夏休み終了間際に
「一台十五万円……」
スマホ片手にベッドに寝転がりながら呟いた。足を曲げ伸ばししつつ、ゲームをやっていた間の運動不足を解消するためにランニングでもして来ようかなと思案中だ。
一台十五万円。それは、例の神獣郷リアライズ計画のグッズの値段である。
グッズの値段である。
いやいやいや、一応これでも格安なんだよ? AIとホログラムを両立させたロボットで、しかも手触りまで再現したカスタマイズもできるんだから、本来なら何十万もするはずだ。しかしどうやっているのか、神獣郷の会社はこれを最低限の値段で提示して来ている。貧乏学生にはとてもではないが手は出せないが、少し安定した裕福な家庭の学生ならば、お金を貯めさえすればなんとかなる値段だ。
まあ、これの他に、メンテナンス費やら電気代やら、なんなら田舎だったら最新の回線工事までしないといけない別途料金がかかるうえでこのお値段という時点で、学生にはバカ高い買い物でしかないんだけどね!
しかし、安いものは安いのだ。
レジ打ちのたびになぜか「背伸びました?」「いや全然伸びてません」「それはとてもよかったです」という世間話になっていない話を毎回やる、ご近所のポンコツAIでさえ実装には何十万もかかっていると聞く。
あれだけゲームの中で自由意志を得た『生き物』をリアルで再現するとなると、かなりのデータ量が必要になるはずだ。AI情報を入れるというチップは、実はなくても問題がなかったりする。
代わりにスマホに情報をダウンロードして中継地点にして機器に入れることもできるからだ。容量めちゃくちゃ食うので、相当容量開けた最新スマホじゃないとパンクするから気をつけてね! ってホームページに書いてあったけど!
聖獣が現実空間で過ごした時間は、もう一度チップかスマホにデータをダウンロードしてゲーム機器に戻すことでゲーム内に反映するアップデートが可能だ。聖獣達にとっては、『変装した共存者と異空間をお散歩した夢』として認識することになるらしい。
あとはこのリアライズ計画のグッズが高すぎて買えない! という人向けに、ひと昔前のモンスター系アニメのグッズのように、スマホに聖獣達を住み着かせるアプリが出たりもするとか。それだとリアルにいるわけではないので、アプリ内で可愛がることしかできないそうだが、それでも連れ歩きたい層にとっては喉から手が出てきそうなほどに欲しい機能だと思う。
色々あるが、まあいい。とりあえず動画の収益化さえ始まれば高い機器でもなんとかなる。楽観的でいよう。
運営側からプレゼントされるのは一台のみ。最初はもちろんアカツキだけど……他のメンバーの分も集めるとなると数が二台、三台と増えてお値段が……考えるのは放棄しよう。なんとかなるさー。
……破産しないようにしないと。リアルで散財はまずい。
「あとはー」
海イベント直後に予告されていた大型アップデートの話だね。
アルターの言う通りにホームページを見てみれば、新たに情報のページができていた。
どうやら新しいサーバー『演習場』を三つ設置し、その演習場内ではPK禁止エリアと可能エリアで分かれているらしい。かと言って、小さな世紀末ができる場所があるわけではなく、PK可能エリアは『演習場』の名前通り、プレイヤー同士がバーチャル状態で対人戦の練習や対戦を行う試合場のみが該当するらしい。
バーチャルの中なのにさらにバーチャルとはうごごご……。要するに、怪我をしたり死んだりしても対戦後には全部治るしなかったことになるよって意味らしいが……あと、殺害カウントとかもこの場合はしないらしい。不殺の人も対人戦の練習をしたりできるという触れ込みである。
さらに、通常シナリオでは絶対に『本気』で戦うことにならないサンゴさんや乙姫ちゃんなどのNPCの『本気の対戦』もできるらしい。
どうやら夢や幻という名目で行うらしく、勝てば限定フィギュアを手に入れることができる。
ただし、これではわざわざ本編で殺害カウントを増やしてまで対戦したPK共が報われない……と思うだろう。不満が爆発しそうだと。
そのために、実はちゃんと夢対戦と本編でやる本気の殺し合いとは差別化がされているらしい。
夢対戦では、NPCキャラの『台詞』が絶対に聴けないのだ。
だから台詞回収をしたいのなら、もしくはキャラの罵倒が聞きたいなら? 殺害カウント覚悟で本編中に挑むしかなく、そういった『特別』要素を持たせることで、あり鯖の過激派からの口撃と不満を最低限まで押さえたらしい。
確かに台詞は聞きたいけど……殺害カウント増やしてまではやらないかなあ。本当に見たいなら配信者の動画見てみればいいわけだし。
と、こんな感じなのが演習場である。
この三つの演習場サーバーのことは、『胡蝶の朝霧サーバー』『九尾の夕霧サーバー』『獏の夜霧サーバー』という呼称になるらしい。他のサーバーと同じく文字通り、管理AIは蝶々と狐と獏が担っているようだ。
そしてこのサーバー実装と共に新たな『属性』も実装される。
それが『霧属性』である。
アカツキの使う姿を見えなくする誤魔化し用のスキルなども今まであったが、あれは月光や太陽光の屈折を利用した目の幻惑であり、今回実装される『霧属性』は幻影や幻惑専門のスキルや性質を持つ聖獣、神獣の持つ属性ということになるらしい。
特に、前に竜宮城で見かけた蜃気楼のシンなんかは、この霧属性が入ることになるそうだ。属性の欄がハテナになっている魔獣は何度か見たことがあるが、大体はそういう魔獣や聖獣に追加されていくらしい。
小手先の搦手スキルが多くある属性なので、霧属性が一匹いるだけで立ち回りにも随分と幅が出るだろうと考えられる。
あとは――鬼楽、海楽と続いて神楽シリーズが来るのではないかと噂されている情報がひとつ。
今回のアップデートでまた大陸の行ける場所が広がるらしいが、そのどこかに『鴉天狗の里』が実装されるという情報が出ているのだ。
鬼楽の鬼も、海楽の人魚も、どちらも人間種であり、聖獣纏をした状態で鬼や人魚と言える見た目に近づくことが特徴だった。鬼は元からツノがあったわけだけども……だから、鴉天狗も人間種だと言うのなら、きっと『神楽』に関係があるとみんな思うわけだ。
場所はホームページには一切記されておらず、自分達で見つけてみせよ! ということらしいので、大規模イベントがここで行われるかどうかは定かじゃない。
しかし、なんらかのシナリオはあるだろう、確実に。なら探すしかないじゃない!
というわけで、これからの方針は鴉天狗の里を探しつつ、霧属性を確保して、さらに演習場のサーバーを覗くってところかな。
「夏休みの宿題、全部終わらせておいてよかった〜」
私は先に終わらせておく派である。
「姉さん、夕飯の準備ができましたよ」
「はいはーい! 今行く!」
妹の声に返事をして部屋の外へ。
明日は私が夕飯当番だから献立考えとかなくっちゃね。なににしよう?
そんなことを考えながら、長い長い一日を終えるのだった。
章タイトルの名前がなかなか思いつかなくてシンプルめになりました。
もしかしたら、いいのを思いついたら変えるかも?
絆をテーマにしたお話ではありますが、あくまでゲームらしさも追求していきたい所存ですね!




