なにも知らない普通のお客さんとして来たかった
「ひとまず、ここがセーブできる部屋になってる。相部屋で、相手はルナテミスさんね。僕らは入ってきた時期が近いから、それぞれ監視のために同性で部屋を使うことになってる。鍵はルナテミスさんが持ってるよ」
船内に入ってから下のほうへ、下のほうへと降りていき、ようやっとユウマが立ち止まったところは複数の部屋がある場所だった。
「なあん」
「あ〜ジン……ここから別行動ですか……?」
檻の中で私を呼ぶ声に手を伸ばす。檻の中から伸ばされた肉球のあるジンの前足とタッチし、ユウマを見れば黙って頷いた。
「そんなに泣きそうな顔しないでよ。みんなでログインしてストーリー進めるときは連れてきてあげるからさ」
「うう……」
ちなみに、船内でスムーズに分かれて行動するため、私は船外でユウマに負けて弱い聖獣を取り上げられたことになっている。船内でわざと負ける試合を見せるというのも嫌だったからね。当初はわざと負けるところを見せようかって話にもなっていたけれど、支配人がなかなか顔を出さないため、やっても意味がないだろうという判断だ。
「今日のところは潜入一日目だし……潜入するときの動画編集とかもあるだろうから、配信は次からね」
「それは、まあそうですね。ウツボさん達の上で話していたチャットの内容もワイプで入れたりしたいですし、ゲーム内でパッパと編集してっていうのはちょっと難しいです」
撮った動画を垂れ流すだけならゲーム内で編集してアップすることも可能だが、残念ながら水面下で行なっている秘密の会話などもあるので、それを追加しておくための編集が必要だ。
配信なら脳内入力で字幕テロップを出すことも可能だが、録画したものにはそれができない。しっかりと編集して投稿するなら、ちゃんとリアルでやったほうがいい。
「だからまずは船の説明ね。部屋に入ってから説明しようか」
二人で寝泊まりする部屋に入る。念入りに鍵を閉めて、それからようやくユウマは肩の力を抜いたように説明し始めた。念のため誰にも聞かれないようにしたいらしい。
さて、ユウマ曰く、この船は四階に分かれていて、甲板のほうにはプールや温泉まであるとのこと。表向きは本当にただの豪華客船って感じらしい。
潜入中に撮った写真や船内マップを手に、できれば覚えておいたほうがいいよと教えてくれる。
……覚えられるかな。いや、いざとなったらマップ見るからいいんだけどさ。
ええと、四階の名称は『太陽デッキ』と言い、操舵室にプール。展望デッキやちょっとした軽食のとれるカフェ『スターラウンジ』というものがある。船内スタッフはここで働くこともできるらしい。
また、四階のどこかに支配人や、帝国の上流階級の人間の部屋があるのではないかという予測が立てられているが、そこへの潜入はまだ早計だと判断して見送っているとのこと。
この太陽デッキにシアタールームも存在し、ユウマ達は働いているうちに、ときおりここが締め切られて立ち入り禁止になっているところを見ているようだ。もしかしたら、船内の聖獣同士のバトル観戦がここで行われているのかもしれない……と。
あとは、ときおり開催される空を飛ぶ聖獣による、船の周りの決まったコースを五周する飛行レースや、泳げる聖獣による同じく船の周りを五周泳ぐ遊泳レース、地上を走る聖獣による、船上の展望デッキを五周するレースなどもここで開催されているようだ。これはプレイヤーが飛び入りで己の聖獣と共に参加できるようになっているらしい。
己の聖獣に乗ってレースに勝てば賞金が結構出るのだとか。
いいなあ。
ここが闇カジノでさえなければ普通に楽しみ来れたかもしれないのに……! アカツキとかオボロとかシズクとかシャークくんで参加したかった……! くっそ……!!
三階は『晴デッキ』という名称で、ここは全部の部屋をぶち抜いてあるかのようの大きな、だだっ広い賭博場となっているのだそうだ。ど真ん中にはリングのようなものが設置してあり、聖獣同士の『攻撃を一回当てたほうが勝ち』という形の試合形式のギャンブルもある。勝ちそうなほうにかけるやつだ。
一応小さなバーや、室内で海を鑑賞できる室内展望室。それから、休憩所の役割がある、広いリラックスルームなどもある。
ほとんど柱のないただだっ広い船内賭博場なんて、ゲームじゃないとできない施設だよね。リアルだったらもっと区切っておかないと天井が落ちてきそうだ。
この晴デッキに厨房もあるようで、ウェイターはここから飲み物や軽食を運んで営業をする、と。また、ディーラーの簡易控室みたいなものもあるみたい。ちょっとした休憩用かな?
その下の『雨デッキ』は半分以上が客室で埋まっている。
残りの部分は連れてきた聖獣用の娯楽施設みたいなものや、上の階の賭博場の軽食や、一番上のラウンジとは別に、本格的なレストランが完備。
それから、ショッピングを楽しめる区画も存在する。どうやらここでしか買えない限定商品的なものもあるらしく、そちらを楽しむ目的だけで一日潰せそうだ。
船に入る際の入り口はこの雨デッキにある。
最下層の『月デッキ』にはエンジンルームやスタッフ専用の部屋などが並んでおり、基本的にお客さんはこちらには立ち入り出来ないようになっている。つまりは現在地だ。
……が、ここにはご存知、取り上げた聖獣を入れておく檻やら、晴デッキの『一回当てたら勝ち』のバトルよりも、本格的なやつを秘密裏に行なっている場所がある。
私達はこの四階ある豪華客船の中で働きながら、少しずつ証拠を集めてぶち壊す準備をすることになるのだ。
まずは仕事をミニゲーム感覚で慣れることから始めなければならない。
「……こんな感じかな」
「なるほど、大体のことは把握しました。あとは働いているうちに覚えます」
「おっけー。なら、最初は僕が教育係だし、ディーラーやる練習でもしようか。大丈夫、最初は簡単なやつを教えるし、それをやってもらえばいいから」
「わ、分かりました!」
ディーラーか。
まあ、ミニゲーム感覚でなんとか……なる、かなあ……? なればいいなあ。
「負けても君の借金が積み上がっていくだけだし、最終的には全部踏み倒すことになるんだから問題ないない」
「倫理的にそれはいいのか悩みどころですね……?」
「へーきへーき」
「そ、そう」
まあゲームってそういうものだもんなぁ。
「じゃ、教えるから、この先のミストラウンジに行こうか」
「ミストラウンジ? さっきの説明にはなかったですよね」
「ああ……ミストラウンジは僕らスタッフが食事するところね。これは当番制で料理番が回ってきたりするから、そのときになったら頑張って」
「はーい、ジンは?」
「一緒に行こうか。ミストラウンジにはルナテミスさん達も来るはずだから、そこで偶然を装って合流してね。ストッキンさんとは知り合いでもいいよ」
「了解」
そうして、私達はまずミストラウンジに向かうために、揃ってディーラーの服に着替えて部屋を出たのだった。
ネーミングセンスがこい。




