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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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303話:リシェル

共和国中央索敵研究区。


朝。


巨大魔力盤が淡く光っている。


都市周辺。


街道。


山岳地帯。


河川。


森林。


全部表示されていた。


共和国索敵網。


世界最大。


世界最精密。


そして。


その中心にいるのが。


索敵教師リシェルだった。


長い銀髪。


静かな目。


無駄のない動き。


共和国最強格索敵教師。


ベルセリア索敵教育の祖。


彼女の弟子は、

すでに数万人を超えている。


索敵研究棟内部。


大量の若い教師達が講義を受けていた。


巨大地図。


魔力流。


生体反応。


熱量。


風向。


全部表示されている。


リシェルが静かに説明する。


「索敵は、

見る技術じゃない」


「変化を読む技術です」


弟子達が真剣に聞く。


共和国では、

索敵も体系化されている。


感覚論ではない。


理論。


訓練。


再現。


だから普及した。


若い教師が質問する。


「先生」


「子供迷子率低下も、

索敵網が理由ですか?」


リシェルが頷く。


「ええ」


「共和国では、

街道全体が索敵範囲」


「だから消える前に見つかる」


静かな声。


だが。


世界基準で考えれば異常だった。


昔。


迷子は戻らない。


遭難は死。


それが普通だった。


共和国では違う。


探す。


見つける。


助ける。


そこまで制度化されている。


中央監視盤。


若い索敵教師が報告する。


「北部街道、

子供転倒反応確認」


即座に別教師が応じる。


「巡回員向かわせます」


数分後。


反応消失。


問題なし。


共和国では、

生活事故すら減り始めていた。


索敵が生活へ組み込まれているから。


そこが大きい。


研究棟別室。


大量の資料。


遭難率。


魔物被害。


山岳事故。


全部下がっている。


共和国生活事故率。


さらに低下。


若い研究教師が興奮していた。


「本当に数字が変わってる……」


「旧王国時代の半分以下です」


老教師が静かに笑う。


「索敵を軍だけに使わなかったからだ」


そこが共和国だった。


守る対象が違う。


戦争だけじゃない。


生活。


民。


日常。


そこを守っている。


中央都市外周。


街道巡回区。


子供達が普通に歩いている。


教師達もいる。


物流隊もいる。


商人もいる。


全部安全。


昔では考えられない。


山賊。


魔物。


誘拐。


遭難。


全部当たり前だった。


共和国は、

そこを削り始めている。


中央研究室。


リシェルが机へ手を置いた瞬間。


少しだけ顔をしかめた。


近くにいた女性教師が気づく。


「先生?」


リシェルは一瞬黙る。


そして小さく息を吐いた。


「……疲れじゃないわね」


周囲が静かになる。


共和国最高級治癒師が呼ばれた。


数分後。


診断終了。


老治癒師が目を見開く。


「……おめでとうございます」


「懐妊です」


空気が止まった。


数秒後。


周囲が一斉にざわつく。


「ええええ!?」


「リシェル先生が!?」


「本当ですか!?」


普段冷静な教師団すら混乱する。


理由は単純。


リシェルが強すぎるから。


索敵最強格。


剣豪。


拳豪。


転移持ち。


共和国上位戦力。


完全実戦型教師。


だから。


「母親」という言葉が、

一瞬結びつかなかった。


リシェル本人は、

静かだった。


少し目を閉じる。


そして。


小さく笑った。


「……そう」


その表情だけ。


普段より柔らかかった。


共和国中央武術区。


拳神ドグラム。


共和国最強格拳豪。


巨大男。


豪快。


怪物。


普段は何があっても動じない。


その男が。


今。


落ち着かなかった。


「……本当か?」


三回目。


周囲の弟子達が苦笑する。


「本当ですって」


「先生、

さっきから十回くらい聞いてます」


ドグラムが腕を組む。


また歩く。


止まる。


また歩く。


完全に挙動不審。


共和国最強格拳士。


現在。


完全敗北中。


弟子達がヒソヒソ話す。


「拳神が慌ててる……」


「初めて見た」


「共和国崩壊より動揺してるぞ」


誰も否定しない。


ドグラム本人も余裕がない。


そこへ。


リシェルが入ってきた。


瞬間。


ドグラムが飛んできた。


「無理するな!」


「戦闘禁止!」


「転移禁止!」


「夜更かし禁止!」


共和国最強拳士。


現在。


過保護発動中。


リシェルが呆れた顔をする。


「私は病人じゃないわ」


「索敵も普通に出来る」


ドグラムが即答。


「ダメだ」


「危険だ」


弟子達が吹き出した。


共和国最強拳士。


完全に父親予備軍だった。


リシェルが小さくため息を吐く。


でも。


口元は少し笑っている。


そこが大きかった。


夕方。


共和国中央索敵会議。


大量の教師。


研究者。


地方索敵責任者。


全部集まっている。


議題。


探索理論最終完成。


巨大魔力図が表示される。


人流。


魔物流。


気象変化。


街道異常。


全部繋がっていた。


若い研究教師が震えた声で言う。


「これ……」


「共和国全域の危険予測が可能です」


誰も否定出来ない。


探索理論。


ついに完成。


共和国は、

「危険発生後」ではなく。


「危険発生前」へ到達した。


迷子。


遭難。


魔物接近。


洪水。


街道崩壊。


全部早期発見可能。


世界が静まり返る。


老索敵教師が呟いた。


「ここまで来たか……」


昔。


索敵とは、

軍の技術だった。


今。


共和国では違う。


生活基盤。


文明維持機構。


そこへ変わっている。


会議終了後。


ピーターが資料を見る。


事故率。


遭難率。


死亡率。


全部減少。


静かに息を吐く。


「人って……」


「ここまで死ななく出来るんですね」


隣でグロマールが答える。


「ああ」


「知識があるからな」


短い言葉。


でも。


重い。


共和国は、

強い国を作ったわけじゃない。


死ににくい国を作った。


そこが本質だった。


夜。


中央都市高台。


リシェルが街を見ていた。


巨大都市。


灯り。


学校。


研究棟。


物流街道。


全部動いている。


そこへ。


ドグラムが来る。


無言。


隣へ座る。


しばらく沈黙。


珍しく。


拳神が先に口を開いた。


「怖ぇな」


リシェルが少し目を細める。


「何が?」


ドグラムが遠くを見る。


「守りたいもんが増えるのは」


静かな声。


戦場を何度も越えた男の本音。


リシェルは否定しない。


ただ。


小さく笑った。


「共和国向きになったわね」


ドグラムが吹き出す。


「違ぇねぇ」


下を見る。


子供達が笑っている。


教師が歩いている。


物流が動いている。


共和国文明。


循環。


命。


教育。


全部繋がっている。


そして今。


その循環の中へ。


新しい命が加わろうとしていた。







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