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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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290話:最後の王党派

旧王国西部。


廃城ローグベル。


かつて地方伯爵家が治めていた古城。


今は崩れかけている。


壁は割れ。


旗は色褪せ。


中庭には雑草。


使用人も消えた。


残っているのは、

過去へ縋る者達だけだった。


薄暗い会議室。


集まっているのは十数名。


旧王国貴族残党。


没落貴族。


元騎士。


旧臣。


全員が、

時代から取り残されていた。


中央。


白髪の老貴族が杖を叩く。


「共和国は間違っている!」


怒声。


だが。


誰も昔ほど反応しない。


もう何年も、

同じ言葉を聞いているからだ。


「王なき国家など成立せん!」


「民に統治などできる訳がない!」


「秩序が崩壊する!」


昔なら、

拍手が起きただろう。


だが今。


空気は冷えていた。


若い元騎士が低く呟く。


「……ですが」


「共和国は、

普通に回っています」


老人が睨みつける。


「騙されるな!」


「所詮は偽りの平和だ!」


「必ず破綻する!」


だが。


誰も強く同調できない。


全員知っているから。


共和国は崩壊していない。


むしろ。


世界で最も安定している。


教育。


物流。


農業。


医療。


治安。


全部機能している。


だから説得力が無い。


別の没落貴族が疲れた声を漏らした。


「私の領地も、

民が共和国側へ移りました」


「教師が来ると言って」


「治療院があると言って」


「冬でも食えると言って」


沈黙。


老人が机を叩く。


「裏切り者共め!」


「王家への忠誠を忘れたか!」


返事は無い。


その時。


外から物音が聞こえた。


扉が開く。


入ってきたのは、

近隣村の民達だった。


農民。


職人。


女達。


子供までいる。


旧貴族達が身構える。


老人が声を張り上げた。


「来たか!」


「安心しろ!」


「我々が王国を復活させる!」


「再び正しき秩序を――」


途中で止まる。


農民の男が、

静かに聞いた。


「飯あるのか?」


沈黙。


空気が凍る。


老人が目を見開く。


「……何?」


農民は続けた。


「冬越え備蓄は?」


「教師は?」


「治療院は?」


「農業指導は?」


「物流は?」


「共和国は全部ある」


怒鳴りではない。


現実確認。


それだけ。


旧貴族達が言葉を失う。


女が静かに言った。


「うちの子、

熱病だった」


「共和国の治癒師が助けてくれた」


「薬もくれた」


「学校も紹介してくれた」


「今は文字読める」


別の老人も続く。


「農業教師来た」


「保存方法教わった」


「収穫増えた」


「冬に死人が減った」


誰も反論できない。


共和国は、

理想だけ語っていない。


実際にやった。


だから強い。


老貴族が震える声で言う。


「王が必要なのだ……!」


「民は導かれねばならん!」


農民の男が静かに返した。


「共和国にも代表はいる」


「でも」


「俺達、

普通に生きられてる」


「それで十分だ」


完全な沈黙。


もう。


終わっていた。


誰も王政復古を望んでいない。


革命でもない。


虐殺でもない。


ただ。


必要なくなった。


それだけだった。


外。


旧城下町。


かつて荒れていた通り。


今は普通に人が歩いている。


商人。


農民。


職人。


共和国式学校帰りの子供達。


市場には食料。


保存肉。


根菜。


果物。


全部並んでいる。


昔の旧王国では、

冬前になると市場から食料が消えた。


今は違う。


物流がある。


備蓄がある。


教育がある。


だから民が生きられる。


城の窓から、

元騎士の男がその光景を見ていた。


彼は小さく笑う。


「……負けた訳じゃないな」


誰も返事をしない。


男は続ける。


「必要なくなったんだ」


「王政そのものが」


静かな声。


そこに怒りは無い。


諦めでもない。


理解だった。


共和国は、

王を殺していない。


王家を虐殺してもいない。


ただ。


民が選んだ。


教育。


食料。


医療。


物流。


普通に生きられる方を。


だから戻らない。


遠くから鐘が鳴る。


学校終了の鐘。


子供達が笑いながら走っていく。


昔の旧王国では、

見られなかった景色。


子供は働き手だった。


学ぶ余裕など無かった。


今は違う。


文字を学ぶ。


計算を学ぶ。


農業を学ぶ。


保存を学ぶ。


魔力循環を学ぶ。


未来を学ぶ。


元騎士が目を細める。


「良い時代だな」


老人貴族が震える。


「貴様まで……!」


だが。


元騎士は静かだった。


「俺は王国軍人だった」


「誇りもある」


「だがな」


「民が笑ってる」


「それ以上に大事なものがあるか?」


老人は答えられない。


答えが無いから。


外では、

子供達が歌っている。


王を讃える歌ではない。


戦争の歌でもない。


教師。


農民。


治癒師。


職人。


民の歌。


それが今の時代だった。


やがて。


旧貴族の一人が立ち上がる。


疲れ切った顔。


「……終わりにしましょう」


誰も止めない。


もう全員分かっている。


時代は戻らない。


共和国は、

武力で勝ったんじゃない。


人の生活で勝った。


だから強かった。


窓の外。


夕日が落ちる。


市場には灯り。


食堂から湯気。


笑い声。


普通の生活。


それこそが。


王政を終わらせた最大の力だった。







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