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そうだ。奴隷を冒険者にしよう  作者: HATI


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第1029話 精神的にも肉体的にも

「ヨハネ君は本当にお金が好きだったよね。銅貨を一日中眺めていたりして」

「長くなるのでその辺でやめてくださいよ、ラミザさん」


 嬉々として昔話を始めようとするラミザさんを制止する。

 アズやアレクシア、エルザだけではなく、フィンですら聞き耳を立てていた。

 フランは意外と昔のことには興味がないようだ。


「えぇ……面白いエピソードはたくさんあるのに」

「昔を懐かしみ始めたら年寄りになった証拠ですよ」

「私はまだ若いんだけどぉ!?」


 そう反論するものの、声が上ずっている。

 ラミザさんの姿は俺が小さい時から一切変化していない。

 ずっと美人のまま。

 親父からも似たような話を聞いたことがある。

 実際の年齢ははたしていくつなのだろうか。


「いやだなぁ、ヨハネ君は。おほほほ」

「見た目ではなく魂の方を見ればすぐに分かることだろう」

「フランちゃん、ちょっと静かにしようか」


 寿命を延ばすアイテムを使っていたり、自作の化粧品などを作っては試しているのを知っている。

 なので外見通りでないことは間違いない。

 深く追及されたくないのか、ラミザさんはようやく診断に戻ってくれた。


「うん、健康体なのは間違いない……んだけど」

「どうかしました? なにか問題でも?」


 聴診器を俺の体に当てて、ラミザさんは浮かない顔をする。

 古傷はあるものの、問題がないと思っていたので意外だった。

 まさか目に見えない病気かと思ってドキドキする。


「問題っていうか、なんて言えばいいんだろう。ヨハネ君は冒険には出てないんだよね」

「何度か付き添ったことがあったかな。ただ足手まといになるので今は完全に任せて俺は報告を待ってますね。後は今回みたいな俺が行く必要がある時は、護衛として一緒に来てもらったりはしてます」

「そういう時も魔物にトドメを刺したりはしない?」


 質問の意図がいまいち分からない。

 ただラミザさんの技量は信用している。

 知識を含めて人体に関してこの人以上に詳しい人はおそらくいないだろう。

 なので言われるがままに答える。


「何度かあったとは思います。ただアズたちとは違って、魔物を狩ってもほとんど効果はありませんでしたからそれ以降はしてません」

「魔物を倒して得られる魔力に関しては、かなり個人差が大きいから。前から戦士向きではないと思っていたからそれは予想通りなんだけど……」

「魔法が使えないか色々と試しましたが、それもダメでしたね。鑑定の時に多少補助できるくらいですよ……」


 金を稼ぐことほどではないが、冒険者に対して憧れがあった。

 しかし冒険者になるという小さな夢は、こういった現実によってはるか昔に打ち砕かれている。

 もし無理に挑戦していればとうの昔にどこかで野垂れ死んでいただろう。


(下手したら初期のアズより弱いからな)


「昔よりもヨハネ君の魔力が物凄く増えてるんだよねぇ。といっても体の中心に溜まっているだけで、肉体を強化したり魔法を使えるわけではなさそうなんだけど」

「そうなんですか? 全くそんな気はしませんが」


 自覚している魔力量は見事に一般人並みだ。

 そんなに増えているなら分かりそうなものだが……。


「何を言っているんだ? ヨハネの魔力は多いだろう? でなければ私が活動できるほどの量を分け与えることなどできるはずがない。魔力がなかったとしたら干からびて死んでいるはずだ。いくら熱心に信仰してもそれだけでは足らん」

「……そんなに吸い取っていたのか」

「ただの人間にしては多いと思っていた。おかげで満たされている」


 フランが悪びれもなく言う。

 自覚はないが、もし俺にそれだけの魔力がなければあの囚われた世界でフランに吸い尽くされてミイラになっていたということか。

 うーん、考えたくない結末だな。


「ああ、それは簡単です」


 機嫌がいいエルザが割り込む。

 何か知っているようだ。


「ご主人様はアズちゃんと肉体的にも精神的にも極めて親密に繋がっているので、アズちゃんの余った魔力がご主人様の中に流れ込んでいるんです。もちろん害はないですよ? ただ神の魔力を普通の人間が扱うことはできないので、今さっき言ったような感じになってるんです」

「私とご主人様が親密に繋がってるだなんて……」


 アズが嬉しそうに身を捩らせている。

 要はアズの魔力が俺に貯蔵されているらしい。

 だが俺には使えず、同じく神であるフランに渡れば流用できると。


「小娘……アズの魔力だったのか。魔力に罪はない。我慢して使ってやろう」

「そんなに嫌なら使わなくてもいいんですけど」

「貴様からではなくヨハネから貰ったものだ。私の好きにする」

「むぅ」


 アズはやや不満そうだった。

 知らないうちに守ってくれたんだな。

 労うために頭を撫でると、笑顔で受け入れてくれる。


「それだと俺自身が得をする感じではなさそうですね」

「そうだねぇ。意識的に使うのは無理かも」

「その代わり、その魔力を消費してアズちゃんかフランを呼び出すことはできると思います。さすがに世界を隔てると難しいでしょうけど」

「それは助かる」


 時と場合によるだろうが、危ない時にアズが来てくれたら間違いなく助かるだろう。


「アズちゃんだけではなく、力を取り戻したフランからも流れてきてますね。完全な枯渇状態から抜け出したんでしょう」

「じゃあフランはご主人様から魔力を貰う必要がないじゃありませんか。というか私から直接渡せば触れ合う必要なんて」

「信者から貢がれるから価値と意味がある。これは宗教的な儀式でもあるのだ。それに私は完全な状態にはまだほど遠い。あと気持ちいい」


 俺を見ながらフランがペロリと舌で唇を舐める。

 その意味は……言葉にする必要はないだろう。

 うーん。使えない魔力がたくさん、か。

 まあ害がないなら別にいいだろう。


 金に変えられたら一番いいのだが。

 例えば魔石に魔力を込めたり。


「それ以外に関しては健康体だと太鼓判を押すよ。病気もなし」

「ホッとしました。宰相をやるのも金を稼ぐのも体力が必要ですから。病気になっている暇はありませんよ」

「ちゃんとよく寝てよく食べないとだめだよ。体が資本なのは基本のキだから」

「分かってますって」


 これで健康診断は終了した。

 エルザが妊娠していたという重大なことが分かって驚いたが、これからも頑張ろうというモチベーションになる。


「しばらくエルザの仕事は減らそうか」

「もう、ご主人様ったら気が早いですよ。妊娠が分かったとはいえ、まだお腹だって大きくなってないんですから」

「そうだな……」


 つい気がはやってしまった。

 ユーペとミーリアにもエルザの妊娠を報告する。

 ミーリアからはおめでとうございますと祝ってくれた。


「妊娠!? 子供が生まれるってこと……?」

「はい。お先にすみません」

「それは別にいいんだけど。手を出してるのは分かってたし。ヨハネの子供かぁ……。不思議な気持ちがするわ。お腹を触ってもいい?」

「いいですよ。まだ触っても分からないと思いますけど」

「それでもいいから」


 ユーペが身を屈めてエルザのお腹にそっと触れる。

 それから耳を近づけしばらくじっとしていた。


「うん。さっぱり分からないわ! でも、なんだか嬉しいわね。……そうか、身内が増えるからか。私たちの場合、王位継承権のこともあって兄弟が増えるのは必ずしも嬉しいことばかりじゃなかった。ティアニスのことは好きだけど、兄に対しては複雑な心境だったわ」

「大丈夫、ここにユーペの敵はいないよ」

「そうね。だから一緒に来たのよ。いずれは私も子供が欲しいわ」


 ユーペは俺にウインクして嬉しそうに笑った。



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