃん達の結婚式、私も出席したい! お願い!」

「もう招待状手配し終わってるよ」


 そう言ってくるだろうという事も私はあらかじめ予測していたため、その辺りの準備は万端だ。

 なのになぜかアルカはショックを受けたように立ち上がった。


「そんな! じゃあもう無理ってこと⁉」


 どうやら言葉足らずで勘違いをさせてしまったらしい。

 私は慌てて訂正した。


「違う違う。言い方が悪かった。アルカの分も送るようにしてるから安心して」

「よかったぁ」


 アルカは心から安堵したように椅子へ座り直した。

 友達の式に出たいというより、人間の国での結婚式を見たいという欲求の方があからさまに強いことが伝わって来た。

 

 まあ、天然なとこあるし、こういう子だってわかってるから別にいいけど。


 私が苦笑いしていると、まだ何か聞きたいことがあるのかアルカが再びソワソワし始めた。


「ねぇねぇ、ナツキちゃん」

「な、なに? 挙動不審で怖いんだけど」

「そういうふうにもなるよ、気になるんだもん! あのさ、こっちの国とはどんな風に違うの?」


 アルカの熱意には敵わないと思った。

 私は始めに提案されたこちら側の国のプランを思い返してみた。


「うーん、一番違うなって思ったのはドレスかな。こっちでは赤とか黄色とか原色を使ったような派手なドレスでしょ? けど向こうは基本的には真っ白なんだ」


 他にも会場の作りだったり、ケーキのことだったりいろいろあるけれど、挙げていったらきりがない。その辺りは自分の目で見てもらうことにした。


「へー。汚したら目立ちゃうね。気をつかいそう」

「フォスはそこがよかったみたいだよ。汚れのないイメージが何とか言ってたから。ドレス選びも大変だったなぁ」

「なになに?」


 興味津々に食い入るように聞いてくる。

 これは普通に女の子として気になっているような気がした。

 私もこの話は愚痴として聞いて欲しかったから、気になってもらえたことが嬉しかった。


「どのドレスを着させるかでフォスとユキ姉、私のお姉ちゃんがもめにもめたの。なかなか決着つかなくて、それなら全部借りようなんてフォスが言いだしちゃって。何回着替えさせるつもりよって思わず突っ込んじゃった」


 アルカがフフッと笑った。


「あのヒトなら言いそう。ナツキちゃんのためなら全財産投げうちそうだもんね。結局どうなったの?」

「2着まで絞り込んだ。フォスさん希望のが1着とお姉ちゃん希望のが1着」

「ナツキちゃんの希望は?」

「うーん、私はとくにこれが着たいっていうのがなかったし、1着がものすごく高くて」

「アラノースさん、そんなこと気にしないんじゃない? むしろこれがいいって言ったら喜びそうだけど」


 アルカはほんとにフォスの事をよくわかっている。

 ドレス以外のことで私が「これがいい」と言うと、顔を輝かせて「じゃあ、それにしよう」と言っていた。


「楽しみだなぁ、ナツキちゃんの結婚式」


 アルカは自分のことのようにうっとりした声を出していた。

 これでは誰の結婚式の話をしているのかわからないというものだ。


「私より楽しみにしてない?」

「そりゃ、楽しみにするわよ。だって親友の結婚式だもの。おめでとう、ナツキちゃん」


 親友という言葉に胸が温かくなった。そう思っているのが自分だけではなかったという事が、私には涙が出そうなほどに嬉しかった。

 そして、私とフォスの結婚を快く思っていないヒトが多い中、嬉しそうに「おめでとう」と言ってもらえたことが何より嬉しかった。


「ありがと、アルカ」







 大きな鐘の音が鳴り響く。

 その音に交じって部屋の扉が叩かれる音がした。


「どうぞ」

「入るぞ」


 式が始まる前に白いタキシード姿のフォスが尋ねて来てくれた。

 フォスは私の姿を見ると、この上ないほど顔をほころばせた。


「衣装はあちらの国のものを選んで正解だったな。ナツキの姿がよく映える。綺麗だ。今夜はその姿を存分に堪能したいものだな」


 恥ずかしげもなくそんなことを言われて、私の顔は熱くなった。


「フォスもかっこいいよ。ずっと見ていたいくらいに。けど、わざわざオーダーメイドしてまで私に合わせなくてもよかったのに」


 フォスのこの姿を見ることができたのは嬉しいけれど、かなり手間がかかったことを考えるとそう思わずにはいられない

 主にフサフサの尻尾をどうにかいい具合に通すために、わざわざ人間の国の方まで赴いて、作らせたのだ。


「せっかくだ、ナツキと合わせたかったのさ」


 また扉が叩かれ女のヒトが入って来た。


「お時間です」


 ついにその時が来た。


「行こうか」

「うん」


 私は差し出されたフォスさんの手を取り、会場へと向かった。





 フォスと別れて、今はユキ姉が私の横に並んでいる。

 目の前の扉が開かれるのを、口から心臓が飛び出そうになりながら待った。


「うう、緊張してきたぁ」

「大丈夫よ! 私が一緒に歩いてあげるんだから! もっとシャキッとしなさい、シャキッと!」


 緊張をほぐそうとしてくれるユキ姉が背中を軽く叩いてきた。

 ユキ姉は、いないお父さんの代わりに一緒に歩いてくれるためにここにいる。

 はじめはフォスと一緒に入場する予定だったけど、ユキ姉が「お父さんの代わりは私がする! じゃないならナツキはあげないからね」なぁんて謎の理屈を持ち出してきて、フォスさんも「ユキは父親みたいなところがあるらしいからな。別にそれでもかまわんぞ」と乗り気になった結果がこれだ。

 1秒1秒を長く感じていると中から声が響き、扉が開かれた。


「ナツキ、行くよ」

「うん」


 両脇の椅子には見知った顔の人達。

 その間に敷かれた赤い道の上を、ユキ姉と一緒に歩いて行く。愛するあの人の元に向かって。

 ユキ姉から愛するヒトに渡され、前を向く。

 前にはわざわざこちらの国まで赴いてくれた神父様。

 つつがなく式は進み、終盤へとたどり着いた。


「――汝は、病めるときも、健やかなるときも、死が2人を分かつ日まで愛し続けることを誓いますか?」


 神父様の問いかけに、初めてフォスと心を通い合わせた時のことを思い出した。


 あの誘拐事件が起こってなかったら「無理!」って言って逃げてただろうな。


 けれど今は胸を張って言える。 


「はい、誓います」


 その瞬間何かが擦れる音がし始めた。音の位置的にフォスからだ。

 客席からはクスクスと笑う声が。

 何の音だろうと、フォスの顔を見ると珍しくも頬がうっすらと赤く染まっていた。


「では、指輪の交換をーー」


 向かい合って音の正体がようやくわかった。


 フォスが尻尾を振ってたのか。


 思わずフフッと笑ってしまった。


「嬉しかったんだね」

「当たり前だろ」


 フォスはさらに頬を赤く染めた。

 軽口をたたいた後指輪を交換すると、フォスさんが私の顔を隠していたベールをめくりあげた。


「ナツキ、幸せになるぞ」

「当たり前です」


 誓いの口づけをかわすと、式場全体が大きな拍手で包まれた。



 式が終わり、建物の外に出ると先に出ていたお母さんとユキ姉、騎士さん達、人間の友達、魔族の友達たくさんの人たちが祝福してくれた。

 たくさんの人に祝福してもらえたこの幸福な日を、私は生涯忘れないだろう。

 いつも淀んだ色で覆われている空も、私たちを祝福してくれているかのように、珍しく日の光が強く降り注ぎ、幻想的な光景を描き出していた。





 6年後――。


「オギャ――! オギャ――!」

「マーマ―! アキト、オムツかえてほしいみたいー」


 尻尾と頭に獣の耳が生えた小さな女の子が叫んだ。真っ白な毛並みはフォスにそっくりだ。けれど瞳の色は彼には似なかった。


「わかった。ありがとね、サクラ。すぐ行くから」


 サクラのお弁当を作っていた手を洗い、タオルで水を拭き取った。

 向かおうとしたところでガチャッと扉が開く音がして隣の部屋からフォスがやって来た。


「俺が替えよう。ナツキはサクラの弁当を作っていなさい」

「でもフォス、今から出るつもりだったんでしょ? 時間大丈夫?」

「なーに、多少遅れても問題ないさ。そんな事よりアキトのオムツを替える方が重要事項だ」


 フォスの溺愛の対象は私以外の2人にも適応されていた。

 自分だけじゃなくなったことを不満に思ったりなんてしない。むしろ喜ばしいことだ。


「仕事をそんな事って……」

「俺にとって家族の事に比べたら、仕事なんてそんな事程度のものさ。お前たち以上に大切なものなんてないんだからな」

「まったく、騎士長様の口からそんな言葉が飛び出したなんて、騎士さん達が知ったらなんて言うか」

「茶化されるだろうな」


 フォスと見つめ合っていると、しびれを切らしたサクラが再び叫んだ。


「こないならわたしがやるねー!」


 サクラのお姉ちゃんぶりは微笑ましいけど、さすがにそれはまずい予感しかしない。

 フォスも同じだったようだ。


「待て待て、サクラ! 1人でやってまた失敗したらどうするんだ。この前大変なことになっただろうが」

「こんどはできるもん!」

「手伝ってやるから、あ、こら! 待ちなさいと言ってるだろう」


 毎日が騒がしくて慌ただしい。けど、それを嫌だなんて思うことはない。

 だって傍には優しい旦那さんがいて、何があっても支えてくれる。私1人で抱え込んでいるわけじゃないから。

 可愛い娘と息子、そして愛しい夫に囲まれ、今も私は幸せだ。

 最後までお読みいただきありがとうございました!

 設定とか結末とかエピソードとかほぼ考えていない状態で書き始めたので、どうにか着地で着て安心しました。何を考えて始めたのか? ナツキとフォスの出会いの部分しか考えてなかったのです。出会いの部分を考えるのが1番好きなので、そこだけ考えて後先考えず発進しました……

 現在、1作品目の連載継続中なのでよろしかったらそちらも読んでいただけると嬉しいです。

 3作品目の下書きも現在執筆中なのでしばらくしたら開始すると思います。

 でわ、またどこかで!

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