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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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322/322

320話:文明時代

共和国郊外。


朝霧が、

広大な畑を覆っていた。


見渡す限りの麦畑。


風に揺れる。


金色の波。


かつて。


この土地は痩せていた。


作物は育たない。


病は広がる。


冬を越えられない。


村は減る。


子供は死ぬ。


それが当たり前だった。


今は違う。


土壌改良。


水路整備。


輪作農法。


保存技術。


教育。


共和国農業大学が、

数十年かけて積み上げた成果。


食料充足率。


七百五十%超。


もう。


飢える時代ではなかった。


畑中央。


農民たちが笑っている。


昔のような、

死んだ顔ではない。


「今年も豊作だ!」


「北区画も収穫開始だぞ!」


「肥料循環うまく回ってる!」


若い農民たちが、

当たり前のように専門用語を使う。


昔ならありえない。


農民は教育を受けなかった。


知識を与えられなかった。


だから育たなかった。


共和国は違う。


教える。


全部教える。


土。


水。


病害。


流通。


保存。


加工。


利益。


全部。


だから強くなった。


共和国中央物流路。


巨大荷車が進む。


警備付き輸送隊。


食料。


薬草。


紡織素材。


加工品。


共和国は、

物流を国家血管として整備した。


物流が止まれば、

文明は止まる。


ジミーが最初に言った。


「安く作っても、

届かなきゃ意味ねぇ」


今。


その意味を、

世界が理解していた。


倉庫街。


若い商人たちが数字を確認する。


「南部在庫余裕あり!」


「西区画治療院へ薬材搬送!」


「孤児院優先便通せ!」


命令が飛ぶ。


混乱はない。


全員理解している。


共和国は。


“誰を先に助けるべきか”


教育されている。


それが強かった。


共和国中央治療院。


巨大建築。


白い壁。


光属性治癒師たち。


水属性治癒補助師。


衛生管理班。


教育担当。


かつて。


病は死だった。


今は違う。


予防。


衛生。


栄養。


知識。


共和国は、

病を“運命”で終わらせなかった。


入口。


子供たちが笑っている。


怪我をした少年が、

普通に治療を受けていた。


母親が泣いていた。


昔なら。


死んでいた傷だった。


治療師が笑う。


「大丈夫ですよ」


「骨も問題ありません」


「再生促進をかけます」


母親が何度も頭を下げる。


その光景を。


ミネルバが静かに見ていた。


彼女の腕には、

小さな赤子。


優しい顔だった。


昔のミネルバは、

弱かった。


空気を読んでいた。


耐えていた。


泣くことも我慢していた。


今は違う。


芯がある。


守るものがある。


彼女の隣。


孤児院の子供たちが、

赤子を囲んで騒いでいた。


「ミネルバ先生!」


「笑った!」


「俺抱っこしたい!」


「順番!」


ミネルバが困ったように笑う。


「押したら駄目です」


「赤ちゃんびっくりしますから」


子供たちが慌てて下がる。


そこへ。


ピーターが走ってきた。


「こ、こら!」


「転ぶと危ないから!」


完全に慌てていた。


周囲の治癒師たちが笑う。


共和国精神支柱。


治癒教師ピーター。


だが。


子供関係になると弱い。


ミネルバが小さく笑う。


「大丈夫ですよ」


「みんな優しい子ですから」


ピーターが息を吐く。


「……それでも心配になるんです」


その顔を見て。


子供たちが笑う。


「ピーター先生、

また心配してる!」


「いつもの!」


「過保護!」


ピーターが真っ赤になる。


共和国。


こういう光景が増えた。


怒鳴り声より。


笑い声。


死より。


生活。


それが、

文明を変えていた。


共和国中央大学。


巨大鐘が鳴る。


ゴォォン――。


都市全体へ響く。


学生たちが移動する。


農業学部。


治療学部。


物流学部。


建築学部。


魔力工学。


教育理論。


行政管理。


共和国は、

知識を閉ざさなかった。


だから爆発した。


若者が育つ。


現場へ行く。


地方を育てる。


また人が育つ。


循環。


それが共和国だった。


大学中庭。


セレスが立っていた。


腕には赤子。


隣にはフェルド・レイブン。


帝国官僚だった男。


今は共和国行政中枢とも連携している。


フェルドが静かに言う。


「帝国では考えられなかった」


「大学に農民の子供が通うなど」


セレスは即答する。


「だから止まったのよ」


「帝国は」


フェルドが苦笑する。


否定できない。


昔の帝国は、

知識を独占した。


結果。


地方が死んだ。


共和国は逆。


教える。


開放する。


だから増える。


フェルドが赤子を見る。


「……変わったな」


「世界が」


セレスは小さく頷く。


「変えたのよ」


「みんなで」


共和国中央工業区。


巨大工場群。


蒸気。


熱。


魔力循環炉。


水流冷却。


土属性建築補助。


紡織産業。


加工産業。


農具生産。


共和国工業は、

戦争用ではない。


生活用だ。


服。


道具。


医療器具。


保存容器。


人を生かすための工業。


工場内部。


若い女性工員たちが働いている。


昔なら。


貧民だった。


売られていた。


死んでいた。


今は違う。


給与。


教育。


医療。


休暇。


共和国は。


“人間を消耗品扱いしない”


それを徹底した。


だから人口が増えた。


だから文明が伸びた。


共和国中央住宅区。


夕方。


家々から、

料理の匂いが流れる。


子供たちが走る。


老人が笑う。


若い夫婦が話す。


当たり前。


だが。


昔は無かった。


未来が見えなかった。


だから子供を作れなかった。


今は違う。


食える。


死なない。


教育ある。


治療ある。


仕事ある。


未来がある。


だから。


家族を持てる。


それ自体が、

文明だった。


共和国郊外高台。


風が吹く。


グロマールが立っていた。


いつもの服。


いつもの無表情。


隣にミレナが来る。


腕には赤子。


彼女は昔より柔らかくなった。


それでも芯は強い。


「……見える?」


グロマールが言う。


ミレナが前を見る。


畑。


学校。


工場。


治療院。


大学。


物流路。


街。


人。


全部動いている。


誰か一人じゃない。


みんな動いている。


ミレナが静かに笑う。


「ええ」


「ちゃんと回ってる」


グロマールが空を見る。


夕日。


大学鐘がまた鳴る。


遠く。


子供たちの声。


工場蒸気。


畑の風。


全部混ざる。


グロマールは、

静かに呟いた。


「もう」


「英雄が支える時代じゃない」


ミレナが隣を見る。


グロマールは、

少しだけ目を細めていた。


「人が回る時代だ」


それは。


支配の終わりだった。


特別な誰かだけが、

世界を支える時代の終わり。


教育された民衆。


自立した現場。


支え合う生活。


循環する文明。


共和国が作ったのは。


最強国家じゃない。


“人が生き残れる構造”だった。


遠く。


夕陽が沈む。


街に灯りがつく。


子供たちが帰る。


母親たちが呼ぶ。


父親たちが笑う。


大学鐘が鳴る。


文明が回っていた。







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