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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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128/322

128話:教師不足

帝国南西部。


レオハルト改革領。


改革開始から、わずか数か月。


それだけで。


領地は別物になり始めていた。


街道には人が増えた。


農地では魔力循環農法が導入され。


市場では識字した商人たちが帳簿を使い始める。


治癒院には列ができ。


学校では大人と子供が同じ机に座る。


そして。


行政庁舎では。


若手官僚たちが徹夜で改革案を書いていた。


以前の帝国なら考えられない光景だった。


問題は一つ。


圧倒的な教師不足。


レオハルト改革領。


人口十万人。


これは小国家規模だった。


識字教師が足りない。


農業教師が足りない。


紡織教師が足りない。


治癒教師が足りない。


索敵教師も不足。


全部足りない。


教育速度に。


人材供給が追いつかない。


改革庁舎大会議室。


大量の書類。


地図。


人口統計。


識字率。


農地分布。


魔物出現地点。


全部が並んでいた。


レオハルトは額を押さえる。


「……人が足りん」


行政スキル覚醒者たちも疲弊していた。


一人の若手官僚が報告する。


「現在、簡易学校三十七か所」


「受講希望者、一万七千人超」


「教師数が完全に不足しています」


別の官僚。


「農業循環指導も追いつきません」


「紡織工房も拡張速度が速すぎます」


さらに。


「治癒院は患者が倍増」


「索敵部隊育成も不足」


全員が理解していた。


改革は成功している。


成功しすぎている。


民が自分から学び始めた。


だから。


教育供給が間に合わない。


その時。


会議室中央。


ピーターが静かに立ち上がった。


「グロマール領へ戻ります」


全員が顔を上げる。


レオハルトが言う。


「……教師を呼ぶのか」


ピーターは頷く。


「はい」


「弟子たちを連れてきます」


その言葉に。


教師たちの空気が変わった。


ピーターの弟子。


つまり。


次世代教師。


グロマール領で育った教育専門人材。


教育理論。


魔力循環。


魔力操作。


魔力吸収。


全属性教育。


農業。


物流。


治癒。


識字。


全部を理解している。


レオハルトが小さく息を吐く。


「……本当に」


「次から次へと出てくるな」


ピーターは少し笑う。


「環境がありますから」


その言葉が。


全てだった。


翌日。


改革庁舎中庭。


巨大転移陣。


時空間魔法。


ピーターが魔力を流し込む。


空間が歪む。


白い光。


転移門が開いた。


その先。


グロマール領。


巨大都市。


学校群。


工房。


農地。


魔導通信塔。


大量の人。


止まらない文明。


レオハルト側の官僚たちが息を呑む。


「……これが」


「本拠地か……」


以前なら都市国家規模。


今はもう違う。


文明そのもの。


ピーターはすぐ歩き出す。


向かった先。


中央教師育成区。


巨大校舎。


そこでは。


数千人規模で教師教育が行われていた。


識字教育。


魔法理論。


教導理論。


行政補助。


農業循環。


全部体系化されている。


ピーターが校舎へ入った瞬間。


空気が変わった。


「あ、ピーター先生!」


「帰ってきた!」


「ベルセリアどうでした!?」


弟子たちが集まる。


年齢は若い。


十代後半から二十代前半。


しかし。


目が違う。


自分が“育てる側”だと理解している目。


ピーターはすぐ説明を始めた。


「帝国改革領へ派遣します」


空気が張る。


だが。


恐怖は無い。


むしろ。


嬉しそうだった。


一人の少女教師が言う。


「十万人規模ですか?」


ピーターが頷く。


「はい」


「学校が足りません」


「農業も」


「紡織も」


「治癒も」


その瞬間。


弟子たちの目が燃えた。


教育者の目。


一人の青年教師が拳を握る。


「やります」


別の者。


「行かせてください!」


「僕も!」


「私も!」


声が上がる。


ピーターは静かに全員を見る。


そして言った。


「百人単位で出発します」


ざわめき。


しかし。


終わらない。


次。


さらに百人。


さらに百人。


最終的に。


千人。


教師千人規模。


異常だった。


普通の国家なら不可能。


しかし。


グロマール領では可能。


なぜなら。


教師を育てる環境が既に完成しているから。


教師が教師を育てる。


循環。


それが成立していた。


その頃。


レオハルト改革領。


転移門周辺では建設ラッシュが始まっていた。


学校。


宿舎。


工房。


倉庫。


食堂。


全部足りない。


若手官僚たちは休む暇も無かった。


しかし。


誰も疲弊した顔をしていない。


目が生きている。


行政スキル。


補助スキル。


計算補助。


鑑定。


全部が噛み合い始めている。


以前の帝国行政ではない。


人が動いている。


その時。


転移門が再び開いた。


教師たち。


百人単位。


次々と現れる。


識字教師。


農業教師。


紡織教師。


治癒教師。


索敵教師。


行政教師。


戦闘教師。


全員が荷物を持ち。


即座に動き始める。


若い。


しかし。


迷いが無い。


ある帝国官僚が呆然と呟く。


「……教師が」


「軍隊みたいだ……」


違った。


軍より恐ろしい。


教育だった。


教師千人。


国家変革規模。


その日の夕方。


レオハルト改革領中央広場。


臨時説明会。


ピーターが立つ。


その周囲に教師たち。


さらに。


集められた民。


農民。


兵士。


元傭兵。


狩人。


職人。


大量。


ピーターが言う。


「魔物狩り部隊を編成します」


ざわめき。


帝国では。


魔物狩りは危険職。


生還率が低い。


しかし。


ピーターは続けた。


「十人一班」


「三十班編成」


「索敵教師同行」


「治癒教師支援」


「循環訓練済み部隊で運用します」


空気が変わる。


理論化されている。


以前の“根性任せ”ではない。


教育。


連携。


役割分担。


それが成立していた。


索敵教師が地図を広げる。


「魔物発生地点は把握済みです」


「風索敵」


「土振動索敵」


「光反応探知」


「複合索敵を使います」


兵士たちが驚愕する。


「そんなことまで……」


さらに。


治癒教師。


「負傷時は即時循環治療」


「魔力枯渇対策済み」


「後送体制あり」


安全性が違う。


以前の帝国軍では考えられない。


民衆の空気が変わる。


恐怖ではなく。


挑戦。


その時。


ジミーが到着した。


大量の荷車。


物流部隊。


商会連合。


帳簿。


輸送員。


全部揃っている。


ジミーは相変わらず軽い笑みを浮かべていた。


「おーおー」


「景気良さそうじゃねぇか」


レオハルトが苦笑する。


「お前の物流網が来ると、本当に国家規模になるな」


ジミーは肩をすくめる。


「売れるならどこでも行くさ」


だが。


その目は鋭い。


既に計算していた。


魔物素材。


肉。


魔石。


薬草。


繊維。


全部。


帝国市場で需要が爆発する。


さらに。


グロマール物流網と接続。


価格安定。


輸送保証。


在庫循環。


全部成立する。


ジミーが言う。


「魔物素材は全部流せ」


「加工ライン作る」


「利益は領予算へ回す」


若手官僚たちが息を呑む。


以前なら。


商人は搾取した。


しかし。


違う。


利益が循環している。


領予算になる。


学校が増える。


治癒院が増える。


街道が整備される。


つまり。


民の安全へ戻る。


循環。


それが成立していた。


数日後。


魔物狩り第一班出撃。


十人。


全属性運用。


索敵。


拘束。


治癒。


連携。


以前とは別物。


結果。


圧勝。


死者ゼロ。


重傷者ゼロ。


大量素材回収。


肉。


毛皮。


魔石。


薬素材。


全部回収。


物流網へ流れる。


市場が潤う。


税収が増える。


学校建設加速。


治癒院増設。


民衆がさらに流入。


レオハルトは高台から領を見る。


工事。


学校。


農地。


物流。


兵士。


教師。


全部動いている。


止まらない。


隣にはピーター。


レオハルトが静かに言う。


「……教育だけじゃないな」


ピーターは頷く。


「教育は始まりです」


「そこから全部繋がります」


農業。


物流。


治癒。


行政。


軍。


産業。


全部。


循環する。


だから強い。


その時。


遠く。


新しい学校から声が聞こえた。


子供。


大人。


笑い声。


学ぶ声。


以前の帝国では無かった音。


レオハルトは静かに目を閉じる。


理解していた。


もう。


戻れない。


帝国は変わり始めた。


そして。


それを止める方法は。


もうどこにも存在しなかった。







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