お客様が神様ですね!
「くぅ……!」
ガクンと、人目も憚らず床に手をついて落ち込んだ。
2号ちゃん……少しでも目を離すとアウトすぎる……!!
垂れ流し配信をしながらかれこれ一時間ほど。
2号ちゃんを宥めすかし、おやつを与えたり、いつもは私の手伝いをしてくれているジンを貸してホールの席に留めておいたり、色々努力はしているものの、あの子のお手伝いは止まらなかった。
完全にありがた迷惑なのだが、それを面と向かって言うわけにもいかず、ただひたすらお手伝い範囲から追い出そうと頑張っていたが、今のところ全敗。
私の借金も100万を超えた。
いやそのお値段、桁がおかしいと思うじゃない?
場所が同じなのがダメなのかもと思って、バー「スカーレット」のほうにバイト先を移してみたりしたのがもっといけなかった。
あの子……くっっっそお高いお酒のボトルをね、中身入りで割っちゃったんだよ。あのときはマジで泣くかと思った。お皿とかなら積み重なる借金も微々たるものだし、まだゲームだし〜と楽観的になれるからいいんだけど。
いきなり【損害】の赤文字と一緒に数十万単位の大きな数字が目の前にドーーーーンッて! ドーーーーーーーンッて! 泣くわ! いや、泣いてない!! ちょっと情緒不安定になっただけで泣いてない!!
2号ちゃん……恐ろしい子……。
ここまで来ると完全にわざとでは??? って感じなのだが、証拠は特にない。くすくす陰で笑っているわけでもなし……あ、顔が見えないからニンマリしてても分からない……か?
いやでもなあ……。
うん、目的のほうは置いといて、本格的にリンデの指示説が有力になってきた。あと、私がどこへ行こうとも必ずドジっ子という名の妨害っぽいことをしてくることも分かった。リンデの指示がなくともご本人がリンデのために! と動いている可能性もあるわけだし、クロだろう……多分。
まあ、ここまでしてきてリンデが「あらまあ、ダメじゃないの2号ちゃん! ごめんなさいねぇ。うちの子のしたことだし、お詫びに全額こちらで負担するわぁ」とか言ってきたら解釈違いなので私が発狂するかもしれない。
それをしてきたら頭の中がハテナで埋め尽くされると思う。あそこまでやらかしておいてシロだったの? ホントに??? ってなる。絶対なる。むしろそっちのルートだと私が困る。だってそんなことされたら、リンデのこと素直に「よし、ぶっ飛ばそう!」とか言えなくなっちゃうから……。
なにげにリンデのキャラは好きなんだよね。まだあんまり絡みはないけども。
「はあ……割れたお皿が一枚、割れたお皿が二枚、割れたお皿が三枚、割れたお皿が……」
でも憂鬱になるのは仕方ないと思うの。
赤文字で表示される損害の文字はもういやぁぁぁぁ!!
心なしか配信中のコメントも減ってきているようだし、2号ちゃんの所業を防ごうとして全敗しているから、期待外れで視聴者が去……うっ、つら。
これじゃあ……これじゃあうちの子を信仰してくれる信者がいなくなってしまうのでは!? 致命的すぎる!!
「うっうっ……私のことはどうとでもしていいですけど……うちの子達だけはぁ……好きでいてくださいね……」
『情緒不安定かよwww』
『佐村ー! うしろうしろー!!』
目の前で美味しそうにタピオカミルクティーを嗜んでいる2号ちゃんを見守りつつ、ホールのテーブルで項垂れていると……なんだかお約束のようなよく見るコメントが目に入って、顔をあげる。
うしろ?
「お、やっと気づいた!」
「ケイカさんこんにちは〜! お前らもはじめまして〜!」
「おう! ほらほらこっちこっち、えーっと誰だっけ。563番? 連れてきて!」
「ちょっと待ってくれよー! せっかくアルカンシエルまで連れ出しに行ってたんだから褒めてくれたっていいだろ!」
「ばっかお前、自分から志願しただろーが!」
「えー」
そこには、ラフな格好をしたお客さんプレイヤーの姿。
数人が連れ立ってやって来ていて、お互いにはじめましての挨拶をしつつ、私に近づいて来ている。ちょっと遅れているらしい人に声をかけていて、遠くからその遅れているらしい人が大声を張り上げているのが聞こえてきた。
んんん? 団体のお客様? 私は今バイトのミニゲームしてないから接客はできないのだけれど。
「連れて来たぞー!」
声が近づいてきて、興味が湧いた私はチラリとそちらを見る。わざわざ私に向かって来ているのだ。私に用があるファンなのだとは思うが……いったい誰を連れてきたというのか。
今日はルナテミスさんも仕事があるからって言ってログインしていないはずだし、ストッキンさんも秋の新作がどうとか言ってチャットのほうに「ごめんなさい」メッセージが載せられていた。そして、ユウマのほうは手芸のバーチャルフリーマーケットがあるからそれに出るとか言って不在。
今日は私しかいないはずだから、助っ人とかはないはずだが……。
そう思ってジト目になっていた私は、連れてこられた人を見て目を丸くした。
思わずガタンと立ち上がって、膝の上に寝ていたジンが落ちて、ハッとしてから間一髪キャッチする。ご不満そうだ。ごめん。
でも待って?
「連れてこられました〜。しかし、アルカンシエルからは随分と遠いのですね。でも、仕方ありませんね! だってケイカさんのピンチだって言うのですもの! わたくし、そんなことを言われたら無視できませんわ!」
明るく言いつつ、「ケイカさんをだしにしたナンパだったらどうしようかと思いましたよ! 杞憂で良かったですけど」と同行しているプレイヤーにぷんぷんとあざとく怒っている姿。
ピンク系のエプロンドレスに金色の綺麗なツインテール。腕に抱っこしているのはもふもふのロップイヤー系のうさぎさん……。
「り、リリィ!?」
そう、連れてこられたのはアルカンシエルでお店を営んでいるはずの友人NPC。リリィだったのだ。さすがにびっくりして素っ頓狂な声をあげてしまう。
「どど、どういうことですか? どうして彼女をここに? 私に用があるのだとは思いますが……」
彼女を連れてきたのはプレイヤー達だ。
ことの次第はプレイヤーのほうに訊くべきだ。
すると彼らは次々に喋り出した。
まるで言う順番が決まっていたかのように、一人が指差しして言葉を促し、それからは順々に。
「もちろん! ケイカさんのためですとも!」
「エレヤン一人だからお守りが大変なんですよね? なら人手があればいいじゃん! って配信見てる連中が掲示板で盛り上がってさ〜」
「そんな感じで話し合って、代表を安価で決めて。ついでにどうせ会うなら喜んでもらえたらいいなって俺が提案してリリィちゃんを連れてくることにしたんですよ」
「まさに突発的オフ会! エレヤンがバイトしてる間は2号ちゃんのこと、俺達に任せてくれよな!」
笑顔のプレイヤー達。そして最後に、そんな彼らに連れて来られたリリィが口を開いた。
「ということで、わたくしはお呼ばれしたのです。こっとんも一緒にね?」
配信中のコメントが妙に少なくなったなと思ったら、君達裏でそんなことをしてたの……? 私を泣かせるつもりか?
一人では確かにどうしようもなくなっていた。
いつもは聖獣達も四匹連れて歩いているが、船内ではどうしても一匹のみの縛りがあるからジンしか連れて来られない。
いつもなら、そう。いつもならアカツキやオボロが2号ちゃんを見ている間に……とできるけれど、ここではできない。他のメンバーも全員今日はいない。
そんなときに、こんなことをされたらほんとに泣いちゃう。
視聴者のみんなの好意が嬉しい。
ああ、配信者の喜びって、こんなときにも実感することができるんだなあなんて、胸の中があったかくなる。
「ありがとう、ございます……!」
「その生の笑顔が一番のお駄賃っすよ!」
「そうそう!」
「やっぱファンたるもの、役に立てるなら立ちたいよな!」
「そしてあわよくば俺の顔覚えてください!!!」
「必死すぎて草」
「フレンドになってくださいすら言えないヘタレめ……。昨日投げ銭したうちの一人は俺です!!」
「お前もフレンド申請できてないじゃねーか」
「ケイカさんのお友達って独特ですわね……」
一ミリも隠されていない願望に、私の力のない笑みも、明るい笑みに変えられてしまった。上手いなあ……。
コメントのほうも、ギリギリまで隠していたのか掲示板にいた人達が喋ってよくなったからか、数が増えてきた。いつもは私が配信で驚かせたりするほうなのに、今日は真逆だね。まあでもらそんな日があってもいいかもしれない。
みんな、ほんとすき。
だから。
「ふふ、お客様が神様ですね!」
「いいえ神はあなたです!!」
いっせいに返される言葉に吹き出しそうになってしまう。こっちは本当に神かな? と思ったから言っただけなのに!
「それじゃあ……今日一日、お手伝いしてもらってもいいですか? その、リリィも……」
「なんのために来たと思っているのですか! お友達のためですもの。一緒に働くのもまた、楽しそうだから構いませんわ!」
っくー!!
配信者やってて、よかった!!
明日はこれの裏側、掲示板回でお送りしたいと思っております。




