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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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24話:おかしな村

荷馬車の車輪が土を鳴らしていた。


乾いた街道。


崩れた道。


痩せた森。


王国南部では珍しくもない景色だ。


むしろ“普通”。


最近は特に酷い。


魔物被害。


干ばつ。


盗賊。


税。


小村が消える速度が異常だった。


商人ダグラスは手綱を握りながら舌打ちする。


「……今回も外れかもしれんな」


護衛が苦笑した。


「期待してたんですか?」


「してねぇよ。ただ南側で妙な噂が流れてる」


「妙?」


「飢えてた村が急に立て直ってるらしい」


護衛が鼻で笑う。


「そんな村あるなら王都が囲いますよ」


「だよなぁ」


ダグラスも同意する。


だから半信半疑だった。


この辺境には、たまに“夢を見る村”がある。


豊作になる。


魔物を倒した。


新技術を見つけた。


大体は嘘。


現実は厳しい。


弱い村は消える。


それだけだ。


荷馬車が丘を越える。


その時。


ダグラスが眉をひそめた。


「……なんだ?」


遠く。


水が見える。


川ではない。


人工。


細い線。


規則的。


護衛も気づく。


「水路……?」


こんな辺境で?


あり得ない。


しかも規模が大きい。


村単位で作れるものじゃない。


近づく。


さらに異常が見えてくる。


畑。


緑。


多い。


この季節で?


しかも均一。


土が死んでいない。


雑草処理もされている。


ダグラスが呟く。


「おかしい……」


普通の農村じゃない。


まず、働いている人数が違う。


子供。


女。


老人。


全員が動いている。


なのに疲弊していない。


怒号も無い。


妙に静かだ。


護衛が言う。


「雰囲気が違いますね」


「ああ」


村は貧しい。


建物は古い。


服も粗末。


なのに。


空気が死んでいない。


飢えた村特有の“目”が無い。


門へ近づく。


すると。


槍を持った若者たちが現れた。


統率されている。


ダグラスが目を細める。


「……農民じゃねぇな」


いや。


農民ではある。


だが立ち方が違う。


視線。


間合い。


呼吸。


訓練されている。


その中心にマイクがいた。


以前の彼を知る者なら驚くだろう。


もうただのガキ大将ではない。


身体強化。


実戦。


指揮経験。


村防衛隊長として成長していた。


マイクが口を開く。


「止まれ」


声が通る。


護衛が少し緊張する。


辺境の村にしては圧が強い。


ダグラスは両手を軽く上げた。


「商人だ。敵じゃねぇ」


「証明は?」


「は?」


ダグラスが固まる。


普通、辺境村は商人を歓迎する。


物資。


塩。


薬。


鉄。


命綱だからだ。


しかしこの村は違う。


マイクが視線を逸らさない。


「最近盗賊もいる」


「身元確認する」


完全に防衛意識がある。


ダグラスが驚く。


この規模の村ではあり得ない。


護衛より村側の方が緊張感を理解している。


その時。


セレスが現れた。


「マイク、少し落ち着いて」


「でもよ」


「警戒は正しい」


セレスはダグラスを見る。


観察。


荷台。


武器。


視線。


一瞬で確認していく。


ダグラスは内心で冷や汗をかいた。


この女、頭が回る。


ただの村娘じゃない。


セレスが微笑む。


「商人さん?」


「……ああ」


「歓迎するわ」


「ただし、変なことしたら埋める」


護衛が引いた。


笑顔で言う言葉じゃない。


ダグラスは逆に笑った。


「なるほど。まともだ」


セレスの目が少し細くなる。


「まとも?」


「今の時代、警戒できる村は生き残る」


それは本音だった。


辺境では“優しいだけ”は死ぬ。


この村は現実を知っている。


だから違和感がある。


村へ入る。


さらに異常が増えた。


まず。


臭いが少ない。


腐臭。


糞尿。


病村特有の臭気。


それが薄い。


水路が流れているからだ。


しかも排水が整理されている。


あり得ない。


「……誰が設計した?」


ダグラスが呟く。


視線の先。


子供たちが水球を作っていた。


護衛が目を剥く。


「魔法!?」


しかも複数。


さらに。


老人が土壁を形成している。


女たちが風で乾燥補助。


火属性で調理。


連携。


自然。


異常。


ダグラスが立ち止まる。


「なんだこの村……」


普通じゃない。


魔法使いは希少。


王都でも少ない。


なのに。


ここでは“村人全員”が使っている。


セレスが少し笑う。


「驚いた?」


「いや……そりゃ驚くだろ」


「王都でもこんなの見ねぇぞ」


セレスは肩をすくめる。


「教育しただけ」


ダグラスが絶句する。


教育。


その単語が、この世界では重い。


知識は金だ。


権力だ。


独占するもの。


なのに、この村は教えている。


誰にでも。


だからおかしい。


倉庫前。


ジミーが荷を整理していた。


在庫。


肉。


乾燥野菜。


薬草。


塩。


全部整理されている。


ダグラスの目が変わる。


「……おい」


「なんだ?」


「誰が管理してる」


「俺」


ジミーが答える。


ダグラスは棚を見る。


回転率。


保存。


分類。


数字こそ無いが、頭の中で管理しているのが分かる。


しかも無駄が少ない。


辺境ではあり得ない。


「お前、商会経験あるのか?」


「ねぇよ」


「嘘つけ」


「本当だって」


ジミーは笑う。


「必要だったから覚えただけ」


その言葉に、ダグラスは黙る。


必要だった。


それだけ。


でも普通はできない。


普通は飢えて終わる。


なのにこの村は違う。


広場。


ミネルバが子供の怪我を治療していた。


光属性。


治癒。


しかも複数同時。


ピーターが横で補助している。


ダグラスは頭が痛くなった。


辺境村。


農村。


なのに。


戦力。


物流。


医療。


水路。


農業。


全部ある。


しかも急造ではない。


循環している。


その時。


人々が自然に道を開けた。


グロマール。


黒髪。


静かな目。


目立たない。


だが空気が違う。


ダグラスは本能的に理解した。


中心だ。


この村の。


グロマールは商人を見る。


一瞬。


鑑定。


荷。


武器。


人間性。


嘘。


全部確認する。


そして言った。


「取引か」


ダグラスが笑う。


「……あんたか」


「この村を変えたのは」


グロマールは否定しない。


肯定もしない。


ただ言う。


「村が変わっただけだ」


ダグラスは周囲を見る。


笑っている子供。


働く老人。


水路。


畑。


訓練する村人。


魔法。


全部異常。


そして理解する。


これは奇跡じゃない。


積み上げだ。


教育。


循環。


環境。


全部繋がっている。


だから怖い。


王都の貴族たちは知らない。


“教えれば民は強くなる”ことを。


ダグラスは背筋が寒くなった。


もし広まれば。


世界が変わる。


だからこそ。


この村は危険だった。


セレスが小さく笑う。


「変な顔」


ダグラスは乾いた笑いを返した。


「そりゃなる」


「こんなおかしな村、初めて見た」


マイクが笑う。


「だろ?」


誇らしそうだった。


以前なら絶対に無かった顔。


グロマールは空を見る。


雲が流れている。


村はまだ小さい。


貧しい。


病もある。


紡織産業も始まっていない。


食料充足率百五十%にも届かない。


それでも。


循環は始まっている。


そして一度始まった循環は、簡単には止まらない。







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