終結歌:黒い寒芍薬を
鳥たちは自然を知っている。
空から見る大地は、自然を語る。
鳥たちはそれを見て、四季を知る。
装うことを知っていて、森は色を纏うのか。
ああ、美しい森よ、緋に染まる秋の森よ。鳥たちを育む、豊かな森よ。
誰がその実を成らせたのか。
誰が小鳥を育むのか。
それを知るものがいるだろうか。
ああ、どうして秋には鳥たちは恵みを受けることができるのだろう。
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黄金色の波打つ畑を見て、子ガラスが聞きました。
「おとうさん、人間はどうして種を蒔くの?」
子ガラスの飛ぶ、ずっと向こうまでその金の海原の波は続いています。
この畑は、人間が植えた苗が育ち実を付けたものだということを、子ガラスは知っていましたが、なぜわざわざ植えるのかは分かりませんでした。
なぜなら、子ガラスは、いえ、鳥たちは、蒔くことも刈ることもしません。それでも、秋になれば、森は豊かに実り、鳥たちを育むのですから。
お父さんは、子ガラスに優しく言いました。
「いいかい。人間には気を付けなければならないよ。彼らは、自分の植えたものをとてもよく覚えていて、それを大切にしているからね」
「うん、わかったわ」
子ガラスは、お父さんの言ったことを懸命に考えました。
そして、こう思いました。
人間は、自分が植えたものを大切に思っている。子ガラスにはそれがなんだか、素敵なことのように思いました。
お父さんは、欲の深い人間のことを気を付けるように言ったのですが、子ガラスには、何かを大切にできる人間の心は、とても素敵に思えたのです。
子ガラスが、一羽で散歩をしている時、人間を見かけました。
「こんな山の中に、人間がいるわ」
人間は、森に詳しい子ガラスでさえ見た事のないような植物の苗を持っていて、それを植えているところでした。
人間の顔はなんだか悲しそうでした。
「大切なものを、植えているんだわ」
子ガラスは、その見たことのない植物を、取ったりしないように気を付けようと思いました。
冬になると、人間が植えた苗は黒い美しい花を付けました。少しうつむき加減のその花を見ると、子ガラスは何かとても切ない気持ちになるような気がしました。
人間が植えるものは、大切なもの。人間が植えたものは素敵なもの。
胃袋を満たすだけのものではなく、何か心を満たすものだということが子ガラスにはわかりました。
これをもらえたら、どんなに素敵でしょう。
人間はなぜこの花をここに植えたのでしょうか。誰かのためだとしたら、その人はどんなに幸せ者でしょう。
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誰がその花を植えたのか。
誰を思って植えたのか。
それを知るものがいるだろうか。
ああ、どうして冬には黒く美しい花が咲くのに、それを愛でる人がここにいないのだろう。