「わたしの定位置」
手紙を開く。そこに書かれていた言葉に一瞬面をくらって、それから……これが『誰から』のメッセージであるかを思い出した。
――――――――――
わたしの心はいつも静か。水面のように。
でも、滝に毒を入れられてしまってとても苦しかったときは、わたしの心も滝のようにごうごうと荒く波打っていた。どんなに言葉をかけられても、その言葉はわずかにわたしの心を揺らすだけで、滝のように波打つ心の中ではなんの意味もなさない。
滝の中に小石を放り込んでも、すぐに叩きつけられて飲み込まれてしまう。波が立ったことすら気が付かない。
たくさんの人がわたしを見た。
たくさんの人がわたしに声をかけて、一緒に行こうと行った。
でもその声はわたしには届いていなくて、もちろんあなたの声も届かなかった。
滝の水が綺麗になって、ようやくわたしはあなたの言葉が聞こえるようになって、はじめてしっかりとあなたの瞳を見て、目の前で友のために翼を得たアカツキに、少しだけ羨ましくなった。
あなたたち二人の関係は眩しくて、お空に輝く太陽のよう。
あなたは快く迎え入れてくれて、いろいろな景色を見せてくれた。
あなたは頼もしい太陽だと思っていたけれど、ときおりすごく心配になる。
強い情熱はね、身を滅ぼしてしまうこともある。だから、わたしは一歩引いたところで見守っていようと思うの。そうすれば、いざというとき、きっと助けられるだろうから。
なのに、また助けられちゃった。
深い深い海の底のような澱みの中でも、あなたはまっすぐに手を差し伸べて、わたしを掴んで離さなかった。
流されてしまわないように、助けてくれた。
あなたにはとても敵わないなあ。
だから、決めたの。
わたしもあなたになにかがあったら、必ず助けるって。
助け、助けられる。それが友達だと思うから。
あのときわたしを止めてくれた人が、あなたでよかった。
あなたについていくことを選んでよかった。
あなたの大事なところは、わたしの定位置。
わたしも、もうあなたを離さない。
守られてばかりじゃない。わたしだって、守ってみせるから。
――――――――――
待って私のシズク独占欲強い。強くない?
なにそれなにそれなにそれ尊いんだけど……!
「うぐふぅ……待って泣く」
いや違う。泣いてる。
予想外だった。手紙と言ってもみんな同じ種族は一括で同じ文面だと思うじゃん?
でも、これ完全に『シズク』からのメッセージだ。
私のシズクからのメッセージ……出会ったときから今の、私の首元でマフラーになっているのがデフォなシズクからの、『心』のこもった、メッセージだ……!
なにそれなにそれ、そんなの知らない。
ゲームで、AIで、定型文だけだと思っていたのに!
どうしてこんな演出してくるんですかねぇ!?
『落ち着け、次ログインしたらアカツキのも来るぞ多分』
コメントを見てハッとする。
あ……これ、次ログインしたときが私の命日ですね。間違いない。
「死」
『しなないで』
◇
『我ガ心ハ友ト在リシステム』のシステム情報を閲覧します。
……
…………
『我ガ心ハ友ト在リシステム』
マスクデータである『心の共鳴値』が一定値を超えることで発現するシステムの名称です。
この『心の共鳴』とは、共存者と共に活動している聖獣、または神獣が持つ『心の成長』として自然と上がっていくものをさします。
主に機械的ではなく、『心のある生物的』に個性を得た聖獣、神獣がこの一定値を超えた状態を『我ガ心ハ友ト在リシステムに適合した』と呼称します。
共存者の性格を反面教師にしだす。影響を受けて『類は友を呼ぶ』状態になるなど、初期設定およびテンプレートの思考プロセス、行動プロセスより逸脱した状態などになると、この『心の共鳴値』が高い状態である可能性が高いとされています。
聖獣はスカウトされるまでは一定の思考プロセス、行動プロセスしか持たない『データの塊』ですが、スカウト後、仲間入りをした後は共存者の影響を強く受けて学習していく『半学習型AI』であり、テンプレートデータから80%以上の逸脱を見せた場合にこのシステムが適合されます。
このシステムに適合した聖獣、神獣は過去ログを参照し、当の聖獣、神獣が共存者に相応しい・贈りたいと思考したアクセサリーをアイテムとしてその場で作成。また、聖獣、神獣の共存者に対する思考をすくいとり手紙として抽出したものをアイテム化して発現します。
手紙の内容は共存者に対するAI独自の言葉を綴ったものであり、その共存者しか持たない唯一無二のアイテムとなります。
このシステムの発現は祝福です。
データではなく、新たな『命』として尊重し、その誕生を祝福するものです。
マザーシステムAIより、共存者とそのパートナーに永遠の絆を切に願います。
この手紙は、その聖獣が「いつも思っていること」や「強く思っていること」を抜き出して文字にしたものなので、聖獣自身が手紙にしようとしてできたものではありません。故に文章は手紙の形式に囚われず、思ったことを全てつらつらと語っていく語り口になっています。
あなただけの、あなたに向けた感謝と絆の手紙。
こんなシステムのあるゲームがしたい……。




