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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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319話:自立支援

文明会議二日目。


共和国中央議会棟。


巨大円卓会議場には、

前日以上の緊張が流れていた。


昨日までは。


数字だった。


人口。


物流。


農業。


教育。


医療。


各国は、

成果を確認した。


だが今日は違う。


思想。


国家理念。


文明そのものの方向性。


それを語る日だった。


会議場中央。


各国首脳。


帝国皇帝アレクシス。


皇后マーガレット。


北方盟主ヴァルグ。


共和国代表セレス。


帝国行政代表フェルド・レイヴン。


教育責任者ピーター。


物流責任者ジミー。


共和国中枢。


全員揃っている。


だが。


会場の空気は、

昨日と決定的に違った。


理由は単純。


今日。


グロマールが話す。


その情報が、

既に全体へ伝わっていたからだ。


共和国は特殊だ。


頂点が前に出ない。


グロマールは、

権威演出を嫌う。


必要以上に喋らない。


必要以上に目立たない。


だから逆に。


あの男が話す時。


全員が聞く。


会議場後方扉。


静かに開く。


共和国兵も、

帝国騎士も、

北方護衛兵も。


誰も声を上げない。


グロマールが入ってきた。


相変わらず地味だった。


豪華な服もない。


宝石もない。


権威の演出もない。


ただ。


空気だけが変わる。


席へ向かう。


中央ではない。


共和国代表席でもない。


端。


いつもの位置。


それを見て、

帝国若手貴族が小声で呟く。


「本当に、

あの男が世界を変えたのか……?」


隣の老行政官が答える。


「だから変えられたんだ」


「権威に酔わなかった」


静かだった。


会議開始。


司会はセレス。


「本日議題」


「文明理念について」


「各国の長期国家運営方針を共有します」


短い。


無駄がない。


最初は帝国。


アレクシスが立つ。


「帝国は、

軍事偏重を縮小する」


会場が静まる。


昔なら考えられない。


帝国は軍事国家だった。


「教育予算を増額」


「地方治療院を拡張」


「徴税方式を改正」


「生産支援を優先する」


「人口維持を国家最優先とする」


帝国側保守貴族は、

苦い顔をしていた。


だが反論しない。


結果が出ている。


教育した地域は伸びる。


支援した地域は豊かになる。


逆に。


搾取地域は崩壊する。


もう誤魔化せない。


続いて北方。


ヴァルグが立つ。


「北方は昔、

力しか無かった」


「冬越えできる奴が偉かった」


「奪える奴が強かった」


彼は鼻を鳴らす。


「今は違う」


「畑守れる奴が強ぇ」


「子供育てる奴が偉ぇ」


「医者が英雄だ」


北方代表たちが頷く。


昔の北方は、

冬だけで人が消えた。


今は違う。


農業教育。


保存技術。


物流。


共和国技術支援。


全部入った。


結果。


人口が伸びた。


国家が安定した。


つまり。


人を育てた方が強かった。


会議場空気が変わる。


価値観が、

明確に動いていた。


そして。


セレスが立つ。


「共和国側最終報告」


彼女は一枚の資料を置く。


共和国人口。


二千九百八十万人。


食料充足率。


七百五十六%。


識字率。


九十一%。


乳幼児死亡率。


歴史最低。


平均寿命。


急上昇。


数字だけ見れば、

異常国家だった。


だが。


その数字を支えているのは。


支配ではない。


循環だった。


セレスが言う。


「共和国は、

民衆を管理対象と考えていません」


「国家構成主体と考えています」


「だから教育を閉ざさない」


「だから知識を独占しない」


「だから現場へ権限を渡す」


「結果、

国家全体が自走する」


帝国官僚たちが、

真剣に聞いていた。


もう否定する段階ではない。


学ぶ段階だ。


その時。


アレクシスが静かに言った。


「……グロマール」


会議場が静まる。


全員視線が向く。


グロマールは、

少しだけ眉を動かした。


「共和国創始者として」


「最後に意見を聞きたい」


沈黙。


長い静寂。


グロマールは、

しばらく動かなかった。


やがて。


静かに立ち上がる。


それだけで、

空気が締まる。


彼は中央へ出ない。


その場で口を開いた。


「支配は」


低い声。


静か。


無駄がない。


「相手を弱くする」


会議場が静まり返る。


「考えなくなる」


「従うだけになる」


「依存する」


「だから壊れる」


誰も動かない。


グロマールは続ける。


「自立支援は」


「相手を強くする」


「考える」


「学ぶ」


「育つ」


「自分で立つ」


「だから長く残る」


短い。


だが。


重い。


グロマールは、

感情を煽らない。


演説もしない。


ただ事実を言う。


だから刺さる。


「強い民衆が」


「強い文明を作る」


沈黙。


会場全体が止まっていた。


帝国老貴族。


北方武官。


共和国行政官。


全員。


言葉を失う。


なぜなら。


単純だからだ。


単純すぎる。


だが。


誰もできなかった。


支配した方が楽だからだ。


従わせた方が早いからだ。


恐怖の方が即効性があるからだ。


だが。


長続きしない。


それを。


世界は、

今ようやく理解し始めていた。


グロマールは続ける。


「民を弱くする国家は」


「いずれ国家自身も弱くなる」


「逆だ」


「民を強くした国家は」


「国家全体が強くなる」


帝国皇后マーガレットが、

小さく目を閉じる。


理解していた。


帝国は昔。


貴族が知識を独占した。


結果。


地方が育たなかった。


腐敗した。


止まった。


だから崩れかけた。


共和国は逆だった。


教える。


渡す。


現場を育てる。


だから広がった。


止まらなかった。


グロマールが最後に言う。


「国家は」


「民を使い潰すためにあるんじゃない」


「民が生き残るためにある」


完全な静寂。


誰も拍手しない。


できなかった。


軽すぎるからだ。


その言葉の重みが。


理解できてしまったからだ。


会議場外。


巨大都市ベルセリア。


子供たちが走っている。


孤児だった子。


奴隷だった子。


病で死にかけた子。


今は笑っている。


学校へ行く。


飯を食う。


未来を語る。


それを見ながら。


フェルド・レイヴンが呟いた。


「……国家が変わるとは」


「こういうことか」


セレスが答える。


「違うわ」


「人が変わったのよ」


フェルドが苦笑する。


「怖い夫婦だな」


「お前たちは」


セレスは肩を竦めた。


「共和国は、

最初からそういう国よ」


「支配じゃなく」


「循環で回す」


その視線の先。


会議場出口。


グロマールは、

もう歩き出していた。


誰かに囲まれない。


歓声もない。


英雄扱いもない。


それでも。


世界は理解していた。


時代は変わった。


もう。


「どう支配するか」


ではない。


「どう育てるか」


その文明競争が、

始まっていた。







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