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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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118話:索敵教師

ベルセリア王国。


北方第二物流倉庫襲撃事件から、一夜。


雪はまだ降っていた。


白い世界の中を、防衛隊が進む。


先頭を歩くのは索敵教師たち。


その後ろにマイク率いる防衛隊。


さらにベルセリア兵。


フィリア王女も同行していた。


静寂。


足音だけが雪を踏む。


その時。


索敵教師の一人が手を上げた。


全員が止まる。


教師はゆっくりと目を閉じた。


風が流れる。


空気。


熱。


魔力。


痕跡。


それらを読む。


「……見つけました」


マイクが目を細める。


「どこだ?」


教師は森の奥を指差した。


「地下倉庫」


「旧街道沿い廃村地下」


フィリアが驚く。


「廃村……?」


ベルセリア北部では珍しくなかった。


飢餓。


病。


寒波。


人が死に絶えた村。


その残骸が今も各地に存在する。


索敵教師は続ける。


「火属性反応三」


「風属性一」


「身体強化使用者二」


「さらに……」


教師の表情が変わる。


「貴族専属護衛」


空気が変わる。


マイクが鼻で笑う。


「やっぱりか」


物流倉庫焼き討ち。


ただの盗賊ではない。


教育を止めたい者。


物流を壊したい者。


つまり。


既得権側だった。


マイクが剣を抜く。


「行くぞ」


防衛隊が動き出す。


雪を蹴る。


速度が違った。


身体強化。


魔力循環。


魔力操作。


教育を受けた兵士たちは、もはや以前のベルセリア兵ではない。


数分後。


廃村到着。


崩れた石壁。


凍結した井戸。


人が消えた痕跡。


その地下から、微かに熱が漏れていた。


索敵教師が頷く。


「中です」


マイクが前に出る。


「包囲しろ」


防衛隊が散開。


風属性教師が空気流を固定。


逃走経路封鎖。


さらに土属性教師。


「土牢形成」


地面が変形する。


地下通路周囲を土壁が囲った。


完全封鎖。


その瞬間だった。


地下から怒号。


「誰だ!?」


「見つかった!?」


マイクが叫ぶ。


「ベルセリア防衛隊だ!」


「抵抗するなら叩き潰す!」


次の瞬間。


炎弾。


火属性魔法が飛ぶ。


しかし。


「ウォーターシールド」


索敵教師の水壁が防ぐ。


蒸気。


同時に風属性教師が動く。


「風縛!」


空気圧縮。


犯人の身体が吹き飛ぶ。


さらに闇属性教師。


「影縛」


黒い影が地面を這う。


足を拘束。


悲鳴。


「なっ……!?」


「動けない!?」


そこへマイクが突っ込む。


身体強化。


雪を砕く。


一瞬で接近。


「遅ぇんだよ」


拳。


轟音。


火属性犯が壁に叩きつけられる。


さらに別方向。


護衛騎士が剣を抜く。


「貴様ら平民風情が!」


しかし。


索敵教師が冷静に言う。


「動線、読めています」


風刃。


騎士の剣が弾かれる。


さらに氷。


「アイスバインド」


氷鎖が騎士を拘束。


動けない。


教育を受けた魔法使いは、“連携”していた。


それが旧時代との決定的差だった。


数分後。


制圧完了。


犯人全員拘束。


土牢に並べられる。


フィリア王女が前に出る。


その視線は冷たかった。


「誰の命令です」


沈黙。


マイクが一人の男の顔を掴む。


「言え」


男が震える。


「……グ、グランベル卿だ……」


空気が凍る。


グランベル。


北方大貴族。


広大な穀倉地帯を持つ旧支配者。


教育反対派。


物流反対派。


識字教育を「平民の暴走」と呼んでいた男。


フィリアが静かに言う。


「証拠は」


索敵教師が前へ出る。


「あります」


焼夷油。


命令書。


貴族印。


魔導通信記録。


さらに。


「資金流れ確認済み」


ジミー派商会の物流解析だった。


金の流れ。


物資の流れ。


人の流れ。


全て記録されている。


もはや誤魔化せない。


フィリアが目を閉じる。


苦しそうだった。


しかし次の瞬間。


王族の顔になる。


「国家反逆罪にて」


「グランベル辺境伯の貴族位を剥奪します」


兵士たちが息を呑む。


「全財産没収」


「全私兵解体」


「本人は即時収監」


重い。


極めて重い処分だった。


しかし誰も反論できなかった。


なぜなら。


今回焼かれたのは、“食料”だったからだ。


冬の北方で食料を焼く。


それは殺人と同義。


フィリアは続ける。


「ベルセリアは変わります」


「民を飢えさせる貴族ではなく」


「民を生かす者を必要とします」


その言葉に、兵士たちの目が変わる。


彼らは理解し始めていた。


教育とは何か。


物流とは何か。


魔法とは何か。


それは支配の道具ではない。


人を生かす力だった。


その頃。


グランベル辺境伯邸。


豪華な暖炉。


酒。


毛皮。


そこへ兵士たちが突入する。


「ベルセリア王国軍だ!」


「動くな!」


貴族たちが青ざめる。


グランベル辺境伯が怒鳴る。


「無礼者!!」


「私は辺境伯だぞ!!」


しかし。


フィリア王女が静かに現れる。


周囲が凍りつく。


「もう違います」


その一言だった。


グランベルの顔色が変わる。


フィリアは命令書を見せる。


「国家反逆」


「物流破壊」


「冬季備蓄焼却未遂」


「民衆殺害未遂」


「よって爵位剥奪」


辺境伯が叫ぶ。


「馬鹿な!!」


「平民に学問を与えるからこうなる!!」


「奴らは従うだけでいい!!」


フィリアは静かに返す。


「その結果が、今のベルセリアでした」


沈黙。


「飢え」


「病」


「文字も読めない兵士」


「冬を越えられない子供」


「あなた方は何十年もそれを放置した」


辺境伯が言葉を失う。


フィリアの目は揺れなかった。


「教育は危険ではありません」


「無知が危険なんです」


兵士たちが辺境伯を拘束する。


土拘束。


氷拘束。


完全封鎖。


辺境伯はなお叫ぶ。


「国が壊れるぞ!!」


その時だった。


後ろから声。


「もう壊れてたんだよ」


マイクだった。


辺境伯が振り向く。


マイクは静かだった。


「だから今、作り直してんだろ」


それだけだった。


辺境伯は崩れ落ちる。


理解できなかった。


なぜ平民がここまで変わったのか。


なぜ兵士が文字を読み始めたのか。


なぜ教師が強いのか。


なぜ物流が止まらないのか。


答えは単純だった。


“教育”だった。


夜。


収監された辺境伯を横目に、フィリアは空を見上げる。


雪が降る。


だが以前ほど寒くない。


魔力循環。


魔力操作。


身体へ薄く纏う魔力。


それだけで、人は冬に耐えられる。


ピーターが隣へ来る。


「……大丈夫ですか?」


フィリアは少し笑った。


「まだ怖いです」


「でも」


遠くを見る。


学校。


治癒院。


物流倉庫。


灯り。


人々。


「前より未来が見えます」


ピーターも頷く。


ベルセリアは変わり始めていた。


もう、“飢えて沈むだけの国”ではなかった。







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