金銭感覚がゆるゆるなのは元からです
私が観戦席の箱から出ると、既に外は賑やかな声が響いていた。
聞き覚えのある声。先程ユウマと対戦していたサタソ様という配信者の声だ。興奮冷めやらぬ様子で声が上擦り、めちゃくちゃユウマに絡んでいる。ユウマのほうはというと、ものすごく鬱陶しそうに横を向いて彼の言葉を右から左に受け流している。
正直、今あそこに行ったら私も巻き込まれるのは確定しているので行きたくない。しかし、そっとその場から離れようとしたとき、ユウマの瞳がこちらを捉えていい笑顔で手招きをし始めた。当然、それに気がついたサタソ様も私を見てニヤリと口元を歪める。同じ配信者だ。もしかしたらお互い、一方的に知っているのかもしれない。
「ケイカ、こっちおいで」
「おっ、不殺の舞姫じゃん! なに、お前ら知り合いか?」
優しい声で「おいで」とか言われてもちっともキュンと来ないのは、多分相手がユウマだからだろうな。あの幼馴染のことである、確実に私を呼ぶことで自身がサタソ様から受ける興味や被害を減らそうとしているだけだ。それが分かってしまうから余計に口元が引きつる。
そういえば、ピニャータイベントでユウマと一緒にいたのにサタソ様がそれを知らないってことは、配信者として知ってるだけで動画は見ていないってことでいいのだろうか?
「あー、あとは若いお二人で仲良く……」
「ちょっと」
「ぶっは!」
言いながら去ろうとしたら目の前に黒い九尾が回り込んだ。
ユウマのあうんちゃんだ。先程の戦闘でもかなり活躍していたので、思わずその姿に視線が囚われる。ゆらゆらと九つの尻尾を揺らして私の足に巻きつけて上目遣い。桃色に近い瞳がうるうると見上げてきて、吸い込まれるように私は手を伸ばす。
もふっもふっである。
気持ちよさそうに目を細めて、あうんちゃんは私の腕に頬をすり寄せる。
は? 可愛すぎでは?
「あうん、足止めありがとう」
「舞姫ちゃん、本当にもふもふに弱ぇのね」
「あっ」
しまった! 逃げ損なってしまった……。
「卑怯ですよユウマ」
「逃げようとする君が悪い」
あうんちゃんは役目を終えたからか、素っ気なくするりと私の腕を抜けてユウマの半歩後ろに腰を落ち着ける。半歩後ろに佇むって……出来る妻かなにかか?
目の前のもふもふがいなくなってしまったので、軽く舌を打ってから背後を振り向く。不機嫌の頂点だ。面倒な人達に捕まった。周りは野次馬がぞろぞろと集まっているので特にやりにくい。
それに、多分サタソ様のほうは常に配信しているだろうし、私がここにいることがバレてしまう。せっかく配信なしでのんびり見て回ろうと思っていたのに……これがバレると、SNSのダイレクトメールのほうとかに「配信してよ!」って催促が来るからなるべくバレたくなかったんだよなあ。
配信するのも楽しみにしてくれているのも嬉しいが、時々はプライベートで遊びたいのである。
「まあ、捕まってしまったものは仕方ないですね。お初にお目にかかります。配信者の『ケイカ』です。どうぞよしなに」
「こちらこそよろしく。俺様は魔王『†サタソ様†』という名前で配信者をしてる。名前の前後にダガー付きのサタソ様ね」
このゲーム、別に名前被りに関しては特に制限がないからダガーなんてつけなくても同じ名前で登録できるのに……なんでわざわざ。いや、自分で魔王とか言っていることだし、そういうロールプレイをしているからこそか? やはり厨二病? ユウマもダークヒーロー気取っているわけだし、この二人は案外気が合うのでは?
「先程はいい試合を見させてもらいました。お二人とも、食いしばり系のスキルがあったり?」
二人とも……特にサタソ様のほうは明らかに致命傷を受けている中での最後の一撃だった。なかなかドラマチックでよかったし、もう一度最初から見てみたいくらいだが、なぜあうんちゃんにやられた状態でハサミを閉じられるほどの猶予があったのか。そこが気になるところだ。
「いんや、あれは体力がギリ残りしてただけだぜ。だから本当は俺様の勝ち。体力と力は他の人よりも多めになってるからね。そういう振りかたしてんのよ」
「結果的に動揺した君の負け」
「は? 俺様の勝ちだけど?」
「動揺して僕にトドメ刺しきれなかったほうが悪い。だから僕の作戦勝ち」
「遠距離攻撃とカルマ値の追加ダメージ狙いばっかに頼って、いざ普通の対戦になったら弱くなるようなやつに俺様が負けるわけがないんだけど? 状況的には俺様の勝ちだけど?」
目の前で喧嘩し始めた男二人に呆れのため息が出る。
「結果的には引き分けじゃないですか。往生際が悪い。醜い言い争いしないでくださる?」
「うわばっさり……」
「ケイカがお嬢様口調してると変だね」
ユウマこの野郎。
イラッと来たものの、煽り合いに発展するのはわりといつものことでもあるのでにっこりと笑顔を向ける。ここで対人戦とかに持ち込まれたら彼の思う壺なのでその手には乗らないぞ。こんなに野次馬が集まっているところではじめての対人戦とかやってみろ。恥を晒すことになるだけだ。
私は慎重派なので、なるべく勝てる見込みを持てたとき以外はそういうのはしたくないのである。平和主義だが、負けず嫌いでもあるのだ。負けっぱなしはやだ。
「そうそう、戦闘の感想ですが……あうんちゃんが格好よかったです。声を出していないのには気づいていましたけれど、今日はスレイプニルのパトリシアと来ていましたから、まさか交代しているとは思っていませんでしたね」
まさか、最初からあうんちゃんを連れてきていたのだろうか? それとも、途中で交代した?
「そう、君と別れた後に交代してたんだよね。それで、あれはよくやる戦法。あうんは元が神社の稲荷像モチーフだから二匹で一匹の聖獣だし、影九尾になったのは偶然だったけど化けて戦いながら相手の影に潜伏しに行く戦法が取れるようになったから暗殺に最適なんだよ」
「九尾の狐もなかなかバリエーションが多いよなー」
伝承由来のスタンダードな白面金毛九尾の狐っていうのもいるが、狐から進化が派生していくにしても本当にバリエーションが豊かだ。ゲームオリジナル種族とかも普通にいるから、進化ツリーの枝分かれは無数に存在し、その全容はまだ明らかになっていない。
こちらも検証系のクランが追っているそうだが、膨大すぎてまだまだ未発見のものも多く、発売して結構経つが『自分が初発見者になりたい』というプレイヤーにありがちな願望をまだまだ神獣郷は叶え続けてくれている形になる。
やっぱり、どうせなら『特別』になりたいもんね。
プレイヤーが思う、そんな当たり前の願望を叶えてくれるからこそ、神獣郷のプレイヤー人口は増え続けている。
「できれば最初からまた、あの試合を見たいところですが……」
「おっ、そう思ってくれんのは嬉しいね。俺様のとこのアーカイブから見られるけど……あー、でもそっちだとこっちの一人称視点になるからなあ」
「観戦席視点の振り返りが見たいんだよね?」
「そうなんですよ……録画しておけばよかったです」
そう、サタソ様の配信を見直してもいいが、それだと客観的な試合の様子を見ることができない。
困ったなあ。そんな風に思っていたときだった。
「ほんなら、うちらから試合の動画買わない〜?」
声をかけられて振り返る。
そこにいたのは、恐らく双子ロールプレイをしているのだろう二人組の女の子だった。
「動画? 買う? 撮っていらしたんですか?」
「そうそう〜、商売になる思てぇ、全試合をうちらで撮っていい試合やったやつを売り捌いてるんよ。あ、うちはリーファ、よろしゅう〜」
「わちはランファ、よろしゅうなぁ」
商売人の女の子二人が売り込みに来たと思っていいらしい。中華服モチーフの装備をしていて、リーファと名乗ったほうは梨の花の髪飾りを。ランファと名乗ったほうは蘭の髪飾りをつけている。
「それなら、いただきましょうか」
ちょうど良かったし、ということで購入手続きに入る。なんか割高な気もするが、プレイヤー同士だしまあ手数料も入るだろうと納得してさくっと買い物を終わらせる。
ユウマがなぜか呆れた視線で見てくるが、気にしない。
「散財しやすいのはポーズじゃなくてマジなんだ」
サタソ様にまでなんか言われているけど気にしないったら気にしない。
「うちらホームで商売してるから〜、ご贔屓にしてもらえると助かるわ〜」
「有名配信者にご贔屓にしてもらえるならぁ、色々サービスするわぁ」
「じゃ、フレンドになりましょうか」
「ええの〜?」
「よっしゃ、お姉ちゃん」
「うんうん、作戦通りやな〜」
騙されてる? いやいやそんなまさか。こんな可愛い子達がそんなまさか。
「うちの子もふる〜? お金取るけどな〜」
「わちの子もおるでぇ」
リーファさんが長毛の猫を抱き上げ、ランファさんが赤毛の狐を抱き上げる。
「おいくら?」
即答だった。
「ケイカ、お金の管理はレキに任せてお小遣い制にしてもらったほうがいいよ」
「あのさ、舞姫ちゃん。持ち歩くゴールドは最低金額にしておいたほうがいいぜ?」
えっ、稼いでるの私なんですけど。
なぜ私がレキからお小遣いを貰わなければならないんだ。
解せぬ。
そんなこんなで、初めての演習場見学を終えたのでした。
226話にて募集した『読者参加型企画』の感想でいただいた人物名と設定をお借りしております。
このようにして、たまに入れられそうなときにちょくちょく企画でいただいた子達を出して行けたらいいなと思っておりますので、ご了承くださいな!
今回は守銭奴の二人組。
なまりはエセなまりっぽく書いております。
次はなし鯖に戻るのでいよいよ手紙が……?




