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スマイス活躍する。(睡恋ーsui renーより)

睡恋―suiren―から。


ジョエルの従者スマイスのお話

ウィル・スマイスは、イングレス王国でも知らぬ者などいないくらいな高名なウィンスレット公爵家に仕えている。


そしてかつ、その家の後継であるジョエルの従者をしている。

その事はウィルにとっては物凄く自慢出来る事だ。


22歳の若きシルヴェストル侯爵は見目は麗しく頭脳は明晰でおまけに使用人には寛大だ。小さな失敗ならほとんど咎めたりしない。その分、従者としての高い能力が求められているのは分かる。


そんな、尊敬すべき主人に変化が起こったのだ……。


婚約だ。


お相手は、一昨年の秋頃にウィンスレット邸の隣に住まわれた、ジョエルの叔父に当たるルーサーの妻、その姪という従姉妹に当たるフィリス・ザヴィアーという女性だった。


何せ、この方が来られてキッチンにジョエルはわざわざ来たかと思えば、料理について注文をつけたのだ。

上の階の人達は基本的には階下になど降りては来ない。上階の方たちに、お目見えを許されない下級メイドたちなどは、ジョエルの姿を見て凍りついていたくらいだ。


執事ですら、少し対応に遅れていた。


そんな事があって、ウィルも驚いたものだった。


そして、その翌年の社交シーズン、ウィルはウェンディから

「これはもしかしたら、ジョエル様のものではないでしょうか?」

と廊下でこっそりと銀色のカフスボタンを受け取った。

昨日の夜会の前に、ウィルがジョエルの袖に着けた物だった。

「そうだけど、どこでこれを?」


ウェンディは、下級メイド。上階に行くのは朝の掃除の時くらいだ。そして彼女は最近トリクシーやフィリスといった女性の部屋を担当している。


「まさか……」

「あの、その。廊下に落ちてて」


「廊下?」

まさか、あのジョエルが廊下でうっかりこんなものを落とす訳がない。考えられるのはカフスボタンを外す必要があった時だ。

となれば、廊下ではあり得ない。


「分かった……戻しておくよ。良かったよ、ジョエル様は近頃これがお気に入りなんだ」

にこりと笑うと、ホッとしたのかウェンディは緊張していた顔を緩めた。


本当に廊下でなら、緊張する必要はない。


どうしたものかとウィルは悩む。

これは自分の手には負えない。こういう時、騒ぎ立てずにこっそりと執事に相談するべきだ。


執事は経験豊富だし、もちろん頼りになる。

経緯を話すと、

「分かった、ウィルの言う通りかも知れない。ただ憶測はいけない。いたずらに騒ぎ立てないようにしよう。また何かあれば報告をして欲しい」

「はい」


そしてウィルは、カフスをケースの中に戻した。

朝はなかった片方が昼過ぎには戻っている事にジョエルは気づいたらしいが、ウィルには何も言わなかった。

その事がまた、確信させた。


そんな事があり……昼間の二人の様子が夏が近づいた頃から変化した。よく二人で出掛ける様になり階下でもこれは、という噂話になった。


主人たちの噂話は禁止されていても、どうしたって話題になる。特にお世話をしてるメイド達は。


「近頃、フィリス様は美しくなられたと思わない?ちょっとエレナ様に似たような雰囲気もおありだし私はお似合いな気がするの」

「やっぱりね、ジョエル様とでしょ?これだけ広いとはいえ一つ屋根の下にいるのだもの、年頃の若い男女には何が起こってもおかしくないわ」


「噂はそれくらいにして、働いてちょうだい」

家政婦長に言われて、メイドたちは席を立って仕事をしに立ち去っていく。


「……本当の所、何か知らないの?ウィル」

「さぁ……何も」


とは言ったものの、ジョエルの机の引き出しに指輪のケースが増えたことをウィルは知っていた。

それが何を意味するか、いずれは分かるだろうと思っている。



 そして、いよいよその時がやって来た!


ジョエルの夜会への身支度を整えて、カフスボタンを留めているときにこう言ってきた。

「もしかしたら、今夜そこの引き出しの中の物が要るかも知れない」

「分かりました、お届けします」


「頼む……必要が無かったら、嫌だからな」

持って出かけて不要になった時、きっとそれには自尊心がそれは許さないのだろう。


そして、いつものようにジョエルらしい完璧な姿で出かけて行った。そして、夜もそれほど更けない頃使いがやって来た!


頼んだ物をよろしくと書かれた手紙を読んだウィルは、早速出掛ける旨を執事に伝えに行った所、身重の妻のルナに付き合い家にいたウィンスレット公爵 フェリクスが、それなら自分が運ぶと言ってきたのだ。


「そんな……旦那さまにそのような事を……」

「いや、広間に君が出向くよりも私がそこにいる方が違和感がないはずだ。任せてくれ、弟の一大事にじっとはしていられない」


いつになく機嫌の良い顔だった。

「はい、ではよろしくお願いします」


素早く夜会服への着替えを手伝い、そしてフェリクスは出掛けて行ったのだった。


そして……それで、まだウィルの仕事は終わりではない。

ジョエルは馬車だけを返したと言うのだ。


御者からそれを聞いたウィルは、明日の着替えを用意して朝早くにジョエルの一夜を過ごした部屋を目指して無事にあちらの使用人に託したのである。


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