弐拾
新しい衆人が現世に到着する前日、ガーディアンのメンバーは各地に散らばった。
村野が刀に名前を付ける時、神谷が「白龍」とつけていることを知って「紅龍」にしたと話していた。それを聞いたメンバーが、ガーディアンは刀の名前を色に龍を付けようと決めた。浩太は「青龍」、多田は「黄龍」、星川は「紫龍」と名付けた。
神谷は東京に着くと、始めに新宿駅に行った。夜の8時、人が多い。念の為に衆人を見分ける眼鏡をかけているが、もちろん赤く光る人はいない。
1人で居るのは久しぶりな感じがした。現世に着てから常に隣には誰かが居たからだ。しかし今、周りには神谷の姿が見えない現世人しか居ない。神谷は新宿駅のホームで時間が来るのをジッと待っていた。
ガーディアンのメンバーが目的地に到着し、神谷と同じく時間が来るのをその場で待っていた。どこに現れるか分からない。いつマーダーと会うかも分からない。ずっと気を張って待っていた。
約束の日――。間もなく時計の針が12に重なるという時、マーダーも各地に現れた。神谷が居る新宿駅の外に中沢は降り立った。4人一斉にワープで飛ばすため、多少のズレがあったようだ。
中沢は急いでホームに向った。改札を抜けて電車が行き来しているホームに着いた時、目が眩むほどのまぶしい光が放たれていた。光が治まり、目を開けるとそこには10人の新たな衆人と神谷が立っていた。
神谷は中沢が来たことに気付き、刀を抜いてサイコロを押し当てた。
「新たな衆人10名は新宿駅に出現!」
まだ使い方をマスターしていなかった為、この情報は衆人全員に伝わった。それを聞いたマーダーもガーディアンも一斉に目的地を新宿駅に変更し、移動を始めた。
マーダーの梅田は自分も含め、衆人をワープで新宿駅に飛ばした。しかし、1億を越える人口の中、衆人のマーダーだけを探し出して飛ばすのはかなりの体力が必要だった。
梅田は少し手を抜き、「衆人全員」という括りで能力を発動させた。
「あれ?」
「村野さん、なんでここに?」
「多田さんこそ。それよりここは?」
「村野さん、多田さん、星川さん! ここ、新宿駅前ですよ! よく分からないけど、新宿駅に飛んできたみたい。とりあえず神谷さんのところに行こう」
浩太は今置かれている状況を直ぐに理解した。ガーディアンが集まったということは、マーダーも集まっている可能性が高い。早く神谷の場所へ行かなければと焦っていた。
「中沢さん!」
「おお! お前達。早かったな」
「梅田さんのワープのお陰で」
「そうか。助かる」
「いえ。でも、多分ガーディアンの連中も一緒に飛んでしまったかも知れないです」
「何!? 一緒に飛ばしたのか?」
「はい。すみません」
「仕方ない。とりあえず他の連中が来る前に全員で神谷をやるぞ。いいな」
『はい!』
一斉に刀を抜くマーダーを見て神谷も刀を抜いた。神谷の後ろには現世に着いたばかりの衆人が居たが状況が読めないのか、全く動こうとしなかった。
「1対5か。それに後ろに10人。流石に厳しいな」
「神谷、お前ともここでお別れだな。いくぞ」
井口が刀を槍に変化させ、矛先を向けて突進してきた。神谷は槍を避けて井口の脇腹を蹴り飛ばした。それと同時に島内が上から跳んで斬りかかって来た。刀で受け止めるが、落下の威力と全体重の負荷で神谷は押し倒された。
神谷に馬乗り状態になったところで島内は神谷の刀を神谷の首に押し当てた。島内が神谷を押さえたところで中沢が近づいてきた。
「お別れだ」
そう言って中沢は力を発動させた刀で神谷の頭を貫いた。神谷の身体が光って消えたと同時にガーディアンがホームに到着した。
「遅かったな。たった今、神谷は消滅した」
「そんな…」
現世人が数多く通り過ぎる中、状況が読めていない新衆人、神谷の消滅にショックを隠せないガーディアン、勝利で喜ぶマーダーが輪になって睨み合っていた。
「新たに現世に来た衆人の皆。俺はマーダーというチームを組み、現世人が自分をもっと解放できる様に手伝いをしている。人を殺しても裁かれないこの立場を大いに利用して、現世を再び楽しまないか?」
中沢が新衆人たちの勧誘を始めた。村野は直ぐに横から口を出した。
「ダメよ。私達は既に死んでいる身。今を生きる人たちに影響を与えてはいけないわ。マーダーが現世の人々に悪事を働くなら、私はそれを止める。それが死刑だけで償いきれなかった生前の過ちを償う方法だと思うの。そういう考えがあるならばこっちに来て」
「綺麗ごとを。偽善者集団の中で生前と同じように我慢をするか、俺たちと素の自分を解放するか。これ以上言う必要はないだろ。それに今見ていた通り、ガーディアンのリーダーは俺がたった今殺した。リーダーの居ないチームで何が出来る」
「神谷さんは死んでないわ」
「何を言っている。お前も見えただろ。神谷が光って消えるところを」
「ええ。だから確信出来るの。神谷さんはあなたに消滅させられたんじゃない。自分で地獄に戻ったの」
「何を根拠にそんなことを言っているんだ。だったら証拠を見せろ」
村野は黙って中沢を睨んでいた。すると、輪になっているセンターに神谷が現れた。
「お待たせ。ちょっと閻魔大王と話し込んでしまってね。で、今はどういう状況?」
「神谷さん!」と叫びながら浩太が神谷に抱きついた。
「浩太! 何だよ急に」
「だって、消えていく瞬間を見た時、もう会えないのかと思ったから」
「そう簡単に死なないよ。1対5だったから、死んだ振りして地獄に戻る方が良いと判断しただけだ」
村野は目に涙を浮かべながら黙って神谷を見ていた。




