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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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227話:秘密学校

夜だった。


宗教国家北部。


崩れかけた石造りの倉庫の地下。


灯りは小さい。


火属性魔法を使えば目立つ。


だから教師たちは、

土属性で空気を遮断した小部屋を作り、

光属性の微弱光だけで授業を行っていた。


子供たちは、

静かに木板を見つめている。


そこに書かれているのは、

単純な文字。


「ア」


「イ」


「ウ」


それだけ。


だが。


その文字を見つめる子供たちの目は、

祈るようだった。


「……読めた」


小さな少女が震える声で言った。


隣の少年が目を丸くする。


「ほんとか?」


「う、うん……これ、“みず”って書いてる……」


教師の女性は、

その瞬間、

泣きそうになる。


文字。


それだけだ。


それだけのはずなのに。


この国では、

命懸けだった。


宗教国家。


かつて巨大な信仰圏を支配した国家。


しかし今。


世界は変わり始めていた。


循環領。


帝国。


ベルセリア。


教師たちによって、

文字が広がり、

農業が改善され、

病が減り、

物流が整備され、

食料充足率300%超という異常な成果まで出始めている。


飢餓が消えた。


奴隷市場は崩壊した。


農民が覚醒した。


孤児が教師になった。


元奴隷が行政官になった。


血筋だけの貴族は没落し始めている。


つまり。


宗教国家だけが、

取り残されていた。


「文字を教えるな」


「知識は神官が管理する」


「民が賢くなる必要はない」


その思想。


しかし。


民たちは、

もう知ってしまった。


外の世界を。


「……先生」


小さな少年が震えながら聞く。


「文字を覚えたら……ぼくらも、外に行ける?」


教師は、

少しだけ黙った。


そして優しく笑う。


「行けるわ」


「勉強すれば、どこにだって行ける」


その瞬間だった。


索敵教師リシェルが、

ゆっくり顔を上げた。


空気が変わる。


「……来たわね」


地下室に緊張が走る。


教師たちは即座に動いた。


土属性教師が壁を強化。


風属性教師が空気の流れを遮断。


光属性教師が子供たちを保護。


誰も慌てない。


訓練されている。


既に何度も経験しているからだ。


地上。


黒衣の神官たちが倉庫を包囲していた。


「異端教育の疑いあり!」


「文字教育は禁止されている!」


「直ちに投降しろ!」


若い神官が叫ぶ。


その背後で、

年老いた神官が冷たい目をしていた。


「抵抗した場合、処罰を行う」


その言葉。


だが。


地下にいる教師たちは、

もう恐怖していなかった。


理由は単純。


勝てるからだ。


宗教国家側には、

もう大義がない。


民は飢えている。


病人も多い。


農業技術も遅れている。


教師もいない。


一方。


循環側には:


教育。


物流。


衛生。


農業。


教師。


そして。


武力。


全部ある。


だから教師たちは、

冷静だった。


「リシェル先生」


若い教師が聞く。


「どうしますか?」


索敵教師リシェルは、

静かに答えた。


「予定通りよ」


「捕縛」


短い。


それだけだった。


次の瞬間。


風が吹いた。


轟音。


倉庫の周囲に暴風が発生する。


神官たちが目を見開く。


「なっ――」


土壁。


拘束。


風鎖。


一瞬だった。


風属性教師たちが神官の動きを止め、

土属性教師が足場を固定し、

影魔法が腕を拘束する。


神官たちは抵抗する。


光魔法。


火弾。


浄化術。


しかし。


弱い。


決定的に。


教育不足だった。


魔力を持っているだけ。


扱えていない。


一方教師側は違う。


魔力操作。


魔力循環。


連携。


役割分担。


完全に体系化されていた。


「ぐっ……!」


若い神官が地面に押さえつけられる。


彼は理解できなかった。


なぜ教師が強いのか。


なぜ農民上がりが、

神官より魔法を扱えるのか。


その答えは単純だった。


努力。


教育。


環境。


それだけだ。


リシェルは神官たちを見下ろす。


「殺さないわ」


「ピーター先生のところへ連れて行きなさい」


神官たちの顔が凍る。


世界教師ピーター。


既に宗教国家内部でも、

噂は広がっていた。


「再教育される」


「敵が味方になる」


「思想が変わる」


「人格を書き換えられる」


半分は誤解だった。


半分は事実だった。


ピーターは、

洗脳などしない。


ただ。


教えるだけだ。


文字。


算術。


農業。


衛生。


魔力循環。


そして。


「自分で考えること」


それだけ。


それだけなのに。


戻ってきた者たちは、

もう二度と以前には戻らない。


だから宗教国家は恐れていた。


知識を。


教育を。


神官の一人が叫ぶ。


「こんなことが許されると思うのか!」


「神の教えに逆らう気か!」


その瞬間。


リシェルが本当に面倒そうな顔をした。


「……またそれ?」


疲れていた。


本当に。


教師たちは最近ずっと忙しい。


農業指導。


物流整備。


学校建設。


孤児保護。


難民受け入れ。


病対策。


紡織産業の教育。


やることが山ほどある。


その上。


「文字を教えるな」


「勉強するな」


「民は賢くなるな」


そんな話まで相手にしなければならない。


疲れる。


本当に。


「ねぇ」


リシェルは神官を見る。


「あなたたち、農業できる?」


神官は黙る。


「病人治せる?」


沈黙。


「文字教えられる?」


答えられない。


リシェルはため息を吐いた。


「じゃあ、何ができるの?」


静寂。


神官たちは、

初めて気づき始めていた。


自分たちには、

何もない。


権威だけ。


脅しだけ。


禁止だけ。


一方。


教師たちは、

民を豊かにしていた。


だから。


民がどちらにつくかなど、

最初から決まっていた。


地下室。


子供たちは怯えながら待っていた。


そこへ、

教師が戻ってくる。


「もう大丈夫よ」


子供たちが安堵する。


少女が恐る恐る聞いた。


「先生……学校、なくならない?」


教師は即答した。


「なくならない」


「何回壊されても、また作る」


「何回禁止されても、また教える」


「だって、あなたたちが必要だから」


その言葉。


子供たちは、

静かに泣いた。


彼らは知っている。


教師たちが命懸けだと。


捕まれば処刑される。


それでも。


来る。


毎日。


文字を教えに。


未来を教えに。


その頃。


循環領。


グロマールは報告書を読んでいた。


宗教国家北部。


秘密学校。


神官側妨害。


制圧完了。


被害なし。


短い報告。


グロマールは静かに紙を置いた。


ミレナが隣で聞く。


「……どうするの?」


グロマールは答える。


「放置」


「向こうが疲弊するだけだ」


事実だった。


繰り返せば繰り返すほど。


宗教側は:


・人材を失う


・民心を失う


・金を失う


・権威を失う


教師側は:


・経験値が増える


・支持が増える


・覚醒者が増える


・教育網が増える


つまり。


長期戦になればなるほど、

宗教国家が不利だった。


セレスが苦笑する。


「本当に終わってるわね、あっち」


グロマールは淡々と言う。


「教育を敵に回した時点で詰みだ」


その言葉は、

静かだった。


しかし。


決定的だった。


世界はもう変わっている。


文字を知った子供は、

元には戻らない。


学んだ農民も戻らない。


覚醒した孤児も戻らない。


文明は。


一度広がると、

止まらない。







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