レキお爺ちゃんと果樹の買い付けに
シズクとの演奏会で、ほんの少しばかり笛のタイミングミスが減った。延々と演奏会をしていただけ、しっかり練習になっていたようだ。この調子で完璧に演奏できるようにしたいよね!
指先の動きもだんだんマニュアル操作で慣れてきたことだし、滑らかに音を出せるようになってきた。たまに譜面をうっかり忘れてしまうことがあるので、それもなるべくなくしていこう。
別に暴食の彼に食べ物で挑んでもいいんだけども、一度負けてしまったからには次には勝ちたくなる。案外私は負けず嫌いなのだ。
「今度はレキの番ですけど、どこか行きたいところはありますか?」
「…………ふむ。市場へ……行こうか」
「市場? お買い物です?」
「ああ……そろそろ、夏の庭に……設定して……パイナップルや、トウモロコシ、それにバナナあたりを……生産しては……どうかと思ってな」
「あれ、でも今秋ですし……季節の果物じゃないですけどいいんですか?」
神獣郷内には場所ごとに季節が定まっていたりするが、気温などは基本的に現実準拠だ。リアルは秋なので神獣郷内も涼しくなっているが、ホームの庭は個人空間なので、設定さえしてしまえば季節を変えるのも自由自在。
育てたい作物があるときに設定を変えるのは良いことだが、今の庭はどの季節のものも育てられるようにレキがしてくれたので、わざわざ外から苗木を買いつけて、またイチからその苗木を品種改良するのも手間なのでは……と思ったのだ。
それに、いつも散財を控えるように言っているレキが買い付けしたいと言い出したことに疑問があったのもある。
「季節とは……真逆なものを……旬として、育てられるのが……ホームの、利点だ……需要はあるし……季節のものでない、から……高値で……取り引きできるぞ……」
「な、なるほど!? レキったらすっかり経営者ですね……」
屋敷の前で自動販売している分もあるし、夏の風物詩を秋に旬物と変わらない美味しさで売れるというのは確かに大事かもしれない。神獣郷では味が薄く感じるように設定されているが、美味しいものは味が多少薄くても美味しいのだ。
リアルで高価になった夏の食べ物をゲームの中で美味しくいただけるとすれば……ゲームだから太ることもないし、なにより苗や肥料のモデルである商品は実在するので、要するにスポンサーもついている。
苗や肥料を買って上手く育て、それを動画にして宣伝するなどすれば、他にも苗を買う人達が増える。そうやって宣伝動画を作った場合には、スポンサーから報酬としてちょっとだけゲーム内にお金が入るし、換金できるほうのお金なのでそれを換金して現実を潤すこともできる……確かにいい話かも。
「よし、じゃあのんびり苗木の買い付けに行きましょうか」
「ああ……ケイカ、抱っこを……してくれると……助かる……」
「お、レキが甘えるなんて珍しいですね。いいですよ」
「甘えているのでは……ない……ワシは……足が、遅いから」
「素直に甘えてくれてもいいんですよ。はい、抱っこ」
小さなレキを抱きかかえ、ぽんぽんと背中の部分を撫でる。
すると、彼は少しばかり俯いてからこちらを見上げた。
「……買い付けのあとは、特別な……こともせず……甲羅を……みがいてほしい……お前と……ともに、のんびり……過ごしたい」
「あらあらあら」
私の言う通りに、素直に「甘えたい」と言葉にしてきたレキに口元が緩んでしまう。可愛らしいお爺ちゃんですこと!!
「そうですね。いつも緋羽屋敷の管理、ありがとうございます。これからも頼りにしてますよ、財政大臣さん」
アカツキ達にデート行ってくるね! と手を振って屋敷から出る。
今も一人、自動即売所となっている屋敷の前にお客さんが数人固まっていた。うんうん、商売繁盛! いいことだ。
「だいじん……とは?」
「あっ、えーっと……財政管理官さん?」
そっか、この子達物知りだから普通に話すことが多いけれど、一応知らない言葉もあるんだなぁ。ちょっと目から鱗である。
私の言い直した内容で理解したのか、レキはため息を吐いた。
「お前が……我慢のできる子ならば……楽が、できるんだが……な……」
「それに関しては弁解の余地もありませんね。ごめんなさい、お爺ちゃん」
全力で目線を明後日の方向に向ける。腕の中のレキと顔を合わせることができない。いや、本当にそれについてはごめんとしか。
言い訳や弁解なんて言えるわけもなく……けれど、「これからはどうにか我慢できるように頑張るぞ」と言ったほうがいいだろうかと考えていると、腕の中から小さくくつくつと笑う声が聞こえて下を向く。
「仕方のない……子だ……」
そこには、慈愛の笑みを浮かべてこちらを見るパートナーの姿があった。
本当にこの子は……私の保護者というかなんというか……ちょっと懐かしいような、くすぐったい気持ちになる。
この反応を見ていると、ああ本当に聖獣は皆、人間のパートナーのことを心底愛しく思ってくれているんだなと実感する。なんというか……神様目線か、親目線からの「仕方ないね」と許されている感覚。
それが、なんとも心地の良いものだから。
これだから――私はこの子達のことが大好きで仕方がないのだ。
前回のやつ、掲示板で「エレヤンが珍しくエレガントしてる」感じの目撃情報が寄せられて、多分リアルで掲示板見たケイカが「なんでや!!」と一回キレてると思います。ケイカちゃん結構短気だから……。
あ、あと「しゅき」は誤字じゃなくてわざとですよ。




