ハサミの断頭台と不意打ちの復讐
サタソ様はドラゴンの翼のようなマントを揺らめかせ、常に金色の大鋏で首の一点狙い。首狩り族かなにかかな?
ユウマは中距離から遠距離を保ち、使える分のアイテムを余すことなく使っている。ただしアイテムの個数制限があるため、爆薬瓶を使うのは完全にサタソ様の体勢が崩れているときだけだ。それ以外は細かい霊術で爆発を起こし、ときに剣を使って攻撃に走る。アイテムを爆薬だけに絞っているうえ、回復アイテム禁止のルールでSPの回復もできないためSPコストの高すぎる『メテオ』を連発するわけにはいかないのだろう。
もう何度目かの攻防。
金色のハサミを剣が弾き、力で押されたユウマがたたらを踏むように後退する。
しかし、今度は違った。
サタソ様は両手で操っていたハサミを、弾かれたそのすぐ後に左手だけで持ち、バランスを崩したユウマの剣を思い切り弾き飛ばした。
くるくると回ってユウマの手から離れた剣は遠くの地面に突き刺さる。
視線でそれを追っていたユウマは、慌てたようにその場にしゃがむ。その上を、容赦なく大きな刃を交差させたハサミの攻撃が通り、『ジャキン』という重い音が響いた。
髪の毛の先が切り裂かれ、黒いポリゴンとなって消える。
一撃必殺狙いの相手ではあるが、じりじりと、じわじわと躱しきれない攻撃に当たりながらユウマも追い詰められていく。
サタソ様も爆薬と爆風でいくらかダメージを受けていて、体力はもう半分を切っているというのに楽しそうな笑みを崩さない。
観戦席であるここなら二人の体力がどれほどかを可視化することができるが、今お互いに彼らには見えないはずである。自身の体力を見ることはできても、大型イベントでもない限り敵の体力は表示されない。
だから二人とも、終わりの見えない攻防をしているようなものだ。
ここに聖獣がもっといれば混戦のようになったのだろうが、聖獣一匹だけのルールだと一対一が二箇所で繰り広げられることとなる。
スレイプニルは相変わらず鳴き声ひとつあげもせずに雷を纏って突進したり、ケルベロスやサタソ様に向けて電撃を放つ。
しかし、そのどれもが避けられたり、またはあらぬ方向に逸れていってしまったり、ミスも目立つ。もしかしたら焦りが行動に出るタイプなのかもしれない。ユウマの初期聖獣だったのだから、この前のイベントでブレイブハートシステムに適合済みだろうし、性格や個性が明確にあるはずだ。
ときおり炎を放つこともあるが、ケルベロスがその炎をぱくりと食べてしまうので実質雷しか有効打はない。しかし、その雷もあまりケルベロスには効かない。ならばと人間を狙えば、必ずケルベロスの邪魔が入る。
「なんで一撃にこだわるの?」
「っのほうがロマンがあるからだろうが!」
「ロールプレイガチ勢なんだね」
「俺様は俺様だっつの!」
「ちょっと痛くない?」
「うるっせーわ!!」
ハサミをギリギリで躱しながらも、ユウマは相手を煽ることも忘れていない。
しかしサタソ様も配信者だからか、『いじられ』ることには多分慣れているんだろう。キリリと垂れ目を押し上げ、ギザギザの歯を覗かせて笑ったまま冷静にユウマを追い詰めていく。
次第にユウマはフィールドの端のほうに追い詰められていた。だが、その場所にはユウマの弾かれた剣が刺さっている。彼はさっと剣に向けて手を伸ばすが、すかさずサタソ様が斬り込みその腕を引っ込めようとする。
そして、サタソ様が狙いを変える。彼に武器を手にさせないようにか、再びその剣の側面を叩いて吹っ飛ばそうとしたときのことだ。
――剣から夥しい量の電撃が溢れ出た。
「はあ!?」
剣は、スレイプニルが外した電撃の向かう場所だった。
観戦をしている側は、外れた電撃が意図的に剣へ放たれている場面が見えていたわけだが、まさかそんな機能が剣にあるとは思っていなかった。電撃を吸収し、そして敵が来たときに一気に放出。そんな機能を付けることができるのだなと感心する。特にユウマの防具や武器は自作のはずだ。
「ッチ」
予想外のことだったのか、サタソ様はまともに電撃を受けて一瞬動きに迷いが出る。そこをユウマが至近距離で爆薬を投げつけたが、彼はすぐさま意識を切り替えたようにして、更に踏み込んだ。
爆発はまともに受けるだろう。しかし、ゼロ距離で爆薬を押しつけてきたユウマの腕がすぐそばにあった。左の片手だけで操られたハサミの刃がバツンと閉じる。ユウマの右腕が肩の辺りから斬り落とされてポリゴンとなって消える。
肩口の辺りはポリゴンで覆われて傷口が見えないようになっており、ユウマは体勢を崩すことも厭わず無理な状況でバックステップ。
しかし、やはり無理な体勢で後退したので足元が崩れ彼は尻餅を突くように倒れ込んだ。
体力が残りわずかになったサタソ様がそのままハサミを振り下ろそうとする。
それを見てスレイプニルが慌てたように背中を見せたことで、ケルベロスはチャンスとばかりにその体に左右と真ん中の首三つで食らいつき、そのまま噛みちぎって体力を削り切った。
ユウマに届かない場所でスレイプニルがその命を散らす。
バーチャルの中の、更にバーチャルな夢だと分かっていても心が痛んだ。
やはり、スレイプニルはひと声も鳴かなかったが。
ユウマの首に大ハサミがかかり、いよいよ勢いよく閉じる。
思わず目をつむった。
けれど……目をつむった暗闇の中で、鈍い音を立てて痛そうな、なにか柔らかいものを貫いたような音がして目を開く。ハサミでジャキリと切った音ではなかったからだ。
「お疲れさん、あうん。この僕に苦しみを与えた外道に、それ以上の罰を」
ハサミが閉じ切る寸前の状態。
その状態で、サタソ様の心臓部から真っ黒ななにかが生えていた。
いや、あれは違う。
サタソ様が視線を真後ろに向ける。
そこには、影の中に半分沈んだ真っ黒な九尾狐がいた。
彼の心臓部を貫いたのは、その影九尾の太い一本の尻尾であるようだった。
「チェック」
残り八本の尻尾がざわりと蠢き、四本が背後のケルベロスに向かい、残り三本がサタソ様に追い討ちをかけるようにして向かう。
「ハッ、このゲームに痛みが実装されてなくてよかったわ。じゃなきゃ負けてた」
心臓を貫かれていた衝撃で止まっていた手が、ピクリと動く。そしてよりいっそう楽しそうに笑った彼は己の体力が尽きる寸前に、その金色の断頭台に力を込めた。
ジャキン。
ハサミが閉じるのと、三本の尾がサタソ様の体を穴だらけにするのは同時だった。
二人同時に真っ赤なポリゴンとなって消えると、影九尾のあうんとケルベロスも消滅する。
自然と、詰めていた息を吐いた。
『勝負有り。引き分けです』
アナウンスでスレイプニルと影九尾の二匹いたことについては触れられない
……つまり、ルール違反はしていない。ということは、あのスレイプニルは『あうん』が化けた姿だったのか。確か、神社の稲荷像と同じように一対で一匹の聖獣だったはず。倒されたスレイプニルは分身で、最初からあうんの本体はサタソ様の影の中に潜むことを目的としていた……と。そんなところだろうか。
しかし、引き分けか……あの人うるさそうだなあ。
そんなことを思いつつ、私はユウマへ対人戦を見た感想を言うため、観戦席から退出するのであった。
スレイプニルは雷属性なのに、風属性攻撃が効いていない。
→本当は太陽属性持っているあうんなので抜群にならない。
影九尾のあうん
→仲間の一匹を選んで化けることができる。見た目は完璧に化けられるが、スキルなどは自分のものしか使えず、声も元のままなので誤魔化すことができない。姿は攻撃を受けても戻らないが、任意で解除できる。幻覚ではなく完全にその姿に化けているため、解除していないと尻尾のこうげきができないためである。
サタソ様
→ユウマとは初対面。お互いに噂だけは知ってる。でもユウマのほうは動画見て研究しているので、彼が『脳筋』で『死んで覚えて攻略チャートを練る』タイプだと知っている。最終的に攻略はできるが、それまでにポンコツを発揮して死にまくるタイプ。初見殺しには弱い。正直テンションだけで生きてる。
体力
→サタソ様>ユウマ
満身創痍だったけど爆発爆風受けてても尻尾一本分の貫きでは全部持っていかれてなかった。ユウマはそこまで体力が多くないので、ハサミダメージのかすりと腕一本で結構持っていかれてた。




