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シズクと『滝壺』で水場の演奏会


 皆と遊ぶことをきめてから二回目のログイン。

 本日はシズクの番である。


 出かけようかと笑顔で手を差し伸べれば、彼女は腕を伝って定位置である首に登ってくる。性別的には女同士だ。キャッキャとアクセサリーを見て盛り上がるのもいいが……今日は。


「行きましょうか、思い出の場所に」


 爽やかな風が吹いていき、髪がすくわれるようになびく。

 森の木々は青々としていて、私達を誘うように風に木の葉を揺らしている。


 ――『王蛇の水源』に、私達は来ていた。


 はじめてシズクと会った場所。

 静かでクールな彼女とはわいわいと街中で遊び歩くのもいいけれど、こうして静かに二人でのんびりしたり、思い出を語り合うのもいいかなと思ったからだ。


 街から少し遠いとはいえ、王蛇の水源は難易度がレベル15相当と低めなため初心者さん達がたくさんいる。あの頃の王蛇の水源は、いろいろと面倒なところという認識が広まっていたから、私がボスに辿りつくまでは人をあまり見かけなかったものだ。


「あ、あれ? これどうすれば……」

「どうかしましたかー?」


 森の中を散策しながらふと目を向けると、始めたばかりらしい男の子がなにやら困っていた。ジェム・ツリーの実を取るのに、ちゃんと実を落とさないといけないと思い込んでしまっているようだ。眠そうなヒツジさんをお供にして途方に暮れている。


「あ、ああ……もしかしてベテランさんですか……て、えっ!? 配信者!?」

「あ、今は配信してないオフなので遠慮なく。ジェム・ツリーは実をわざわざ落とさなくても、実は手をかざしてメニューを呼び出せば一括でガチャることができますよ」


 いやー、私も有名になったなぁ。配信者だと分かった途端に彼は自分の顔を覆ってしまったので、顔が出るのを嫌がったのかもしれない。今はオフだから配信してないし、そんなに警戒しないでほしいなあ……ま、でも配信用のカメラって一回使ったことがないとどんな見た目しているか分からないだろうし、見分けがつかないのかもしれない。


「えっと、ありがとうございます!」

「いいえ、よき神獣郷ライフを!」


 軽めのアドバイスをしてから奥へ進む。

 シズクはなんとなく懐かしそうに森の木々を眺めながら、私の頬に頭をすり寄せてきた。みんなほっぺすりすりするの好きだよねぇ。私もみんなとするのは好きだし、私に似たのだろうか? それだったらますます可愛いのだけれど。


「お、トレントがいる」


 森の木々に混じって、目をつむってただの木に擬態しているトレント達がたまにいる。こいつらは近づきすぎない限りは目を覚まして襲って来ないので、ちょっと遠回りをしながら奥へ進む。相手をするのは正直なところ面倒だし。


 そして、ようやく戦の鳥居を通り、一度クリアしていたためにボス戦は選ばず浄化された後の滝壺へ直接訪れる。


 ここへは『清水』を採取しに来る人くらいしか来ないから、やはり人は少ない。今回に限っては貸切り状態だった。


「シズク、懐かしいですか?」

「しゅ……」


 滝壺の近くまで歩み寄って、水に一番高い岩に腰掛ける。それから、手を水辺に向かって差し出せば、彼女はまたするすると腕を伝って水の中にトプンと入っていく。気持ちよさそうに泳ぐ姿に、思わず私は微笑む。


 ここで悲しくて、苦しくて泣いていた王蛇は今や、水面の下を泳ぐ金色の優雅な龍王となって帰ってきた。


 憎しみに飲み込まれていた子はもういない。


「シズク、今幸せですか?」


 水中に向かって言葉を投げかけると、急にぴゅっと水がかけられて驚く。顔と髪がびしょ濡れになってしまったが、そんな私を見てシズクはどこか笑っているかのように水中でくるくると回る。


 ……彼女はたまにお茶目だ。そこが可愛らしいんだけども。


 ただ、その行動に先程の答えの全てが詰まっている気がした。感傷に浸っていないで遊べ! そういうことなんじゃないだろうか。これは、たとえこの場にレキがいたとしても翻訳してもらわなくていい。そんなことをするのは、無粋だ。ただシズクのありのままの姿を受け止めよう。


「どうせなら、ここで龍笛の練習でもしましょうか。ちょうど素敵な龍もいることですし?」

「シャア!」

「あっはは、意外とシズクって自分に自信満々ですよね! 素敵な龍って言われてドヤ顔しちゃう君がしゅき」

「シャッ!」


 彼女は「なにを当たり前のことを言っているのかしら」と言いたげに胸を張る。そういうとこやぞ。大好き。


 やはり、今日のデートは思い出の滝壺のそばでずっと過ごすことにしよう。


「私が龍笛を吹くので、シズクは一緒に踊ってくださいますか?」

「シャルルッ!」


 返事を聞いて立ち上がる。シズクも水の中に再び潜っていく。

 それから――延々と龍笛で楽曲を奏でる舞姫と、水の中で舞い踊る黄金の鱗を持つ龍のひっそりとした演奏会を開演した。


 こうして……静かで、穏やかで、雅やかな時間はあっという間に過ぎていくのだった。


そろそろコミカライズのほうでもシズクとの初対面の話になりますね。

漫画のネームを見て懐かしくなったので、本日はシズクと思い出の場所で穏やかなデートという形にしてみました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です! 初心者には優しく、これ鉄則! そして、思い出の地、、、ここからいろんな絆が繋がりましたね、、、 あ~、、、尊い、かわいい、綺麗、、、 ただしエレヤンとする(大事 更新お待…
[良い点] シズクとの雅な時間♪優雅な光景ですね♪  …これを続ければエレガントなのですけど(-"-)
[一言] 掲示板で久しぶりに本当のエレガント(高貴)な姿を見せたぞ!って言われそう
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