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言の葉ウォーズ  作者: 二ノ宮明季
19/35

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   ――わたしときみのきろく――


 次の覗き穴には、それほど歩かずについた。

 百合と黒百合の覗く世界では、今度は《百合》と《蓮夜》が戯れている。

 戯れるとは言っても、「あーれーおだいかんさまーおたわむれをー」のアレではない。何やら二人で、トランプでタワーを作って遊んでいるのだ。

「あれは、何? 生産性を感じないんだけど」

「仲良くなったよ、っていう話だよ」

 百合が、ものすごく退屈そうに黒百合に尋ねた。

「見てて楽しい?」

「えー! 楽しいよ! 二人が仲良くすればするほど、ワタシのテンションマックスなんですけどー!」

「……そう」

 全然理解できなかったが、とりあえず分かった事にして続きを眺める。

『蓮夜、器用だね』

『そう? 百合にそう言ってもらえるのなら、俺、ずっと器用でいる』

『不器用にもなれるの?』

『百合が望むなら』

 へにゃ、と、百合が見た事のない顔で、《蓮夜》が笑う。締まりのない、幸せそうな表情だった。

『だって俺、百合の友達……なんだよね?』

『そうだよ。蓮夜はわたしの友達』

 《百合》が《蓮夜》の質問に、大きく頷く。今ここで見ている百合とも違う、主人公《ヒロイン》らしい反応だ。

『よく俺が一人だったのに声を掛けたよね』

『かけずにはいられないよ。蓮夜、ちょっと不思議な雰囲気持ってて近寄りがたいけど、でも、興味があったんだ』

 好奇心の塊で、周りを放っておけない。主人公らしい主人公の《百合》が、ここにいた。客観的に眺める百合としては、自分と同じ外見をしていても、中身の全く違う彼女を、とてもではないが同一人物だとは思えないな、とぼんやりと思った。

 やはり、自分は自分、彼女は彼女、だ。

『今は?』

『今も。不思議な蓮夜と友達になれて嬉しいよ』

『俺も、百合に会えてよかった』

 《蓮夜》は床からトランプを一枚拾うと、弄ぶ。

『俺、百合と同じ場所で友達になりたい』

『どういう事?』

 とん、と、新しく積み上げた瞬間――今までタワーになっていたトランプは、音を立てて崩れた。立体から紙くずに成り下がる事の、なんと簡単な事か。

『俺、この《世界》の人じゃないって言ったよね』

『うん』

 どうやらこの《蓮夜》も、自分が侵蝕者《カキソンジ》である事を《百合》に伝えているようだ、と百合は思った。

『誰かと成り代われば、俺は百合の隣にずっといれるよ』

『こら!』

 即行で《百合》が頬を膨らませた。表情筋が滑らかに動き、《蓮夜》に向かって厳しい顔をして見せる。

『それはダメだよ、蓮夜。蓮夜は蓮夜なんだから。誰かに成り代わるってことは、その誰かの人生を全部背負うって事だよ』

 彼女はここで一度言葉を切ると、幾分優しい表情に変えて言葉を続けた。

『それになにより、わたしは、今この場にいる蓮夜が好きなの。例えば蓮夜は、今この場所のわたしが変わっちゃったとして、それでも好きって言えるの?』

『……ごめん、百合』

『わかれば宜しい』

 今度は満面の笑み。ころころと表情が変わる様は、百合とは異なる物だ。

『今の話、聞かなかったことにして。これから一生、絶対に誰かに成り代わらないで、ずっと百合の傍にいるから』

 《蓮夜》が、真面目な顔で《百合》を見る。

『百合が、どうなっても』

 最後に不穏な言葉を継げると、《映像》は終わったようだ。

 百合は覗き穴から顔を離して、黒百合の白い顔に視線を向けた。

「なんか、これ……気持ち悪い」

「そんな風に言う? 自分の事だよ」

「自分だけど自分じゃないじゃん。でも、なんか……変」

 何とも言えない感情が、背筋をざわざわと這うようだ。

「変、ね。でもま、百合にそんな風に思わせる事が出来たなら成功だね」

 一方黒百合は、上機嫌にウインクなんぞをして見せる。

「じゃ、次に行こうか」

「ん。わかった」

 そうして百合は、黒百合が差し出した手を握った。

 言い知れぬ不快感を、拭い去れないままに。


   ――――

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