学校でゲームのことを考えるのは誰でもあるあるだよね?
カリカリカリ。
シャーペンを静かに動かしながら黙々と板書を続けていく。学校が始まってからは一日のほとんどを神獣郷に捧げることができなくなってしまった。まあそれはそれでいいのだが、授業中もついつい今後のことを考えてしまうのがいけない。
それにしても電子黒板に映されるものを、わざわざノートに板書しなければいけないのは面倒だ。普通に電子ノート使える学校のほうが多いのに、この現代文の先生だけは生徒に紙のノートで板書をさせる。
曰く、自分で書かないと漢字を覚えて咄嗟のときに書けなくなってしまうからだとか。まあ、スマホの予測変換とかに頼っているといざというときに自分で書けないのは正しい。理屈はね? 理屈は分かるんだけどさあ……。
紙のノートの端っこにペンを走らせる。
デフォルメされた四つ目のツルの落書き。胸の前で合わせた翼のところにアップルパイを持たせてから周りにセリフの枠を描いて、中に「うまーい!」の文字を入れた。簡単アリカ君の完成!
口元を緩めてそれを眺める。あの子、弟ができたみたいで可愛いんだよなあ。
今夜の10時にアリカ君と待ち合わせをしているので、それまでに夕飯とお風呂と寝る準備を全て終わらせてゲームの中にダイブしなければ。ああ、楽しみ!
聖獣達は私がログアウトしていると寝てしまうので、今緋羽屋敷にアリカ君は一人きり。いや、一羽きり? 寂しい思いをさせてしまうのは少し忍びないので早く迎えに行きたい。私より背が高いくせに本当に弟属性極まっている。ヨシヨシしたい。
「藤白さん、次読んで」
「はーい」
タブレットをスライドして現代文のページに移動する。先程まで掲示板と攻略まとめをこっそりと見ながらやっていたので、ちょっと慌ただしい。ちゃんとみんなの音読は聞いていたのでどのページかは把握している。
現代人は二つ、三つくらいの作業と把握をマルチでできないとゲームで有利に立ち回れないからね。ガチゲーマーとかは頭のいい人も多い。平行思考ができるのがデフォだ。私はまだ三つまでが限界だけど、いずれはもっとできるようになりたいなあ。
「藤白、音声読み上げソフトで誤魔化すな」
「ごめんなさーい」
自分の声を読み込んで違和感なくボイスを組み上げるアプリを使ったのがバレる。おっかしいなあ、現文の先生電子系のことは苦手だから今までは読み上げソフト使って口パクするだけで騙されていてくれたのに。
軽くタブレットをいじってホログラム教科書に切り替え。
もう一個の端末のほうで文字を追いながら、ホログラムのほうで進行される物語も眺める。
現代の解釈を用いた映像の周りに文字がくるくると回って、読み上げていくタイミングで漫画かアニメのように物語が進んでいくのだ。
この浮かんだ文字を読む猛者もたまにいるが、漫画並みに省略されているので別端末でしっかりと文字を追わないとたまに描写を飛ばしてしまうことがある。それだと叱られるので同時進行だ。
ただ読むだけでもいいのだが、どうせなら映像で見たいし。
「そこまでで結構。次、八月一日」
「はい」
行き過ぎた科学は魔法とそう変わりはしないとは誰が言ったことだったか……。幼馴染の遊馬は手元で映像を切り替えながら暗誦で物語を読み上げていく。まるで魔法の詠唱みたい。言葉が紡がれるごとに映像がくるくる変わる。あれ、手動で演出も加えているな。よく手元を見ずにあんなことできるなあ……あれくらいできないと『あり鯖』でやっていけないのだろうか?
私がやったのはあくまで自動で流れる教科書映像に合わせて喋るだけである。遊馬がやっているのは、そこに手動で次々とプログラミングしながら演出を加えたりアニメ映像を進行させたりする行為。しかも物語の内容全部暗誦。意味が分からない。いくら現代文が一番得意だと言ってもさあ……。
一ページ分全て暗誦した遊馬が座る。
そして、それと同時にタブレットが少し震えた。遊馬からメッセージが飛んできているらしい。後ろの席なんだから直接言えばいいのに……。
「京華、さすがに音声読み上げはない」
げっ、お説教ですか。
眉を寄せてさらさらっとメッセージを返す。
「うっ、いやでも今まで先生気づいてなかったじゃん。いつも手元見てるしさ」
「僕がこの前言ったから注意するようになったんじゃない?」
「君のせいか!」
「楽するほうが悪い」
「ド正論!!」
これはぐうの音も出ない。
「それより、ツブヤイターでメインシナリオがどうとか言ってたけど、もしかしてなにか見つけた?」
みんなの音読を聞き流しながら少しだけテンションを上げる。そうそう、聞いてくれる? 聞いてくれるね? 神獣郷仲間だもんね? 自慢しよっ。
「実は隠れ里関連の、明らかにメインなシナリオに遭遇したんだよね! どうだ羨ましいだろう!」
「はいはい、配信するの?」
「受け流されると悲しいんだけど。するよ! ただ、契約の関係で隠れ里への入りかたは配信NG。里に入ってからの配信になるよ」
「君のドヤ顔は配信で見慣れてるからね。そっか、なら楽しみにしてる。ちゃんと告知するんだよ?」
先生も遊馬に忠告されたわりに、サイレントメッセージのやりとりには全然気づかないんだから……アナログな人だなあ。まあ好き勝手できるから楽でいいんだけど。こうして自分のやってることを鑑みると、結構な悪い生徒である。
「今日のところは里入りしてセーブポイント作るまでかな。それから行動することになるだろうから、告知は里の中で行動を始める前にしておく」
「分かった。次は数学だから真面目にやるように。苦手でしょ?」
「はいはい」
「はいは一回」
「はーい」
「伸ばさない」
「君は私のお母さんかなにかなの???」
「幼馴染です」
軽いやりとりを終えた辺りでお馴染みのチャイムが鳴る。少しの間休み時間だ。その間に教室を移動しないと。
なんで移動なんかがあるんだ……数学のできるクラスと普通のクラス、できないクラスの三つで分かれるからなんだろうが、同じ教室内でタブレットに別々の内容表示すればいいだけなのに。
そもそも家で授業受けられるようになればいいのに。
VR学校とかできないかなー。
そんなことを考えながら、学校を終えるまで過ごしたのであった。
帰り道はリニアに乗ってるとき以外ダッシュです!
無駄に凝る未来描写。
せっかくのVRジャンルだもの!




