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そうだ。奴隷を冒険者にしよう  作者: HATI


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第964話 紫水晶の正体

 ……道中、魔物と遭遇すらしなかった。

 シージが近いので魔石の確保のために間引きされているのかと思ったが、ドラゴニュートによる襲撃が始まってからこうなったらしい。


「シージが見える範囲にはもう魔物は近づきません。やつらもドラゴニュートが恐ろしいのでしょう。魔物の脅威がなくなった代わりにもっと厳しい状態になってしまいました」

「どおりで遠出をするわけだ」

「ある程度離れれば魔物にも遭遇できるようになりますから。……命懸けですよ。シージの近くまで行けば何とか逃げ込めますし」


 若い兵士が話してくれた。

 魔物が近くにいないのは本来なら歓迎すべきことなのだが……。

 じり貧という言葉が思い浮かぶ。

 彼らのやっていることは、すでに見えている終わりを少しでも先延ばしにしているに等しい。


「ほら、見えてきました。あれこそ大陸最後にして我らが都市シージです」

「おぉ」


 丘を越えると遠目に見えた光景に思わず唸った。

 威圧感すら感じるほどの、まるで山の如き巨大な壁がぐるりと鎮座している。

 高さは……10mはありそうだ。


 太陽神連合国も立派な城壁だったが、こっちはそれ以上だな。

 もはや要塞だ。

 所々に攻撃された跡が見える。


 壁の表面には淡い青色の光が付いたり消えたりしていた。

 あれが魔防壁か。


「魔防壁が採取できる迷宮がシージ内にあるんです。というか、その迷宮を中心に都市が出来上がっていきました」

「都市の中にあるんですか? いくらなんでも危険では」

「大丈夫です。正確に言うと迷宮の壁が材料なんですよ。迷宮自体はもう枯れて魔物もいません」

「そういうことですか」


 価値のある鉱物などが採れる場所が賑わうのはよくあることだ。

 魔防壁は話を聞く限り魔物対策に優れていたんだろう。

 安全を求めて規模が大きくなっていったようだ。


「襲撃対策として壁を増築する際にほぼ掘り尽くしてしまったようですが」

「それは残念。余っていれば是非とも買いたかった」


 シージの近くまで移動する。

 さすがに使徒スレイプニールまで連れて行けない。

 こんなのが都市の中に入ったら間違いなく大問題だ。

 ここに待機させていたらドラゴニュートに襲われるかもしれないし……。


「私が呼べば遠くにいてもすぐ来てくれるみたいです」

「便利だな。色んな意味で普通の馬とは違う」


 アズがそう言うので、シージにいる間は外で放し飼いにすることにした。

 気持ちよさそうに走り出し、すぐに見えなくなる。

 馬車はここまでくればあとは押せばなんとかなりそうだ。


 閉まっている門に兵士が近づき、開けるように伝える。

 その間に魔防壁を見学する。

 ……青い光が纏っているように見えたが、壁自体は薄紫色だ。

 なんらかの石を砕いて混ぜ合わせたのではないだろうか?

 アレクシアがコンコンと壁を叩く。

 なにかに気付いたようだ。


「これって、ポーションと引き換えにもらったあれじゃない?」

「あの大きな紫水晶か。そうか、あれが魔防壁の材料だったんだな。触媒として優れた石だと思っていたがそんな使い方があったとは」


 あんな奇麗で大きな宝石を砕くなんて考えもしなかった。

 もったいなすぎる。

 使い切ったとはいえ、大量に保有していたとすればあの程度を渡しても問題なかったというわけか。


 ゴゴゴ、という音と共に門が開く。


「早く入って下さい」

「今行きます」


 馬車を押して門の中へ入る。

 すぐさま閉じられた。

 厳重な警戒状態だ。

 俺たちの馬車は邪魔にならない位置に置かせてもらった。


 門の検閲で兵士たちが身元を保証してくれる。

 ……兵士たちと一緒に来なければ、中に入れなかった可能性があった。

 外に出る部隊は危険な分信頼されているらしい。


「魔防壁を使って結界を空にも張ってるみたい。あの壁が壊れない限り空からの侵入は難しいと思う」

「王都と似たようなものか」

「エヴァリン抜きでならそれ以上かも。これならいくら魔法を撃っても耐えられそうね」

「問題はそれを維持できるかだな」


 アレクシアの見立てを聞く。

 これまで耐えてきただけあって、相当なものだ。

 だが王都の結界は魔導士たちが維持しているのに対し、こっちはすべて魔石で補っているはず。

 ……魔力は時間と共に回復するが、魔石は消費すればその分消える。


 知れば知るほど苦しい。

 真綿で首を締められているようだ。

 こんな状態で必死にあがいていればろくに眠れなくもなる、か。


「色々とありがとうございました。後は我々だけで十分です」


 運ぶのを手伝った荷物を受け渡す。


「これを渡しておく」


 隊長からタグを受け取る。


「滞在証のようなものだ。それがあればシージ内で自由に活動できる」

「それは助かります」

「命の礼としては安いものだ」


 兵士たちと別れた。


「無事シージには入れましたね」

「ああ」


 周囲から視線を感じる。

 誰も彼もみな獣人だ。

 タグのおかげか悪意のある視線は感じない。

 ルーケのこともバレていない様だ。


「……私のことで気苦労をおかけして申し訳ありません」

「別にいい。いてもらった方が助かるし、ドラゴニュートに関しては俺も詳しいことを知りたくなった」

「それで、これからどうしますか?」

「あまり悠長に構えているわけにもいかなさそうだ。ノラスに会いに行く」


 人間がシージの中に入ったという連絡は、もう領主に伝わっているに違いない。

 使節団の使者を任されるくらいだから、ノラスもそれなりの地位にいるはず。

 それならこっちから行った方が話が早いはずだ。

 回りくどいやり方も面倒になってきたしな。


「ヨハネ様。場所が分かりました」


 そしてミーリアが役に立ってくれる。

 やはり獣人、それも少女となると相手も警戒心が緩むようですぐに目的の場所が判明した。

 俺たちではなかなか話も聞いてくれない。

 どうして人間が? となってそそくさと逃げられてしまう。


「よくできました」

「お役に立ててうれしいです」


 ルーケが褒めている。

 都市の中心にある建物が目的地らしい。

 元々採掘場だったものを改築して住めるようにしたとか。

 大きな建物ではあるが、まさか領主がいるとは思わなかったな。




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