消えた親友と、消えたみんなの記憶
契約書をざっと見る。配信系の注意事項が必ずあるはずだからね。だって他言無用ということはそういうことでしょ?
「……なるほど」
あった。配信に関しては隠れ里に入る方法を映すのがNG。里に入った後に配信開始するのならOK。もし、入るところを映そうとしたらその画像や動画は意図的にバグることになる……と。それと厳重注意一回分。
肝心なところのネタバレ徹底回避が望まれるわけだ。ただし、ユニークシナリオのほうは映像化推奨らしい。ツルの個体それぞれにユニークシナリオがついて回るため、メイン級のシナリオに当たれるかどうかは運次第。たとえ誰かにメイン級のシナリオを取られてしまったとしても、相変わらず追憶機能でシナリオ自体を体験することは可能。
「いいかぃ?」
「ええ、構いませんよ」
まあサインするのは決定事項だったけどね! まだ配信開始できないのでアリカ君を見つめる。
「じゃあ、驚かないでくれよ……」
そして、アリカ君は額を覆うように巻いたバンダナをそっと外した。
「……これはなかなか」
「気持ち悪いかい……?」
アリカ君がしゅんと落ち込むので「いえ、びっくりしただけですよ」と宥める。彼の額には黄金色の目玉が後二つ、ギョロリと嵌っていた。月をそのまま嵌め込んだような美しさを持つ瞳だ。でもさすがに人間の見た目で四つの目玉が動いているのを見るのはちょっと、こう、違和感がすごい。見た目と威圧感がものすごいんだけど、まあそのうち慣れるだろう。
「やはり、君は昨夜のツルですね?」
「あっちゃ、バレてたかぁ」
いや見た目で分かるし。わりとその擬態ガバガバだと思うよ。せめて色合いだけでも変えていればツルだって分かりにくいのに。さすがに本人にそんなこと言わないけども!
「さしずめ鶴の恩返しと言ったところですか。いえ、この場合は別に恩を返されているわけではありませんね」
「助けてもらったのに面倒なこと頼んですまねぇ」
「あっ、そんなに落ち込まないでください! こちらも好きでやってるわけですから! もちろん誰にも話しません!」
「そうかぃ? なら、いいんだが」
好奇心旺盛で行動力はあるようだが、どうやら言葉をそのままに鵜呑みにしてしまいやすいらしい。素直とも言う。ネガティヴというか、若干自己評価が低い部類なのかもしれない。毒気はないのだが、素直な分こちらの言動で浮き沈みが激しい。なんともまあ、面倒くさい子だ。いい意味で。
まるで本物の人間を相手しているようだ。さすがすぎる。面倒くさい代わりにかなりの数萌えポイントが転がっているので、本当に推せる子だと思う。
私、神獣郷箱推しになるぅ……。
「あの……霧属性の幻覚で擬態しているんですよね? 昨日は鳴き声しか聞けませんでしたが、言語はどのように……?」
「ああ、それかぃ。それなら元々話せるぜ! ごめんな、喋れる相手だと遠慮する輩はいるが、か弱い喋れもしない、口なしの聖獣相手にすると豹変するような奴がいるからさぁ。ちっと試させてもらった」
やっぱりそうか。試し行動で正解だったらしい。私の推測も結構当てになるものだな。ちょっと嬉しくなりつつ、話を進める。
「それで、人探しとは?」
飽きてきたらしいジンが庭に駆けていく。うーん、最近はこういうのばっかりで申し訳なくなる。みんな平和なのは嬉しいようだが、体力が有り余っている。運動もしなくちゃね。里に行ったら少し頑張るか。私はもう少しでカンストになるし。ジンはもうすぐレベル60到達かな。進化……うん。まあ、進化のタイミングはいつになっても仕方ない。
「ある日突然、俺の親友が消えちまったんだ。夜の間だった。俺はそのとき人間の街に来ていて事情は知らねぇが、その一晩の間に里の連中は全員親友についてをぜーんぶ忘れちまってた。まるで最初からいなかったみたいにさ。何度も何度も話したんだが、俺のほうが狂っちまったんじゃないかって言われるくらいで……誰も信じちゃくれねぇ」
「一晩で……」
それは、なんともまあ……重い話だ。
自分だけ覚えているのに、他は誰一人覚えていないなんて。
「もう、頼れるのは外の人間だけなんだよ! お願いだ、俺の親友を探すのを手伝ってくれ! もう嫌なんだよ……このままだと、いつか、俺も忘れちまいそうで、怖いんだ」
快活な瞳に一滴怯えを滲ませてアリカ君が言う。
最初から言っているが、私に「NO」の選択肢はない。
「分かりました、協力します。もう大丈夫ですよ。たった一羽で、怖かったですね」
パッとアリカ君を抱き寄せて背中をぽんぽん叩く。わあすごい、感触まで普通の人間と一緒だ。ツルを抱きしめているだなんて分からない。見た目の色以外の擬態は完璧だ。
「信じ、て……くれなくて、ずっと、怖かったんだ。本当に、俺が、狂っちまったんじゃないかって、なんども……不安になった……!」
「勇気を出して相談してくれてありがとうございます。よく、頑張りましたね」
泣いている。体はおっきいけれど、この子の心はひどく幼い。
えぐえぐ泣くアリカ君をよしよしと宥め、私は尋ねる。
「それで、お友達のお名前は?」
「ひぐ……あいつの、なま、え……は……」
彼が紡ぐ名前は『カナタ』。
アリカと、カナタ。
在処と彼方。
「分かりました、一緒に探しましょう。もう少しだけ、頑張れますか?」
「うっんっ!」
しゃくりをあげて泣きながら元気よく頷くアリカ君。「うん」て! かっわいいな!? そっちが素か?
そして、彼にぎゅうぎゅうされながら私は空を仰いだ。
――これ、メインシナリオじゃね?
ポンコツ同士で大丈夫か???
契約違反しようとすると映像や画像がバグる。
>>システム内に潜んでいる管理AIマザーがもぐもぐ食べます。




