アリカとカナタの関係
「で、火を使ってですね……」
「火ぃ!? 俺達に火は怖ェよ!」
「大丈夫、大丈夫。霊術使えばいいですから」
予想はしていたけれど、まず火を使うことを覚えることからというね……。
霊術の小さな火起こし自体はできるようなので、その火を料理に利用することを教えていく。まずは簡単な焼き魚からだ。とりあえず焼ければ美味しいんだから。
あと調味料セット。人間の街に行くことができるんだから、そこで調味料セットを買って補充すればいいわけだし、見た目を覚えてもらう。せめて塩胡椒とお砂糖くらいは……。
「そうそう、これやっているうちに訊きたいことがあるんですよ」
「熱ぃ……なんだ?」
「カナタ君についてですね」
「あいつについてか、分かった。どんなことが聴きたいんだ?」
ひとまず内臓を取るとかそういう工程はなしだ。シンプルに焼こう。大丈夫、料理スキルはあるから焼き加減を視界に表示されたゲージで見ながら調整するだけでいい。アリカ君には見て覚えてもらえばいいんだ。中までしっかり焼けるように串で魚の口から刺して……囲炉裏の周りに刺す。
……なんで囲炉裏があるのに火が使えないの???
「……ええと、まず先に。囲炉裏があるのになぜ火を使わないのかという疑問が浮かんできちゃったのでそちらから訊いてもいいですか?」
「あー……囲炉裏ってなんだぃ?」
「これのことです」
「ああ、里の建築物とかは全部人間の真似して作ってるもんだから、詳しくは知らねェんだよなぁ」
なるほどね。
なるほどね……。これはお米を炊いて食べるとかの工程を覚えるのに相当時間がかかるな? いっそのこと情報開示してプレイヤー総出で開拓したほうがいいんじゃないかと思い始めた。いやいやいや、でも隠しシナリオはどうせならソロでやりたいじゃん?
迷いが生じたものの、いったんそれを横に置いて本題に入る。
「単純にカナタ君の身体的特徴とか、あと普段なにをしていたかとか教えて欲しいんですよね」
「カナタは珍しい毛色の奴だったぜ。俺らと違って真っ黒い鶴だったんだ。ただ、まあ赤い毛色の部分とかは変わんねェから、白い部分が黒くて、黒い部分が白かったって言や分かるかぃ?」
カナタ君は色違い聖獣だったと。ふむ。この世界に色違いの概念とかあるんだろうか? それとも、単に特殊NPCだからか?
『明確な色違い現象はまだ確認されてないね』
『色違いかと思ったら別種だったとか、進化してただけとか、そういう報告ばかりですね』
考えながらチラッとコメントを確認すると、回答してくれている人が多数。
なら、仮説を立てるなら『カナタが特殊NPCだから特別に色彩亜種になっている』といったところかな。黒い鶴ね。格好いいじゃない。
「黒……それは、髪も?」
「そうだぜ」
『髪……?』
『毛でしょ』
『いやそもそも毛じゃなくて羽根では』
私が尋ねたのは擬態の姿のほうだ。
しかし視聴者はその辺のことをまだ知らない。この情報はまだ明かすわけにはいかないので伏せる。テロップにもならないように意識しながら。
擬態で人間の姿になれることが判明してしまったら、見破って里に来る人が増える。そうなればアリカ君のシナリオに関わろうとしてくる人がいるかもしれない。
里の住民自体のちょっとした依頼とかなら別に看過してもいいのだけれど、メインシナリオと思しきこのシナリオはできればソロで完遂したい。邪魔は入らないのが一番だ。配信者として協力プレイすることもときには必要だろうが、私はほとんどソロでやってきた。一人のエンターテイナーとして、それを貫くべきだと私は思っている。それに、難しいストーリーをソロクリアしたほうが格好いいし?
「黒い鶴ってことは分かりました。他になにか特徴などはありますか?」
「特徴ねェ……俺より背ェ高いけど、あいつのほうが子供っぽい性格してるとか、あとは……俺らはあんまり好きじゃねェのに、あいつだけ肉が好きだったとか?」
それは……とんでもないギャップ萌えの塊だね?
アリカ君より背が高いとなると180は絶対にあるな。でっかい鶴だなあ。威圧感ありそうなのに、子供っぽいということは可愛いのか。なにそれ属性盛りすぎでしょずるい。
「君達はお肉が好きじゃないんですか?」
「だいたいのやつらは草食主義だなぁ。ほら、血が滴ってるし生臭いから肉食っても美味くはないんだよ。魚も苦手なやつもいる。基本的に果物食って、んで栄養が足りないときに肉とか魚を食う感じ」
ああ、そりゃ美味しいわけがないよ。火、通してないもの。生肉食べててよくお腹壊さないな……。
「お肉の美味しい食べかたも教えますね」
「あれ、美味くできんの!?」
「焼かないと美味しくないですよ」
「まじか……」
しかし、カナタ君のほうはつまり、生肉食べるのが好きだったってことになるよね? 随分とワイルドな子だ。
「あとは、俺の弟分みたいな感じだった、かねェ。妙にみんなと反発し合うから、俺が一緒にいてフォローに回ったり、一羽でいたがるから絡みにいったり。んで、俺が里の外に脱走してると追いかけてきて捕まえようとしてきたりな」
面倒見られているのはアリカ君のほうでは? ケイカは訝しんだ。
「仲が良かったんですね」
「もちろんだぜ。親友だからなぁ」
でも、今の話で少し予想がついた。なぜカナタ君がいなくなってしまったのか。彼は多分攫われたのは確定している。なら、なぜ攫われたのか?
しかし、これをアリカ君に言うわけにはいかない。彼が落ち込むことは明らかだからだ。
運命の夜。カナタ君がいなくなった夜もアリカ君は里の外に出ていた。
カナタ君がいつもアリカ君を連れ戻していたというのなら、彼もまた外に出ることになったはず。そのときに、きっと攫われたんだ。
アリカ君は運が良かっただけ。
端的に言えばアリカ君が外に出なければカナタ君が攫われることもなかっただろう。
でも、親友を心配するこの子に、そんなことは口が裂けても言えなかった。
動揺していたのか、見本として焼いていたのに焼き魚をちょっと焦がした。
その後、アリカに料理スキルを取得させるために黙々と焼き魚を作り続けさせつつ思い悩むケイカの姿があったとかなんとか。




