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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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60話:隣に立つ

夜だった。


空は黒い。


月は雲に隠れ。


風は冷たい。


村の見張り台で鐘が鳴った。


重い。


嫌な音だった。


「敵襲!」


叫び声。


広場の空気が変わる。


村人たちが一斉に立ち上がった。


ゴーレム巡回班が動く。


防衛隊が武器を取る。


ミレナが即座に駆ける。


「数は!?」


見張り役の青年が青ざめていた。


「多い……!」


「森から……大量に!」


その瞬間。


地鳴りのような音。


暗闇の向こう。


白いものが揺れていた。


骨。


腐肉。


死人。


アンデッド。


骸骨兵。


腐乱兵。


腐食獣。


数百。


いや、それ以上。


村人たちの顔色が変わる。


通常の魔物とは違う。


恐怖が本能を刺激する。


「なんだよあれ……」


「多すぎる……」


「なんでこんな数が……!」


マイクが歯を食いしばる。


「ビビんな!」


「迎え撃つぞ!」


声を張る。


それでも空気は重い。


アンデッドは厄介だ。


痛覚が薄い。


恐怖を知らない。


そして普通の攻撃では止まりにくい。


グロマールが静かに前へ出た。


視線が森を貫く。


鑑定。


情報が流れ込む。


死霊系。


低級中心。


問題は数。


背後に死霊術師の痕跡あり。


グロマールは短く言う。


「光属性が有効だ」


村人たちが顔を見合わせる。


光属性。


使える者は少ない。


ミネルバ。


ピーター。


一部の治癒師。


それだけだった。


ミレナが即座に理解する。


「前衛、防壁形成!」


「土属性!」


「建築班は壁補強!」


「木工班は杭!」


「農耕班は水路を掘れ!」


皆が走る。


もう動ける。


以前の村ではない。


教育がある。


役割がある。


恐怖で止まらない。


それが変化だった。


土属性持ちが地面を叩く。


石壁形成。


ゴーレムが岩材を運ぶ。


建築ゴーレム。


土木ゴーレム。


木工ゴーレム。


鍛冶ゴーレム。


全てが動く。


循環している。


村全体が巨大な生物のようだった。


その間にも。


アンデッドは迫る。


呻き声。


腐臭。


殺気。


子供が震える。


老人が息を呑む。


その時。


前へ出たのはミネルバだった。


白衣。


震える指。


昔なら逃げていた。


でも今は違う。


彼女は深呼吸する。


後ろには孤児たち。


治療院の患者。


守りたい人がいる。


だから立つ。


「ピーター」


隣。


ピーターが頷く。


もう泣き虫ではない。


目に迷いがない。


教導スキル保持者。


人を導く力。


彼もまた変わった。


「行こう」


ミネルバが前へ出る。


右手を掲げる。


光属性。


魔力循環。


流れる。


恐怖を押し潰すように。


「ホーリーバレット」


白光。


一直線。


最前列の骸骨兵へ直撃。


光が弾ける。


骨が崩壊した。


アンデッドたちが揺れる。


村人たちが息を呑む。


「効いた……!」


「本当に……!」


ピーターも続く。


「ホーリーバレット!」


連射。


光弾。


腐乱兵を貫く。


浄化。


崩壊。


光属性だけが持つ絶対的な相性。


だが数が多い。


多すぎる。


アンデッドの波が止まらない。


防壁へ激突。


土壁が削られる。


爪。


牙。


骨。


圧力。


マイクが叫ぶ。


「押し返せぇぇ!!」


防衛隊が応戦。


ウォーターバレット。


ストーンバレット。


ウィンドバレット。


火弾。


次々飛ぶ。


それでも止まりきらない。


アンデッドは恐怖を知らない。


前へ。


前へ。


ただ進む。


ミネルバの額に汗。


ピーターの呼吸が荒い。


光属性保持者が少ない。


処理が追いつかない。


その時だった。


後方。


子供の泣き声。


小さな少女。


孤児院の子だ。


アンデッドを見て震えている。


ミネルバが振り返った。


瞬間。


表情が変わる。


恐怖ではない。


母親の顔だった。


「大丈夫」


優しい声。


「絶対に守るから」


その言葉。


空気が変わる。


村人たちが見る。


ミネルバは逃げていない。


怖いはずなのに。


立っている。


守ろうとしている。


ピーターも叫ぶ。


「皆さん!」


「落ち着いて!」


「魔力は流せます!」


「できます!」


「失敗してもいい!」


「やってください!」


教導スキル。


言葉が浸透する。


恐怖が整理される。


混乱が収束していく。


グロマールが静かに目を細めた。


環境。


教育。


積み重ね。


今、この瞬間。


全てが繋がっている。


村人たちの中で何かが変わる。


老人が立ち上がる。


紡織工房の女が前へ出る。


農夫が拳を握る。


鍛冶師が息を吐く。


恐怖より。


守りたいが勝ち始める。


その瞬間。


光。


一人。


また一人。


村人の身体から淡い白光が漏れた。


「え……?」


「これ……」


「魔力が……」


光属性覚醒。


次々に。


村人全体へ広がっていく。


グロマールが呟く。


「……なるほど」


光属性は才能だけではない。


守護。


献身。


支えたいという感情。


それが引き金。


そして今。


ミネルバの母性。


ピーターの教導。


それが村全体を導いた。


老人が手を前へ。


「ホーリーバレット……!」


小さな光弾。


命中。


骸骨が崩れる。


鍛冶師も。


農夫も。


子供まで。


光を放つ。


「撃てぇぇぇ!!」


ミレナが叫ぶ。


白光の嵐。


夜が昼になる。


ホーリーバレット。


ホーリーバレット。


ホーリーバレット。


無数の光。


アンデッド軍が崩壊していく。


骨が砕け。


腐肉が浄化され。


闇が押し返される。


村人たちは叫ぶ。


恐怖ではない。


戦意だった。


守る意志だった。


グロマールは後方で見ている。


手を出さない。


必要ない。


皆が立っている。


自分の足で。


それが重要だった。


ミレナが前へ出る。


水属性。


風属性。


光属性。


複合循環。


「ウォーター・ホーリーバレット!」


白く輝く水弾。


直撃。


大型腐乱獣が崩壊した。


マイクが笑う。


「ははっ!」


「勝てるじゃねぇか!!」


村全体が押し返す。


もう誰も逃げていない。


子供も。


老人も。


女も。


男も。


全員が戦っている。


教育が人を変えた。


環境が人を育てた。


その証明だった。


やがて。


最後のアンデッドが崩れ落ちる。


静寂。


荒い呼吸。


誰もすぐには動けなかった。


そして。


歓声。


爆発する。


生き残った。


守り切った。


村人たちが泣く。


笑う。


抱き合う。


ミネルバは座り込んだ。


ピーターもその隣へ。


疲労困憊。


それでも笑っている。


ミネルバが小さく言う。


「守れたね」


ピーターが頷く。


「ああ」


「皆で」


その言葉に意味があった。


グロマールが前へ出る。


アンデッドの残骸を見る。


大量の魔石。


死霊核。


高純度。


彼は静かに言った。


「回収する」


ジミーが反応する。


「全部か?」


「ああ」


「ゴーレムの動力に使う」


村人たちが驚く。


恐怖だったもの。


災厄だったもの。


それすら循環へ組み込む。


グロマールらしい発想だった。


ゴーレム班が動く。


回収。


分別。


精製。


ミネルバが遠くからその姿を見る。


そして。


隣へ。


ミレナが立った。


自然だった。


恋ではない。


依存でもない。


覚悟。


この人の隣で生きる。


この村を守る。


その覚悟だった。


グロマールは何も言わない。


ミレナも何も言わない。


それでも。


二人は並んでいた。


背後では村人たちが動き続ける。


教育。


産業。


防衛。


循環。


止まらない。


この村はもう、貧しいだけの村ではない。


人が育つ村だった。


そして今。


誰もが知っている。


強さとは。


一人で戦う力ではない。


支え合い。


教え合い。


守り合うことだと。







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