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里帰り

 フォスさんの思いを知り、私がこの国に残ると決めてから2カ月が経った。

 時々意見がぶつかって喧嘩することはあるけど、それなりに仲良くやっている方だと思う。というか、あんな性格のヒト相手に意見が衝突しないヒトなんていないんじゃないだろうか。

 今、私はテーブルに座ってお母さんとユキ姉に宛てた手紙を書いているところだ。

 週に1回くらいのペースで、内容はその週にあったことを書いてみたり、フォスさんの愚痴を書いてみたりしている。お母さん達も同じくらいのペースで手紙を返してくれる。


 こっちに連れて来られたのいきなりだったからな。お母さん、私に心配させないようにしてくれてるのかもしれないけど、でも、元気そうでよかった。



 手紙でのやりとりを始めた頃、お母さん達から送られてくる手紙には当然のことながら、私への心配やフォスさんに対する怒りの色が色濃く出ていて、読んでいてつらかった。

 けど、最近では私が自分の意志でフォスさんの傍にいることを選び、楽しくやっていることが伝わったようで、表面上は認めてくれている文面になった。たぶん内心複雑に思っているのは間違いないとは思うけれど。

 こうして手紙のやりとりをしていると、お母さん達のいる家に帰りたい、その思いは段々と強くなっていく一方だ。

 けど、私だけで人間の国の方に帰るにはいろいろと面倒なことがあるらしい。フォスさんに頼みたくても、彼は忙しい身の上なのをしているので相談すらできず、帰るに帰れずにいるというのが現状だ。



 今日も手紙に最近起こった面白かった出来事について書いていると、フォスさんが声を発した。


「そうだ!」

「? どうしたんですか?」


 見ると、向こうのソファに寝そべり、くつろいでいたフォスさんはむくりと起き上がっていた。


「いやな、今日明日が完全な非番だったことを今思い出してな」

「あー、そういえばそうでしたね。副長さん達が全員戻って来てるんでしたっけ?」

「そうなんだ。大抵2,3人が遠征に出ているからな。今日は呼び出される心配もないし、やっと気兼ねせずに休める」


 フォスさんはぐったりとソファの背もたれに、もたれかかった。

 騎士長であるフォスさんにも週に1、2回の非番の日はある。

 けれど、万が一の際には出動しなければならないため、この街、というか街の体勢をした国から基本的には出ることはない。

 魔族の国は人間の国とは違い、わりと手のかかる問題が起こっているらしい。この2カ月の間にもフォスさんは3回ほど呼び出され、文句を言いながら仕事へ向かっていった。

 けれど、2カ月に1回くらいの割合で、副長と呼ばれる5人全員が揃うタイミングがある。

 その日は何があっても呼び出しがかかることはないらしく、完全な非番の日だとフォスさんは言っている。だからその日だけは国を出て、羽を伸ばせるらしい。


 優秀なヒト5人揃ってやっとフォスさんに匹敵するって……いったいフォスさんはどれだけ優秀な人材なんだろう。


「よかったですね。で? それがどうしたんです? せっかくなので少し遠出してどこか行きますか?」


 私は手紙に視線を戻し、書き進めた。

 思えばフォスさんと国外旅行、どころかこの国の外に出かけたことはなかった。


 国の外は治安が悪いっていうし、何か起こらないかっていう不安はあるけど……知らない土地でフォスさんと2人きり、っていうのも新鮮でいいかも。


 そんなことを考えてにやけていると、フォスさんはいつものごとく、それ以上の突然すぎて困る提案を言いだした。


「ああ、そうだな。それなら、今から君の親御さんにご挨拶をしに行こう」

「私の実家ですか。それはいいで、す……はい?」


 あまりにも自然に提案されたため、何も考えず肯定しそうになってしまった。

 フォスさんを見ると、若干浮かれ気分になっているようだった。


「よし! 今日を逃せば挨拶に行けるのはまた2カ月以上先だ。そんな不義理を働くわけにはいかんだろ。さあナツキ、すぐに出かける準備をしろ」

「ちょちょちょ! 待ってください! さすがにいきなりすぎますよ! 暇ならどこか別のところに行きましょう。絶景を見に行くとか!」


 慌ててフォスさんの行動を止めようとした。無理やりな代替案に自分でも何を言っているんだろうとは思う。

 けどなんの心積もりもなく、お母さんにフォスさんを紹介するわけにはいかない。

 手紙には私達の事を認めてくれているように書いてあるけれど、実際に会わせた時、子供を攫われた親の怒りが再び湧き上がってくるかもしれない。そうなればどんな言葉が飛び出してくるかわかったものじゃない。


 たぶんフォスさんはあんまり気にしないとは思うけど、自分の親と旦那が衝突する場面なんか見たくないよ!


 けれど、私の焦りなどフォスさんは気にする気配はなかった。


「うーむ、絶景か。心当たりはなくはないが、それはまた今度な。それより君の家族のことの方が優先だ。俺は何を言われても平気だし、君も家族に会いたいだろう? それとも、そうやって言うのは親と姉に会いたくないからか?」

「会いたくないわけないじゃないですか。会いたいですよ。だって突然、何の前触れもなしにこっち側に来ちゃったんですから」

「ならば今日行こう。思い立ったら吉日というやつだ」

「えぇぇ……」


 フォスさんは意気揚々と出かける準備を始めてしまった。どうやら泊まるつもりらしく、その準備までしている。


「ほら、ナツキも早く準備しろ。ぐずぐずしていると、到着するのが夜になってしまうぞ」


 そう言ってテキパキと準備を進めるフォスさんの事を、私はしばらくの間呆然と眺めていた。

 いきなり家に帰ることになり、どうしてもそれに乗り気にはなれなかった私は、どうにかフォスさんに思い直してもらえるよう説得を試みた。

 けれどフォスさんの考えは変わらなかった。

 私は仕方なく里帰りの準備をはじめた。とはいっても持って行く物はとくにはない。大体のものは向こうの家にあるのだから。


 修羅場……になんか、ならないといいけど……


「はぁ……」


 溜め息をつかずにはいられなかった。


 できれば、ちゃんと「帰るよ」って連絡して、フォスさんを連れて帰ることを認めてもらってから帰りたかったなぁ。


 準備を終え荷物を担いだところで、私の自室の扉を叩く音がした。


「ナツキ。用意はできたか?」

「はーい。今行きまーす」


 私とフォスさんは、私の実家に向けて出発した。





「ほう。人間がたくさんいるな」

「そりゃあ、人間の国ですから」


 数か月前まで暮らしていた人間の国の町、ファータスにフォスさんと一緒に帰って来た。

 私1人だと面倒だと言っていた国を渡る手続きも、フォスさんが一緒だったおかげなのか、あっという間に終わってしまった。

 何が面倒なのか聞いてみると、逃げ出す人間ではないかの確認のため、身分証の提示やら書類の記入やらいろいろあるらしい。



 ファータスの街中を、フォスさんの1歩後ろに付いて歩いていると、なんだか周りの視線が気になった。

 商業地区にいたときはあまり周りから見られることはなかったけど、住宅地区に入ってからはいろんな人に見られるようになった。

 ときどき知り合いとすれ違うけれど、誰も私に近づいて来てはくれない。

 この原因は間違いなくフォスさんの傍にいるからだ。


 耳と尻尾があるから魔族だってバレバレだしね。それにお母さん達が私の事周りに言ってるだろうから、ヤバい魔族がきたと思って近寄らないんだろうなぁ。


 私はフォスさんと2人、私のこの街での思い出話をしながら歩いた。

 フォスさんが突然歩く足を止めた。


「どうしたんですか?」

「ナツキ」

「なんです?」

「重要なことに気がついたのだが……」

「えっ⁉」


 フォスさんは難しそうな顔をしていた。そんなに重要な事を忘れていたのだろうか。

 私まで緊張してきてしまった。


「なっ、なんですか? 何か大切な物を忘れたんですか? それとも落としたとか?」

「いや、そういうわけではないんだが……その、君の家はどこだ?」

「はい……?」


 確かに重要なことだけど……今さら?


「今までどこへ向かって歩いてたんですか? 少しですけど、私の前を歩いてましたよね?」

「知らん」


 フォスさんは真顔で言っていた。


 まさか何も考えずにここまで来てたなんて……さすがはフォスさん。


 私はフォスさんのとんでも発言に頭が痛くなってきたような気がして、片手で頭を押さえた。


「どんどん行くからわかってるんだと思ってましたよ」

「すまんすまん。ナツキと一緒に知らない街を歩くのが楽しくてな」


 フォスさんは嬉しそうな、優しい笑みを浮かべた。

 私も拍子抜けされられはしたけれど、散歩するようにフォスさんと一緒に歩けたことは純粋に嬉しかったし、とても楽しかった。


「まあ、それは同意ですね。私の家はこっちです」


 私はフォスさんの手を取った。

 引っ張って行こうとするけれど、フォスさんは何故か歩き始めようとしなかった。


「どうしました?」

「感慨深いなあと改めて思ってな。ナツキから手を繋いでくれるようになるなんて思ってもいなかったから。こうして当たり前のように触れてくるのが嬉しいんだ。それで? 君の家はここから遠いのか?」

「いいえ、もうすぐそこですよ」


 私は少し先に立っている家を指差した。

 適当に歩いていたというのは嘘なんじゃないかと思えるほど的確に歩いてきていたのだ。


「なんだ。もう着いていたのか。もう少しナツキとのデートを楽しんでいたかったのだが」


 フォスさんが悪戯交じりの笑みを向けてきた。私が恥ずかしがるのをわかったうえで言っているのだ。

 私は赤くなっているだろう顔を見せないように顔を背けた。


「何言ってんですか。行きますよ」

「はっはっは。そんなに焦らずともよいだろう」

「いーきーまーすーよー」


 恥ずかしさを隠すため、フォスさんのことを引きずるようにして数十メートル先の実家まで歩いた。

 この行動もフォスさんにとっては楽しかったようで、未だに笑い声が聞こえてくる

 お読みいただきありがとうございます。

 恋愛を重視した話は難しいです。同じようなことを繰り返しているだけなのでそろそろあきられる頃かなぁという懸念が……

 次回更新時期未定です。

 でわ、また次回!

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