NPCにはマニュアル操作で教えてあげましょう、喜びます
神獣郷オンラインの『スキル』はレベルが5まで上がるが、その実低レベルな状態をリアル技能で埋め合わせることも可能である。
ゲーム的な処理でパパッとスキルを扱うオート機能を使うのが普通のやりかただが、システムでこれをマニュアル操作に設定することができるのだ。要するに、リアル技能を活躍させることもできる。
レベルが低い状態でオートを使っても、成功率や霊術などの威力、範囲指定などレベルが上がらなければ安定しない部分はそれ相応の成果にしかならない。
しかし、マニュアル操作ならば極論、レベル1の状態でもしっかりとした手順を踏んだり、正規の方法を取ることでそのレベル以上の成果をもたらすことができるのだ。そして、マニュアル操作で成功させたほうが早くスキルレベルも上がりやすい。
そしてだ、赤の他人にスキルを授ける『ビットアイテム』なしでスキルを習得させるというのは存外難しいものなのだということを実感させられた。
「ま、待ってください。えっとお米の炊き方……炊き方……釜はあるのに使ったことがないとかありえないですよ。いやでも私だって家庭科の授業でぐらいしかお釜で炊いたことなんて……」
「あー、なんだ。ケイカ姉ちゃん、無理して教えてくれなくてもいいんだぜ?」
「いいんです。君はお米の素晴らしさを知るべきなんですから! 悩んでいますけどこれは楽しい悩みなんです!」
私の大声が響き渡り、あっと思って口を塞ぐ。
夜です、現在。
ご近所迷惑、ダメ絶対。
……ご近所? うん、ご近所だ。間違いではない。多分。お隣さんが崖の上とかだけれども!
私が熱弁する傍ら、アカツキが我関せずで生米をつついて、つまみ食いならぬつつき食いをしていた。なお、他の子は生米状態だと食べられないらしくて困惑している。鳥って穀物食べるからね……。
シズクはさっきの焼き魚をもそもそと身をほぐしながら食べ進めている。結局一匹だけ出された果物類を食べなかったので、お腹が空いていたようだ。レキは遊びたい盛りのジンを相手に、ツタを猫じゃらしがわりにして遊んでやっている。
どうですこの二匹の可愛らしさ! これが! 私のお爺ちゃんと孫です!! 可愛いでしょう!! そうでしょう!! どやさぁ……。
『ドヤ顔が見える』
『親バカかな?』
『あっ、今すごく得意げになってるでしょ』
だいたい合ってる。
というか的確すぎない?テロップも出てないのに……我が視聴者、末恐ろしい。エスパーかなにかか?
『これはいったい……うごごご』
『なにやってるんだwww』
『はいつー』
おっと、今から見に来た視聴者さんにはわけが分からない状況ですね?
はい、『配信乙』ありがとうございまーす! もしや深夜になってインする人が増えたかな? 配信見てないでご自分の攻略を進められたほうがいいのでは?
『身も蓋もないことを言わないでwww』
『んなこと言ってたら視聴者減るわw俺はそういうの好きだからいいんだけどさwww』
『出、出ー! 後方古参面奴ー!!』
『??? いつからこのチャンネルはお料理教室配信枠になったの???』
うん、分からないですよね。じゃあ経緯をさらっと説明しちゃいましょうか。
さて、なんでこんなことになっているのかというと……まあ、端的に言えばアリカ君含めて天楽の子達がつやつやの白米すら食べたことがないとか言うから……言うから……もう、お米食べろ!!! ってなるしかないじゃないですか?
お米……それは日本人の美徳……麦もいいぞ。
と、それはともかくとして、私がこうしてアリカ君にマニュアルで料理を教えているのは、彼に料理スキルを習得してもらうためなわけですよ。
もちろんビットアイテムさえあればお手軽にスキル習得は可能ですが、相手がNPCなものですからね……。
『NPCは〝そう〟と定められているから、能動的にスキルを増やしたりはしない』
とまあ、そういうことです。親切な人が解説してくださっていますね。NPCはそうあれとゲーム的に決められていますから、そこから逸脱したことは自分から行おうとはしないんですよね。つまりビットアイテムを持っていても使いたがりません。でも直接教えるほうには興味を持たせることが可能です。
要するに、NPCに新たなスキルを仕込みたい場合は、こうしてマニュアル操作で手本を見せて教えるしかないのです。
ビットでもできないわけではないですが、ほぼ望み薄で確率が低いといいますか……ともかく、高価なアイテムを使っても成功率が低く、貴重なアイテムを失うくらいなら教える手間をかけたほうがお得というわけですね。
ただ、技術的な料理スキルやら裁縫スキルならともかくとして、火を点けるなどの霊術スキルは見様見真似でできるものではないらしいのでビットを使うしかなかった。
手本を見せて覚えさせることができるのは、基本的に器用値が判定に関わるスキルに多い。
「お、お米についてはちょっと次、夢の旅に行ったときに練習してきます。やっぱり今日は焼くだけにしておきましょう」
「おう!」
今ある食材系を片っぱしから焼くか……。こんがり焼いた肉はどんなゲームでも大事だ。よくある骨に丸く肉がくっついた謎肉を囲炉裏の灰に刺して焼く。なんか色々と間違っている気がするが気にしてはいけない。
たまにこの謎肉が畑に実っているようなゲームもあるのだから、細かいことをゲームで気にし出したら負けだ。そういうことにしておこう。
あとはサラダの作りかた。せめて野菜……なんて贅沢は言わないから、植物系のやつは一口サイズに千切っておかないと。あとは果物を切ったりとか。
リンゴの皮をひとつに繋いで剥いていく『かつらむき』をする要領で、ちょっとした飾り切りのパフォーマンスを見せれば「すげェ! すげェ!」と目をキラッキラ、シャランラシャンラと輝かせたアリカ君が真似をしたがり、彼のモチベを上手く上げつつ教え込んでいくことに成功する。ナイフ(本来は武器)の扱いも心なしか上手くなった気がするね!
ふふっ、なんだか異世界で料理チートしている気分になってくる。私、家庭科の授業と家事手伝いの範囲くらいしかできないのにね。でも教えるとさくさく覚えてできるようになってくれるからちょっと楽しい。私もここまですごいすごいと言ってくれると嬉しいし、リアルでちゃんと調べて教えてあげたいなとこちらのモチベーションも鰻登りだ。弟属性……素晴らしきかな。
「でもここまでしてくれて悪ぃな」
「いいんですよ? こちらも知りたいことを教えてもらってますし。まだまだ質問もあります」
「でも、それだって俺の頼みのために必要なだけじゃねェか」
「んー、確かにそうですが、アリカ君に私が協力したいと思ってやっているんですから、やっぱりいいんですよ」
「そうか……?」
パチパチと火がはじける。あ、一個焦げた。やっば。ええい、少しぐらい焦げてても食べられるならなんでもいいんだ! デバフさえつかなければね! 聖獣達には食べさせられないから私が犠牲になることになるけれど!
「んじゃ、これが終わったら俺があんたのために上等な布を作ってやるよ。これでも、機織りは得意なんだぜ! 期待してくんな!」
「……」
一瞬の沈黙。
「機織り、できるんですね」
「そりゃ鶴だからな」
鶴だから? え? 鶴ってなんだっけ……。
「鶴の恩返し……」
『鶴の恩返しじゃん』
怒涛のコメント。
そのとき、私とコメント一覧の気持ちはひとつになっていたと言っても過言ではない。
『アリカ君が作った布で装備の強化をしたら、さらに良いものに仕上がりそうですねぇ』
訂正。
一人だけ、珍しく真面目に生産職としての顔を見せたエセ紳士が出現していた。
「それじゃあ、お願いしたいですね。正体を知っていても、二度と会えないなんてことはないでしょう?」
「そりゃあな!」
にぱっと笑ってアリカ君が言う。
「姉ちゃんはもう、友達だから! 会えなくなったら俺が寂しい思いするだけだぜ! 俺から去ることはねェさ!」
仰げば尊し。
私から去ったらその限りではないという、若干の闇を感じさせる発言でもあるがそんなことよりも尊い。可愛い。ここにも通いつめよう、そうしよう。
突然突っ伏した私を慣れた様子でつっつき回すアカツキは、ちょっと怒っているみたいだった。




