おはよう、オボロ
ログアウトしたりログインしたりを繰り返して数日。
ストッキンさんのほうのタイミングと、こちらのタイミングを合わせるために日程調整中だ。
膝の上にはアカツキが丸くなって座っていて、ポカポカと内蔵の機能で私の足をあたためてくれている。秋になり、少し肌寒くなってきたのでアカツキがホッカイロ代わりになってくれるのはありがたい。
そして、神獣郷の限定サーバーを使ったチャットのやりとりをして、仕事の忙しいルナテミスさんにジンの可愛いポーズ集を送ったりなんだりしていたとき。
パタパタと軽い足音が私の部屋に向かって来た。
「お姉!」
バタムと扉を開けたのは一番下の妹、弓月。まあるいほっぺたを赤くして、興奮冷めやらぬ! って状態だ。どうしたんだろう? 空中展開のホログラムキーボードに手を置いたまま振り返ると、彼女は大きく手をあげて声を張り上げた。
「オボロちゃん来た!!」
「うぇっ!?」
『くぁwせdrftgyふじこlp』
思わずホロキーボードを変な風に触ってしまい、そのままの文字がチャットに送られる。心配したストッキンさんやらユウマやらが『どうした?』とチャットで反応するのを横目に、『オボロのリアライズ届いた』と素早く返し、チャットを退室した。彼らならこれですぐに理解できるはずだ。
弓月の言葉にアカツキも飛び上がるように驚いて、床にくるくるっと着地する。十点!! 君、それ好きだよね。
「今行く! えと『よろしく、アイちゃん。パソコンの電源を切って』」
「うん、来て」
『パソコンの電源を切ります』
普段は普通に自分で電源を切っているのだが、今日ばかりはそうもいかない。パソコン内蔵のAIに電源を切るよう指示を出して、すぐさま椅子から立ち上がり、途中で椅子の足に小指をぶつけて悶絶するというトラブルはあったが、無事にリビングへと辿り着いた。
なお、アカツキにはだいぶ呆れられた。
私の後ろをちょこまかと歩き、随分と慣れたようの階段をぴょんこぴょんこと降りていく姿は控えめに言っても天使だと思う。ここにオボロも加わるんでしょ? 我が家が天国じゃん。
すごくワクワクする。十数万もする高価な技術なうえ、台数もまだまだ少なくてあまり流通していないが、それだけで大好きな『家族』が増えるというのなら、お金を払うのも惜しくはない。
なにものにも代え難い、大切な宝物。
私だけのパートナー達。
みんなで同じ種類の子を育てようがなんだろうが、ステータスはともかくとして、性格が同じように育つことは決してない。
たとえAIだとしても、学習して育ち千差万別の性格になるのならば、それはもう『生き物』なのだ。
誰がなんと言おうと、神獣郷の『パートナー』は生きている大事な友達なのだ。
それを思えば、十数万でも数十万でもむしろ安いくらいだと言わざるを得ない。
噂を聞けば、他人と接触できない病気の子供が神獣郷をちょっとずつプレイし、パートナーと心を通わせ、そして友達としてリアライズしたパートナーと共に笑って暮らせているという事例がすでにあるらしい。
病気のために普通ならば他人と顔を合わせて友達になることもできない。接触するのも防護服越しとか、そんな状態。でも、リアライズした聖獣や神獣ならばそんなことは関係なく、触れ合うことができる。
暗い性格だったその子は、寄り添うことのできる存在ができて明るく笑えるようになったらしい。
洗浄とメンテナンスは大変な手間がかかるらしいが、それでも神獣郷というゲームと、そのAI達は世の中にどんどん認められていっている。
神獣郷のヘッドギアは、体内を巡るナノマシンを読み取ってバイタルチェックも常にしてくれるものなので、病気の子がプレイしていても時間制限さえしていればほとんど問題なく動かすことができるらしいのだ。
誰とも触れ合えない。医者以外にはほぼ会えない。そんな子供が、健康な子供達と同じように遊べる環境。そして、自分だけのそばにいる友達ができる。そんな夢のようなゲーム。
それが、『神獣郷オンライン』というゲームなのだ。
……本当にすごい技術だと思う。
いつか、自分だけの友達がそばにあることも当たり前になる日が来るんだろう。
それでも今は、感動していたい。
私だけのアカツキ。
私だけのオボロ。
二匹目の友達が、我が家にやってきた。
「……いらっしゃい、オボロ」
家族の真ん中に置かれた箱を見て、ふっと微笑んで言葉を漏らす。
アカツキも「テッテッテッ」とフローリングの上で足音をたてながら箱に近づいていき、不思議そうに覗き込んだ。
「アカツキ、それ箱だからまだオボロは見えないよ」
「くう?」
そうなの? という風にアカツキが首を傾げ、その瞬間カシャカシャカシャッ! とシャッター音が複数響く。音のほうを向けばお父さんが一眼レフカメラを構えていた。
お父さん……。
お母さんが若干呆れたような目でお父さんを見つめている。お父さんも結構アカツキのこと気に入ってるんだよね。いつも私の後ろをついてくる様子を見ながら写真を撮っている。
なお、アカツキは一度お父さんの長話という名の酒飲みに巻き込まれたので、お父さんに対してはそこそこ塩対応だ。その辺のことを付き合えそうなのはレキくらいかな……お爺ちゃんのリアル実装まで、お父さんに付き合ってくれそうな子はいない。残念。
「京華、出してあげましょう?」
「うん」
お母さんの言葉を皮切りに、家族が見ている中でオボロの入った箱を開き、くたっとしたほどよい重さの機械を抱き上げる。
その姿は最初に出会った頃のオボロとはかけ離れている。なにせ、リアライズ計画で開発されているぬいぐるみは最初の十三支の姿を模しているのだ。
だから、商品の見た目自体は魔獣として仲間になった『グレイ・ウルフ』の姿ではなく、初期聖獣の一匹『ダガー・ドギー』という白い子犬のものである。
オボロがハスキーっぽい見た目だったとすれば、この初期聖獣は柴犬っぽい感じだ。しかし、尻尾などは普通に動くので、中に入れた聖獣AIのデータによって尻尾が真っ直ぐになるなどのちょっとした変化はあるらしい。
もちろん、姿自体はホログラム展開があるので寸分違わない姿に見せかけることができるらしいが……。
「ダウンロード……っと」
ヘッドギアからスマホに移して来たオボロのデータをぬいぐるみに接続し、数分。
床におすわりさせてみんなで見守っているうちに、ダウンロードが完了して100%の表示が映る。ホログラムがぶわっと展開して、その姿は最初期のグレイ・ウルフの姿そのものに変化していき……。
そしてついに、オボロが目を開いた。
「おはよう、オボロ」
「クゥ!」
パチクリとまばたきを繰り返すオボロの前で、私とアカツキが並んで座り、手を差し出す。
「ようこそ、我が家へ」
「コッコッ!」
オボロはしばらく私達を見て尻尾を千切れんばかりに振っていたかと思うと、差し出した私の手に『お手』をして高らかに鳴き声をあげた。
「わふん!」
よしっ、明日一日は歓迎会もとい、家族との交流会だ!!
本日神獣郷のコミカライズ版第1巻発売日!!
……というわけで、記念ssを兼ねてオボロのリアライズした話を後1話か、2話分か、投稿していきます。
ちょうどアカツキとオボロ。二匹だけだったのはミズチ戦前までの話ですからね。思い出を語らったり、妹達と絡んだり、はじめての現実世界に興味津々のオボロがいろんなことをしてほのぼのしたり、外でちょっとしたトラブルがあったり……そんなお話を書いていきます。
本編の延長戦上の話なので番外編ではありません。
お楽しみに!!
とうとう単行本の発売……すごく感慨深いですね。
ここまで来ることができたのは、ひとえにいつも応援してくださる皆様のおかげです。本当に、本当に、ありがとうございます。
これからもどうか、「神獣郷オンライン」の世界を見守っていてください。そして、彼女達のことを好きでいてくれたら、とても嬉しいなと思います。
作者である私自身も、もっともーっと頑張ります!! よろしくね!!
なお、Twitterのほうで「#神獣郷コミカライズ感想」のタグをつけてコミック1巻の感想などを呟いていただけたら、反応しにいきますよ!!




