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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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283:ベルセリア視察団

北方国家ベルセリア。


極寒の大地。


吹雪。


凍土。


飢餓。


長い冬。


この国は何百年も、

“生き残る”ためだけに戦ってきた。


略奪。


備蓄。


越冬。


それが北方国家の現実だった。


だからこそ。


ベルセリアは、

国家の“本当の強さ”を知っている。


兵の数ではない。


王の権威でもない。


冬を越えられるか。


民を飢えさせないか。


それだけだった。


王城。


白銀の会議室。


女王フィリアは静かに報告書を読んでいた。


共和国視察団の記録。


横には夫である聖騎士エルグレイ。


そして兵長ガルム。


さらに数名の北方幹部。


全員が黙っていた。


静かだった。


それほどまでに、

資料の内容が異常だった。


最初に口を開いたのはガルムだった。


「……食料充足率七百五十%以上」


低い声。


戦場を知る男の声だった。


「北方国家では、

あり得ません」


誰も否定できない。


フィリアは視線を落としたまま言う。


「続けて」


ガルムは別資料を開く。


「教師総数三千以上」


「識字教育」


「職業教育」


「農業教育」


「魔力教育」


「治療教育」


「全領地展開済み」


沈黙。


文官の一人が乾いた声を漏らした。


「軍……ではない」


ガルムが即答する。


「違う」


「文明です」


重い声だった。


北方国家は、

国家崩壊を何度も見てきた。


飢え。


寒波。


疫病。


補給断絶。


だから理解できる。


共和国は、

それら全てを潰し始めている。


しかも。


同時に。


ガルムはさらに続けた。


「物流停滞ゼロ」


「転移物流運用開始」


「農地再建」


「医療普及」


「衛生管理」


「難民吸収」


「孤児教育」


「産業再生」


彼はそこで一度言葉を止めた。


そして静かに言う。


「……止まりません」


室内の空気が重くなる。


フィリアは窓の外を見る。


雪。


白い世界。


北方の民は、

この雪を恐れて生きてきた。


冬は国家を殺す。


だから備蓄が必要だった。


だから奪った。


だから戦った。


だが共和国は違う。


奪っていない。


増やしている。


そこが恐ろしい。


文官が震える声で言った。


「何故……」


「何故、

我々を助け続けた?」


誰も笑わない。


その疑問は当然だった。


共和国は。


北方難民を受け入れた。


病人を治療した。


教師を派遣した。


農業技術を渡した。


物流を繋いだ。


産業を作った。


自立できるまで支援した。


ここまでされれば、

普通の国家なら属国化を疑う。


だが共和国は違った。


支配していない。


搾取していない。


税も奪わない。


むしろ。


“自立”させている。


沈黙。


そして。


フィリアが静かに答えた。


「……奪う必要が無いからよ」


全員がフィリアを見る。


女王は静かだった。


感情的ではない。


理解しているからこそ静かだった。


「共和国は、

循環国家」


「知っているでしょう?」


誰も反論できない。


フィリアは続ける。


「助けた民が、

後に生産者になる」


「教師になる」


「医師になる」


「職人になる」


「兵になる」


「国家を支える側になる」


エルグレイが静かに頷いた。


聖騎士であり、

フィリアの夫。


彼もまた共和国を見て理解していた。


「救済ではないのです」


銀髪の聖騎士は静かに言う。


「構造です」


室内が静まり返る。


「共和国は、

人を“消費”していない」


「育てています」


「だから増える」


その言葉が重かった。


ベルセリアは知っている。


北方では、

人は減る。


飢えで。


病で。


冬で。


戦で。


だから人口は“資源”だった。


だが共和国は違う。


人を増やしている。


しかも教育で。


ガルムが苦笑した。


「勝てる訳がない」


弱気ではない。


現実確認だった。


「兵士を倒しても意味がありません」


「教師が増える」


「農民が育つ」


「技術者が増える」


「物流が回る」


「食料が増える」


「覚醒者が増える」


彼は資料を閉じる。


「つまり共和国は、

戦争するほど強くなる」


沈黙。


恐ろしかった。


国家として異常だった。


普通の国家は、

戦争で疲弊する。


共和国は違う。


被害地域すら、

後に共和国圏へ変えてしまう。


フィリアは静かに呟いた。


「だから帝国も動けない」


エルグレイが頷く。


「ええ」


「共和国を敵にすれば、

周辺国家全てが疲弊します」


「逆に共和国側は、

復興でさらに強化される」


北方幹部たちの顔色が変わる。


そこまで読めてしまった。


共和国は侵略国家ではない。


文明圏拡大型国家。


だから恐ろしい。


支配ではなく。


依存でもなく。


“循環”で広がる。


フィリアは目を閉じる。


思い出す。


寒波。


飢餓。


病。


あの時。


共和国は北方を見捨てなかった。


教師を送った。


治療師を送った。


食料を送った。


物流を繋いだ。


何故か。


答えはもう出ている。


助けた方が、

国家全体が強くなるから。


それを。


共和国は理解している。


フィリアはゆっくり目を開いた。


「敵対はしない」


即答だった。


誰も驚かない。


ガルムも頷く。


「当然ですな」


フィリアは静かに続ける。


「外交優先」


「技術交流」


「農業協力」


「教育提携」


「物流接続」


「共和国との接続を強化します」


文官たちが息を呑む。


そこまで踏み込むのか。


だがフィリアは迷わない。


「共和国と繋がる国家は生き残る」


「拒絶する国家は衰退する」


その未来が見えていた。


既に。


エルグレイが静かに言う。


「フィリア」


「ええ」


「時代が変わります」


女王は静かに頷いた。


窓の外では雪が降っている。


北方を何百年も苦しめてきた冬。


だが。


共和国はその冬すら、

越えてしまう。


飢えず。


病まず。


民を死なせず。


教育で人を増やし。


循環で文明を拡張していく。


フィリアは最後に静かに呟いた。


「……恐ろしい国ね」


だがその表情には、

恐怖だけではなく。


わずかな安堵もあった。


北方国家ベルセリアは。


ようやく。


“冬の終わる側”へ辿り着こうとしていた。







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