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チートが無いなら無いなりに  作者: 古賀仁成
1章 11歳少年エド。魔法を失う。魔法が無いなら無いなりに。

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プロローグ

励みになるのでよかったらブックマークと評価をお願いします。

『合理を積み上げ、言葉を磨き、人の思考の流れを読む』

善く生きるとはかくあるべきだと信じ、そのように生きてきた。

 人は彼を評価し、中には天才とまで揶揄する愚か者も居たが、彼は自分が人より何かに秀でているとは微塵も思っていなかった。

積み木は一番下からしか積めない。結果とは、積み上げた過程の帰結に過ぎない。ならば、合理を順に積み上げれば、得られる結果が期待通りであることは必然だ。


――ただし。

積み木そのものが無ければ、何も積み上げることはできない。合理を成立させるには、その前提となる知識が必要だ。ゆえに彼の人生の大半は、知見を得ることに費やされていた。


 それが崩れたのは、若くして人材派遣会社を立ち上げた後のことだった。それまで彼は、節操なく知識を貪り、多くの出会いの中で言葉を磨いてきた。人の思考の流れすら、ある程度は読めているつもりだった。


――だが、足りなかった。


彼は知らなった。

否、想像が甘かったのだ。


人は、生きるために働く。働かなければ、生きてはいけない。それは疑いようのない前提だったはずなのに。

働きたくないから、死を選ぶ。

その選択が、自然に表れる人間がこれほどまでに多いという事実。

命を絶たないまでも、とても合理的な選択と思えないような選択をする人間の多さ。

それらは彼にとって、あまりにも理解不能だった。


直接の関係はない。

だが――

それでも――

その事実は、彼の積み上げてきた合理を揺るがすには十分すぎた。


名を、比叡 智玄(ひえい ちげん)という。

智玄はそれからというもの、人へ寄り添うことを選んだ。時には自らの合理に反することもあったが、そうすることで結果的に期待以上の結果を得られることが新しい知見として智玄の脳に刻まれた。

信頼は力となり、力はさらなる結果を呼ぶ。会社を興し、人に託し、人を切り捨て、選び、積み上げる。

そうして彼は、三十代半ばにして一財産築いた。

名は広まり、同時に――愚か者も増えた。


その頃だろうか。虚しさを感じていたのは。

合理を積み上げ、言葉を磨き、人の思考の流れを読み続けた果てにあったものは――

ただ、期待通りの結果だった。


その事実は、彼を合理の外へと追いやるには十分だった。

比叡 智玄はすべてを捨てた。

名も、地位も、築き上げたものすべてを。

そして――出家した。


江戸時代から続く智葦途宗(ちいどしゅう)に身を置き、彼は「慧導(えどう)」と名を改めた。

人は考える葦である。ゆえに一途に智を磨き、迷いを断て。

その教義は、かつての彼の在り方とよく似ていた。

――都合が良すぎるほどに。


最初に与えられたのは、ただ座ることだった。

語るな、導くな、まずは己を知れ。

そう言われ、彼は黙して座り続けた。

浮かぶ思考を否定し、流そうとするたびにそれも思考ではないかと観察する。

そしてそれをさらに観察する自分がいる。思考は止まらず、ただ、層を増していくだけだった。

それでも、それを数か月こなすと考えていない振りもうまくなったようで

そのうちに説法の場に立つことを許された。


はじめは、先達の言葉を聞くだけだった。

どのような悩みには、どの言葉を返すのか。人の表情、声色、沈黙の長さ。

それらを読み取り、最適な言葉を選ぶ。


――それは、かつての仕事と何も変わらなかった。


慧導は戸惑っていた。

合理を捨てたはずだった。

だが、そこにあったのは、形を変えた合理だった。


言葉を選び、相手の思考を読み、導く。

かつてと同じことを、ただ「救い」という名目で行っているに過ぎないのではないか。

疑問は消えなかった。


――それでも。

彼の言葉が救った人々は、あまりにも多かった。


やがて宗派の中でも地位を築き、多くのものが彼の言葉を求めるようになる。

だがそのたびに、彼の内側では別の声が囁いていた。


――それは本当に、その者のための言葉か。

――それとも、自分が正しく在るための言葉か。


彼は合理のうちに、どの言葉を投げれば救われたと錯覚するのかを知っていた。

そしてそれを与えることができる自身の能力を知っていた。

それで善いのか、問い続けながら彼は言葉を紡ぎ続けた。


幾度もの季節を見送り、

静かに花を支える年になった、ある夕刻。


陽は傾き、境内には長い影が落ちていた。

慧導は竹ぼうきを手に、静かに落ち葉を掃いている。

乾いた葉が擦れる音だけが、やけに大きく響いていた。

規則正しく同じ動作を繰り返す、考えなくてもいい作業だった。


「ねぇ、お坊さん。」

不意に声が聞がした。

顔を上げる。


いつの間にか正面に子供が立っていた。

玉砂利の音にも気づかなかった。自分は、いつから気づかなかったのだろうか。

子供は十にも満たない年ごろに見える。どこにでもいそうな、ありふれた子供だった。


「どうしたのかな。」

慧導は穏やかな声で問いかける。

子供はしばらく、彼を見ていた。

値踏みをするようでもなく、ただ、観察するように。


「お坊さんは、いま誰のために生きているの?」

唐突だった。

だが、珍しい問いではない。これまで幾度となく似たような問いを受けてきたし、

問いに対する答えを与えてきた。


「誰の為でもあるよ。君の為でもあるし、私の為でもある。」

答えは淀みなく出る。整えられた、形のいい答えだった。


「ふうん。」

子供は興味がなさそうに頷く。


「じゃあ、それは何のために生きているの?」


「人がより善く生きるためだよ」


「どうして?」


問いが重なる。

少しずつ、深くなる。

なんで、なんで、なんで――


慧導は同じように答えを重ねる。

これまで幾度となく繰り返してきた言葉。

人々が納得し、救われたと語った言葉。


だから、間違いではない――


「それってさ」

子供が、ふと首を傾げる。


「本当に、そう思ってる?」


――その一言で、


何かが、ずれた。


あるはずの答えが。


いくらでも語れるはずの言葉が。


口から出てこない。


今まで自分はなんと答えた?


先ほどの問いは?


自分とは?


先ほどまで口にしていた言葉が。


出てくる言葉が。


すべて、"借り物"に思えた。


ぐらり、と視界が揺れる。


地面が、遠のく。


音が、消える。


――頭痛。


それでも。


子供の姿だけは、やけにはっきりと見えた。


まるで――


最初から、現実がそこにしかなかったかのように。


「じゃあ、もういいや。」


子供はそう言って、笑った。


その笑みは、どこか満足げで。


そして――


ひどく無関心だった。


次の瞬間、世界が暗転した。

初めまして、古賀仁成と申します。

この度、思い立って小説を書いてみることにしました。


特別なきっかけがあったわけではなく、ただ時間に少し余裕ができたことと、以前から一度くらいは形にしてみてもいいのではないかと考えていたことが重なった、という程度のものです。


文章を書くこと自体は嫌いではありませんが、物語として誰かに読まれるものを継続して書くのはこれが初めてになります。至らない点も多いかと思いますが、少しずつでも読みやすいものにしていければと考えています。


更新頻度については特に決めていませんが、無理のない範囲で続けていくつもりです。

もし気が向いたときにでも、ふと思い出して読んでいただけたなら幸いです。


どうぞよろしくお願いいたします。

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